第22話 魔石の効果は組み合わせ次第

 全くなにも起こらずに、管理小屋へ到着。


 うん、わかってた。

 中庭なんてすぐだしね。


「おお、坊ちゃん。お待ちしておりましたぞ」


 すでに先ぶれを出していたので、スムーズにトムさんと会えた。


 これから行うことは野球関係の話だけど、一緒に魔石についても聞くつもりだ。

 トムさんなら、もっと面白い話を知っている気がするんだよね。


「どう、進んでる?」


「ええ、こちらがご依頼のボールとグローブ。まだ数は少ないですが、着実に増えておりますぞ」


 僕はトムさんが見せてくれたボールを手に取り、感触を確かめる。

 予定通り少し硬めで、これならグローブにボールの型を作れそうだ。


「いい感じだよ。じゃあ、これを騎士団の訓練場へ運んで。使い方は後日、僕が説明するから、それまでは触らせないようにしてね」


「わかり申した。じゃが、今ある分だけでよいのかのう」


「うん、新しくできたヤツは、また溜めといて」


「では、そう致しましょう」


 と、ここまでは予定通り。

 次は進捗状況を知りたいバットだ。


 完成まで半年という条件を付けられ若干不服なのだけど、それが乾燥というのなら仕方がない。

 けど、もしかしたらそれを早める方法を、見つけたかもしれないんだよね。


「トムさん、バットはどうなってるの?」


「では。まずはこちらをご覧ください」


 トムさんが僕に差し出したのは、設計図通りに作成された、紛れもないバット。 

 ただ、素材が違うのか、硬すぎる印象だ。


「ちょっと、硬そう」


「ええ、こちらは樫材と言いまして、非常に硬い樫の木を素材にして型を削ってみました。形状なども含めご確認をいただけたらと思いますが」


「うん、形はバッチリだね。でも、あんまり硬い木だとボールの方が壊れちゃうかもしれないから、柔らかいアオダモが理想かな。でも、将来的には硬いメイプルバットなんてのもいいかもしれない」


「ふむふむ、形状はこのままで良いと。わかりました。では、アオダモ材ができましたら、この形状で試作してみましょう」


 そう言って話を終わらせるトムさんに、僕はある提案をする。これは魔石に関係のある話で、聞いてくれるかどうかは難しいところだ。


「そのことなんだけど、先日の王子教育の時に魔石について教えて貰って、これを利用できないかなって思ったんだ」


「ほう、魔石ですか。どのような利用方法ですかな?」


「えっとね、白い魔石を使った魔道具なんだけど、例えば同じ配列内に白い魔石を二つ並べて置いたら、威力って上がらないのかな。髪を乾かす時に使う魔道具には赤い魔石と白い魔石が使われているでしょう。だから、これを白白にしてみたらどうなんだろうって思ったの」


 そう、それは単純な発想。熱を発する赤い魔石に風を発生する白い魔石を繋げることで温風が発生するのだ。だったら、風に風で威力が増すとなっても不思議ではない。


「おお、それは面白い発想ですな。単純に白い魔石から発生する風は、魔石の大きさによって変わるとされてきましたが、組み合わせ次第で自在に変えられるとなれば、様子も変わってくることでしょう。試してみる価値はありそうですな」


「そうだよね。もしそれが上手くいったら、自然乾燥を待たなくても、ちょっとは早くできるんじゃないかなって思ったの」


「ええ、可能でしょう。ですが、それよりも……。坊ちゃんは、もっと儂に聞きたいことがあるのではございませぬか?」


 あ……、トムさんは感がいいって忘れてた。


 あまり複雑な組み合わせを伝えてもと思っていたけど、もうこうなったらまた夢ってことにするしかないか。


 でも、同じ魔石を繋げる発想を、なぜこの世界の人たちは考え付かないのかなあ……。

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