第27話 風の白魔石強の威力は……
若干の緊張感を覚えつつも、魔石の実験は始められた。
トムさんは火の赤魔石を手に取り装置の左端に置き、右端には緑魔石を置く。
「坊ちゃん、見ておるのじゃぞ」
「うん」
言われた通り僕がジッと見つめていると、トムさんは緑魔石の近くにあったレバーのようなものを引いた。
すると、少し遅れて火の赤魔石から小さなロウソクの炎みたいなものが出たのだ。
うん、チャッカ〇ンだ、コレ。
本物のチャッカ〇ンとは比べものにならないほどの大きさだが、長い筒状の装置は見た感じそのものと言っていいだろう。けれど、同じような仕組みでもっと小さなものが実用化されており、単に僕がわかりやすいように見せてくれただけだった。
でも、これに風の白魔石強を加えるだけで火炎杖なんて物も作れてしまうのだ。
よく今まで開発されていないものだと、不思議に思う。
とはいえ、僕みたいにその効果が確実にわかればいいが、実験となるとそうはいかない。たまたま風の白魔石強を使ってみたとか無い限り、普通の風の白魔石を使うだろうから、火力も多少強化されたに過ぎないのだろう。
なんて思っていたら、トムさんが風の白魔石強を手に取った。
「それでは坊っちゃん、これに白い魔石を足したらどうなると思うかの」
「え、いや、ちょっと待って……」
不意な質問に、僕は焦りを覚える。まさかと思うが、アレをセットするつもりじゃないだろうか。
けれど、そんな不安は的中するもの。
まともに答えられなかった僕に代わり、リティスが元気よく手を挙げた。
「はい! 火の勢いか増すと思います」
「うむ、そのとおり。正解じゃ。流石はリティス嬢、よく勉強しておるようじゃのう。では、見ておるのじゃぞ」
げっ、マズい。このままじゃ大惨事だ。なんとか止めないと。
火炎杖なんて作れる威力なら、こんな建物なんて、一発で吹き飛んじゃう。
えっと、えっと、あっ、そうだ!
「ねえ、トムさん。先にその白い魔石の効果が見たいな。その方が、違いもよくわかるよね」
「うむ、いわれてみれば……。坊っちゃん、よくお気づきになられた。では、先に白い魔石の効果をみてみましょう」
そう言ってくれたことで、僕は助かったと思いホッと一息つくが、それはまだ早かった。
トムさんは火の赤魔石を外し、風の白魔石強をセットし直した。そしていざ実験となったところで、とんでもないことを口にしたのだ。
「それでは坊ちゃん、白い魔石の前に立って効果を確かめてみてくだされ」
「えっ……」
その不意打ちに、僕は固まった。
けれど、トムさんはそれを僕が怖がっていると捉えたらしく「さあさあ、怖がらずに」と、促すではないか。
絶対にヤバイと知っている僕に、その選択肢は無い。
助けを求めるようにメアリーへ視線を送れば、彼女も頷いてくれた。
「ダメですよ、トムさん。マルクス様にもしものことがあったら、どうするのですか。あなたのクビだけでは済まされませんよ」
「いや、まあ、それほど危険ではないのじゃがのう……」
メアリーから注意を受けるも、どこか納得いかない様子のトムさん。
でも、彼女の言葉通り僕に何かあれば、この場にいる全員が罰せられるのだ。冗談では済まされないのである。
そこで、僕の代わりにと手を挙げたのはゲイルだ。
「では、私が殿下の代わりに引き受けましょう。この身体ですから、何かあっても問題ありませんよ、ハハハ」
と、余裕ぶっているけど、実際はどうだろう。風の白魔石強の効果を僕は知らないから何とも言えないが、アレだけ鍛え上げられた筋肉なら大丈夫だよね。
なんて思っていたのだけれど……、まあアレだ。
先程同様、トムさんが緑魔石横にあるレバーを引くと、その瞬間「うぐっ」「ドゴッ」と、ゲイルが吹き飛ばされて壁に激突。
「…………」
「…………」
「…………」
「な、なんじゃこの魔石は!」
ああ~、やっぱそうなるよね。
想定外の威力に僕とメアリー、リティスは言葉も出ず、トムさんだけが驚きの声をあげていた。
ナンマンダブ、ナンマンダブ……。
「惜しい人物を無くした……」
「いえ、殿下。生きてますって」
僕の何気ない呟きに、むくりと起き上がったゲイルが答える。
どうやら彼はどこも怪我をしていないようで、パンパンと埃を払い立ち上がった。
「トムさん、さっきのは何ですか。もし殿下がアレを受けていたら、大事になっていましたよ」
そう強い口調で問い詰めるゲイルであるが、トムさんは彼にではなく僕の前で深く頭を下げた。
「申し訳ございませぬ。まさかあのような魔石が混ざっておるとは露知らず、御身を危険な目に晒してしまうところでした。いかような罰でもお受けいたしますので、何なりとお申し付けください」
いつものような老人口調ではなく、礼儀正しい物言いで謝罪の言葉を述べるトムさん。
けれど、僕に彼を罰するような意思はなく、むしろ悪戯が成功したみたいで楽しかった。
なので、僕からの言葉はもう決まっている。
「頭をあげて、トムさん。あなたは僕の協力者なんだから、そんな失敗くらいで落ち込まないでよ。それより、あれってたぶん白魔石強だよね。これで土魔石強が見つかれば、斬撃を飛ばせる武器ができるんじゃないの? 調べてみようよ」
そう言って、彼をなだめる。
まあ、ちょっと意味は違うかもしれないけど、昔からピンチはチャンスなんて言葉もあるし、この機会を利用しない手は無いと思うのだ。
けれど、トムさんはまだ俯いたままだった。
でも、そんな危機を救ったのは、まさかのリティスだ。
「そうですよ。ほら、他の白い魔石なんて、こんなもんです。トムさんだって白魔石強が入っているなんて知らなかったんだから、もし裁かれる人がいるとしたら、これを判定した人たちだと思いますよ」
そんなことを言いながら、彼女はいつの間にか普通の風の白魔石に取り換え実験を行ったのだが、その威力は一般的なドライヤーの中程度で、もちろん誰かを吹っ飛ばすようなものではなかった。
「ふふふ、そうですね。でも、マルクス様で試すのはやめてくださいね」
「うむ、二度とそのようなことはせん」
「まあ、俺も強く言い過ぎた。そうだよな、見た目だけじゃ違いないんてわからねえもんな」
そう言って、三人は笑顔を見せる。
特別大きい魔石ならおかしいと思うかもしれないが、この風の白魔石強は、ただの白魔石とそう大きさは変わらなかったのだ。
けれど、やはりケジメは必要らしく、僕の望みを全力で叶えることでそのバツとした。
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