第23話 万能、テキスト欄
正直に言おう。
僕はズルをしていた。
あの日、トマスから魔石について教えて貰ったあと、僕はあることに気がついててしまったのだ。
あれ、これってテキスト欄に記入すればいいんじゃねえ……。
思い立ったら吉日。僕は早速ステータスウィンドウを開き、テキスト欄へ記入。
乾燥機に必要な魔石、検索っと。
『風の白魔石、風の白魔石、緑魔石』
マジ? じゃあ、例えば炎の杖って入れてみたらどうなるの?
『火の赤魔石、風の白魔石強、緑魔石』
……作れるんだ。
でも、強ってのは初めて見たな。これは検証が必要だね。
じゃあ、次は……。斬撃を飛ばせる剣なんてのもいいかもしれない。
『研磨の土魔石強、風の白魔石強、緑魔石』
うわっ、マジか。でも、これって凄くない?
僕が思いついたやつを記入すれば、全部作り方がわかっちゃうんだ。
う~ん、でも、どうやってこれを伝えよう……。
そんな悩みを抱きつつも、無策でこの場に突入。案の定、現在困っているわけだ。
僕の秘密を
でも、そんなのイヤだ。
前世平和な日本人だった僕に、そんなことが許容できるはずがない。
もしそれで戦争になるくらいなら、野球で勝負して欲しいくらいだ。その年に勝った国が一番偉いみたいな感じで、年末にはまた世界野球大会が開かれて、次の年の覇権を決める的な。
うん、素晴らしい。
「坊っちゃん?」
「あ、うん、ちょっと待ってね」
どうしよう……。
よし! 決めた。
よく考えてみたら、なにも秘密を教えろと云われているわけでは無いのだ。
だったら、調べたヤツじゃなくて、簡単に想像できるものから広げて行けばいいだけなんだよね。
「えっとね、これも夢で見たんだけど、ヒューイが剣から斬撃を飛ばしていたの。それで、どうやってるのって聞いたら、これは土の魔石と強化された白魔石を合わせて飛ばしているって、言ってたんだ」
勝手に名前を出して申し訳ないが、夢の中としているので良しとしてもらいたい。
もちろんヒューイが本当に言ったわけではないし、これはあくまでもたとえだ。
誰も見たこともない人物よりも知っている人の方が分かり易いだろうと、敢えて名を使わせてもらった。
けど……。
「ほう、ヒューイ殿が……。彼はあまり魔石を重要視しておらん人物じゃったがのう。まあ、坊ちゃんの夢の中では仕方ありますまい」
って、そうなの? ヒューイ……。
もしここに彼がいたら、僕は間違いなく残念な人を見る目で見てしまったに違いない。でもまあ今はいないから、いいか。
「ですが、内容に関しては興味深い話ですじゃ。土の魔石は研磨石とも呼ばれていて砥ぎ石代わりに利用されておるのですが、それと風を起こす白い魔石を合わせるのですか……」
「うん、でも白魔石にも強さがあって、それを強魔石って呼んでた。たぶん魔石にも強弱の区分があるんじゃないかな」
僕はなんとか風の白魔石強の意味を伝えようと頑張ってみた。
その甲斐あってか、トムさんは信じてくれたみたいだ。
「ふむ、やはりそうではないかと思っておったが……。坊ちゃん、さっそく実験してみても宜しいですかな?」
「うん、頼んだよ。夢の中ではヒューイが簡単に魔物を倒してたから、それが武器として完成すれば、今よりももっと楽に魔物を倒せるようになるんじゃないかな」
「ええ、それはもう間違いなく。そうじゃな、リティス譲」
「はい!」
えっ、なんで……。
ここで何故か話はリティスへ振られた。
僕がその意味に困惑していると、ずっと黙っていた兄のゲイルが重い口を開く。
「殿下、妹は魔石に強い関心を持っておりまして、常々戦いに魔石を利用できないかと模索していたのです。そこへ殿下が新たな提案をなされましたので……」
ああ、そういうことか。まさかの彼女が、僕のよき理解者になるかもしれないってことね。
