第29話 ヒューイの視点④――連戦――
私は騎士団を率いて、ネンチャクカマキリの討伐へ向かった。
最初の予定では中隊のみだったが、今回はタンポポ羊の討伐まで連戦するので、二中隊と戦力的にも余裕はあるが、その分兵糧に不安も残る。
期限は一週間。
それでどうにかできなけば一旦戻ると決め。私は戦いに赴いた。
前回探しても見つからなかったネンチャクカマキリは、ルドラードの森にいた。
ルドラードは王都から一日程度で着く森で、その奥にある崖近くに咲く赤い花の群生地が、今回の目的地だ。
どうやらヤツは、そこに集まってくる小さな昆虫系の魔物を狙って捕食しているらしく、人的な被害は出ていないが、殿下の目的のためにも勘弁してもらいたい。
そうして歩くこと数時間。
我々は目的の場所へと到着した。
ここからは戦いだ。
私は配下の者たちに陣形を組むように伝え、準備が整うのを待つ。
「副団長、準備が完了いたしました」
「よし、では私がおびき寄せる。それまで待機だ」
「「「「「「「「「「 はい! 」」」」」」」」」」
私はあまり警戒もせず、赤い花の群生地へと近づいていく。
これが何の花かは知らないが、綺麗に咲いているところを申し訳ない。
できるだけ散らさぬよう、努力しよう。
そう謝ってのち、私はターゲットに近づいた。
敵はネンチャクカマキリ。
どうやら私はすでにロックオンされているらしく、身の丈が三メートルほどの巨大なカマキリは、長い鎌のような手を私に向けていた。
ここへ踏み込んだ獲物を狩るのが目的なら、それも当然だろう。
ただし、今度は奴が狩られる側であるが。
私は剣を抜き、構える。
こうすることで敵がどれほどの力量かわかるのだが、想像以上に厄介な相手のようだ。
先手必勝。
私は直線的に敵へと向かう。
奴が狙いを定めて鎌のような腕を振るうその間隙を縫って、私は長く柔らかそうな胴を斬りつけた。
プシュッと血しぶきが舞う。
だがそれも深手ではないようで、ネンチャクカマキリはお構いなしにと腕を交錯させた。
ヤバい。バックステップ。でも間に合わない。
私は剣を盾代わりとして鎌のような腕から逃れると、少しばかり距離をとる。
赤い花びらが舞う。
いつの間にかネンチャクカマキリのお尻とでも言うべきか、尾のような部分が私に迫る。
チッ
接触寸前でのジャンプ。だが、これは悪手だ。
空中で身動き取れない私に、大きな鎌のような両腕が振りかざされた。
カキーン
当たったのはライアンの投げた大槍だ。
おかげで軌道がそれ、私は無事だった。
「助かった」
「いえ副団長、一人でやろうってのは無しですぜ」
「ああ、もう楽しむのはやめだ。お前たちに任せる」
「そう来なくちゃ」
私は当初の予定通り、ネンチャクカマキリを誘き寄せることにした。
敵は最早怒りで自制を失っており、誘い出すなど簡単だ。一定の距離を保って挑発すれば、すぐに近づいてくる。
こうなってしまえば多勢に無勢。一匹に対して百を超える戦力であるから、むしろ可哀そうというものだ。
まずは一匹。
回収班に任せ、我々は先へ進む。
初日でネンチャクカマキリを仕留められたのは大きい。
次の目的地はデイダラ高原で、ターゲットとなるのはタンポポ羊だ。
百頭を越す群れもあるというが、果たして。
私たちは気を引き締めて、デイダラ高原へと足を進める。
あれから二日経ち。
我々はデイダラ高原へと着いた。
まずはこの広い高原でタンポポ羊を探す。
そして見つけたら、様子を見て、戦闘開始だ。
小隊(二十名)ごとに分かれて、捜索を開始。
流石に数も多かったので、簡単に見つかった。
およそ五十頭の群れ。
最悪百頭以上も想定していただけに、嬉しい誤算だ。
けれど、それでも敵の数は多い。
こちらに被害を出さずに敵を倒すには、どうしたらいいのか。
そこでいい提案をしたのが、小隊長であるリティスだ。
「大盾で武装し、こちらの数を多く見せ、ゲイル様の槍で仕留めれば被害も抑えられるかと思います」
「うむ、だが相手は魔物。人であれば恐れをなして逃げるかもしれんが、上手く行くのか?」
「はい、問題ありません。タンポポ羊は群れを成すもの。ではなぜ群れで行動するかといえば、臆病だからです。乱戦となれば勇猛果敢に戦うでしょうが、遠距離からの一撃であれば、奴らは逃げ出すことでしょう。そこで逃げ遅れたものだけを仕留めれば、こちらの被害なく戦闘を終えると考えます」
流石だ。
リティスは魔石の研究に励んでいると聞いているが、それを所持する魔物の研究も進めているのだろう。
的確なアドバイスは恐れ入る。
「よし、その案で行く。槍の射程まで近づき、そこで盾を構えて待機。あとはゲイル、任せたぞ」
「はっ、妹の提案。私が見事、完遂させてみせましょう」
こうして始まった戦いは、呆気なかった。
リティスの提案通りに事は進み、全くの被害もなく戦いを終えたのだ。
この戦いで功績をあげた者はゲイルの方であったが、私は一番の功労者をリティスであったと伝えたい。
この二人がいなければ、同じような結果とはなっていなかっただろう。
ライアン伯爵家、恐るべし。
私はそう胸に刻むのだった。
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