第28話 強のつく魔石
結局、この日を境に、僕たちの結束は深まった。
トムさんは野球の道具造りの他に魔石の研究にも力を入れてくれ、仲間たちにも声を掛けて研磨の土魔石強を探してくれていた。
土の魔石は動物系の魔物からとれることが多いため、ハンターギルドにも協力を要請。
魔石はある程度成熟した個体からしか取れず、また土魔石強ともなれば高位の存在でなければ生成されないと考え、高額で依頼まで出していたようだ。
けど、その甲斐あってか、一つだけ手に入れたとの報告があった。
「やったー」
「マルクス殿下、良かったですね」
そんな嬉しい報告に、一緒になって喜んでくれるのはリティスだ。
彼女はすっかり僕の部屋の住人となっていて、騎士団小隊長の職は辞していた。
今では僕の専属の護衛兼、共同研究者なんて地位を与えられていたりする。
もともと彼女は魔石を戦闘に利用できないかと考えていたので、僕としてもイメージを伝えることは簡単だった。
この世界における魔石の扱いは便利な道具みたいなもので、例えば王宮内では熱の赤魔石と冷の青魔石、それに風の白魔石で空調を整え、一定の温度を保つことで年中快適に過ごすことが可能になる。また髪を乾かす時に利用するドライヤーも同じ原理だ。
他にも調理場では冷の青魔石と冷の白青魔石で食料を保存し、熱の赤魔石をコンロ代わりに使って調理する。
夜になれば各部屋に点く明かりも光の黄魔石であるし、王宮内の水は全て水の青魔石を使用していた。
魔石には様々な種類があって、その組み合わせ次第では色々できるが、結局は生活魔法の領域内であり、戦いに利用するほどの効果は無いと考えられていたようだ。
と、魔石の説明はここまでにして、本題となるのは強のつく魔石である。
僕はこの世界にあるファンタジー要素を魔物がいるからと定義していたが、実際は魔石を用いた魔法にあると考え直した。
魔物がいて、魔法のないファンタジーなんて最悪だろうし、よくよく考えてみれば、僕の鑑定能力も魔法だろう。
だったら、他の魔法が存在しないというのも変な話だ。
この世界には魔力があり、それを利用する術を知らないだけだと考えれば、辻褄は合う。
けれど、ステータスに魔力は存在していなかった。
僕の鑑定能力が野球に特化したものだからと言ってしまえばそれまでだが、やはりこの世界の住人に魔法は使えないのだろう。
では、何が代わりとなり得るか。
それが強のつく魔石だ。
これまで生活魔法程度だった魔石の運用も、強の魔石を含めることで格段に進化する。
ただ現状、ほとんどその存在が確認されておらず、今回見つかった魔石も地竜を倒した副産物であった。
魔法も使わず物理だけで地竜を倒すなんてどんな猛者だよと思ってしまったが、やはり戦ったハンターたちも大怪我をしたようだ。
それでも、全員が無事に生還でき、報酬もたんまり貰ってウキウキで帰っていったというのだから、流石だと思う。
ただ、もし僕の実験が成功したら、これまでの戦い方が一変する。
予測ではあるが、遠距離からの攻撃主体で雑魚など狩り放題。今まで以上に強力な魔物も仕留めやすくなり、今後は強のつく魔石も溢れることになると思う。
前世の人は言いました。魔法はイメージが大事。
この世界にどれだけの魔石があるか知らないが、前世の知識のある僕がもし本気で魔法の代わりになり得る物を作り出したとしたら……怖ろしいことになる。
うん……、自重しよう。
僕は野球がしたいだけだしね。
ということで、僕がリティスに伝えた魔石の配分は、火の赤魔石に風の白魔石強で火炎杖を造り、研磨の土魔石強と風の白魔石強で斬撃を飛ばす風刃剣を造ること。
そしてもう一つ。癒しの黄魔石強と水の青魔石で回復ポーションができることだ。
もちろん三つめは難しいと思うが、僕が本当に伝えたかったことは、黄魔石に癒しの効果があるということ。
どうやら今までは光しかないものと考えられていたらしく、効果の無いものは不良品と判断され廃棄されていたらしい。これはとんでもなく勿体ないことだと思う。
というのも、魔石は時間の経過で効果が失われる性質を持ち、使わなくてもいずれはただの石へと変わるのだ。
その使用期限がどの程度かは不明だが、廃棄されていた黄魔石のほとんどが石ころとなっていた。
残った僅かな黄魔石をリティスが入手。兄ゲイルに手伝ってもらい実験してみたところ、わざと手に付けた傷もたちどころに治ったという。
ふふふ、癒しの黄魔石が証明された瞬間であった。
これで今後黄魔石は光と癒しに分けられて保存され、安定的な供給がなされれば安泰だが、もともと廃棄されていた黄魔石は数が少ないらしく、また所持している魔物も限定的であるため確保は難しいようだ。
まあ、ゲームでも癒しの杖はレアな装備であるし、量産は難しいのだろう。
それでも明るい未来が開けたと思えば、良しとするしかない。うん、うん。
なんてことを考えていると、僕を呼ぶメアリーの声が聞こえてきた。
「マルクスさま、妄想はお済みですか?」
「あ、うん……」
「はい、それは良かったです。只今、ヒューイ様が参られておりますので、お通ししてもよろしいでしょうか?」
「え、ほんと! すぐに通して」
僕はヒューイとの久々の再会が楽しみで、立ち上がったまま彼を出迎えてしまうのだった。
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