でも、有りか無しでいったら、有りだろう。子供の僕の言葉では難しいことも、騎士団で小隊長を務め、ライアン伯爵家令嬢の彼女なら説得力は段違いだ。
女性軽視はあるかもだけど、兄が認めるほどの魔石オタクとなれば、間違いなく上手くいく。
よし、彼女を取り込もう。
「ねえ、リティス。僕と魔石の共同研究をしてみない?」
僕がそう問うと、彼女はひどく興奮した様子だ。
「よろしいのですか!」
と、歓喜の声をあげ、僕の手を握る。
「う、うん。僕も素材を集めてくれる騎士の人たちの手助けに何かできないかなって考えていたから、手伝ってくれると嬉しい」
「はい、喜んで!」
こうして、僕は強力な助手を手にいれた。
思いがけない幸運だったけど、これで多少の無茶もできるというものだ。
僕の調べた知識を彼女に伝授しつつ、新しい魔道具の作成に力を入れよう。
そんなことを考えていると、トムさんから嬉しい誘いがあった。
「ふむ、そういうことなら坊ちゃん、魔石を見てみますかな」
「え、いいの?」
「もちろんですじゃ。トマス殿はまだ早いとおっしゃるかもしれませぬが、坊ちゃんの発想力は皆を凌駕しております。今後、魔石の解明をなされるというのなら、本物を見ないで行えることではありませんからな」
いや、前世の知識があるからなんだけど……。
まあ、そんなことが言えるわけもなく、トムさんが「では、こちらへ」と場所を移すようなので、僕はあとに付いて行った。もちろんこの場にいるメアリーやゲイル、リティスも一緒だ。
どうやらこの建物内には魔石の実験室もあるらしく、案内された部屋にはこれから使われると思わる装置が組み立てられていた。
大きさは一メートルほどで、その仕組みは順に効果を期待する魔石、補助魔石、緑魔石と、置く場所が設けられているだけで、ちょっと心許ない。もしここで強力な魔石を発動させてしまえば、一瞬で火の海なんてこともあり得そうだ。
「心配なさらなくても、危険なことは致しませぬ。ここにある魔石は、全て効果の確認が済んだ物ばかりじゃからのう」
そう言って部屋にあった箱から取り出されたものは、様々な色の魔石。赤、青、黄、緑、白、土色と一般的な物ばかりであるが、初めて見る魔石は思ったより小さく、とてもキレイだった。
「魔石って、こんなにキレイだったんだね」
「ええ、マルクス殿下。華やかですよね」
リティスは魔石を見るなり顔を綻ばす。その様子は僕の前世でオタクだった友人を見ているようで、心が和んだ。
あれ、僕の前世の友人って……。何だろう、喉元まで出ているのに思い出せない。
でもそうだった。僕は自分の名前や、家族のことも思い出せないのだから友人なんて……、高津君?
急に頭を過った名前は高津くん。確か彼は野球選手オタクで、いつも野球選手名鑑を持ち歩く生粋の変人だ。一年間に球場へ何度も足を運び、ゲームのファ〇スタやパ〇プロなんかも毎年買ってたっけ。
う~ん、彼は今何をしているのだろう。まあ、考えても仕方ないことだけどね。
「マルクス殿下?」
「あ、うん、楽しみだね」
「は、はい……?」
や、やべえ、彼女疑問符だ。
余計なこと考えちゃってたから、全く話を聞いていなかったよ。
でもまあ、いいや。それよりも、あそこにある魔石を鑑定。
『火の赤魔石 火の赤魔石 熱の赤魔石
水の青魔石 水の青魔石 冷の青魔石
光の黄魔石 光の黄魔石 光の黄魔石
起動の緑魔石 起動の緑魔石 起動の緑魔石
風の白魔石 風の白魔石 風の白魔石強
研磨の土魔石 研磨の土魔石 研磨の土魔石』
一個だけ風の白魔石強があるけど、あれって気づいているのかな。
もし使うようだったら、さりげなく伝えてみよう。
僕は鑑定結果を見て、少しばかり不安になった。
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