第21話 まさかの兄弟
あれから暫く、僕はお散歩と称し魔石の鑑定ばかりを続けていた。
普段全く気付けなかった魔石でも、よくよく目を凝らしてみれば、けっこうあるもの。
部屋のシャンデリアはもちろん、廊下などにも光の魔石が取り付けられているし、洗面所にある水の魔石も見つけた。
お風呂場でも魔石を探そうとしたけど、入浴を補助してくれるメイドに止められてしまい、代わりに髪を乾かすドライヤーみたいなものに熱の魔石を見つけ、部屋の空調を整えるエアコンみたいなものには熱と冷やす魔石があったりと、けっこう楽しめた。
他にも厨房へお邪魔してみたら熱の魔石を使った魔導コンロや、白青混合魔石を使った冷蔵庫に冷凍庫。オーブンレンジみたいなものは無かったけど、窯の火は魔石を利用しているのもわかった。
でも、よく見かける魔石は赤と青と黄色ばかり。
あ、黄色の魔石というのは光の魔石を指す言葉で、どうやら僕が部屋の明かりについて質問したから、光の魔石と教えてくれたようだ。
だから正式には赤、青、土色、黄、白、緑の魔石となる。
これに五属性を合わせると、火、水、土、光、風、そして緑は何になるんだろう。
しいて言えば、電気? 乾電池的な役割をしているなら、それでいいような気もするけど、どちらかというと魔力かな。
けれど、やっぱりこの世界にも魔力は存在していて、ただ使い方がわからないだけな気がする。
そのため魔力の蓄積された緑の魔石を電池代わりにし、魔石の持つ力を発揮させているのだと思う。
僕だったら緑の魔石を必要とする判定装置に掛けなくても一目でわかるけど、それを説明すると、僕の秘密もバレちゃうからね。
でも、本音はまだ判定できていない魔石を見てみたい。
じゃあ、どうすればって。
こんな時こそトムさんに相談だ。
けど……。
「ねえ、メアリー。トムさんのところに行きたいから、ヒューイを呼んでもらえる?」
そう、僕はここのところ彼を見ていないのだ。いつもなら僕の護衛は彼が付いてくれるのに、最近はゲイルばかり。王宮内だからというのもあるのだろうが、正直ちょっと寂しい。
だけど、やっぱり来たのはゲイルで……。
「申し訳ございません、殿下。ヒューイ殿は王命を受けて外出しておりますので、王都にはおりません」
「そう……」
別に彼が嫌というわけではないが、記憶を取り戻した僕が最初に頼った人物だったというのが大きい。
メアリーといい、ヒューイといい、僕の中では特別な存在として認識されてるのだ。
少しばかり落胆する僕に、メアリーがあることを教えてくれた。
「マルクス様。ヒューイ様は残念でしたが、今日はゲイル様だけでなく、もう一方いらっしゃっておりますよ」
「えっ?」
そう言われて見てみると確かに大柄なゲイルの後ろに隠れてはいたが、女性が一人いるようだ。
「お初にお目にかかります、マルクス殿下。私はゲイル様の下で小隊長を務めるリティスと申します。今後は大隊長に代わり、おそばに控えさせていただくこともあるかと思いますので、覚えていただけたら幸いです」
僕にそう挨拶をしたのはリティスという名の女性騎士。赤茶けた髪色に空色の瞳、身長はスラリと高めで、細身なのにガッチリした体形に見える。
装備も帯剣をしているだけで、あとは軽装と言っていいだろう。
ヒューイやゲイルもそうだけど、僕の護衛に来る騎士たちは物々しい雰囲気など出さないようにと、鎧などを身に付けないようにしているらしい。
まだ子供の僕が怖がらないようにとの配慮だろうが、近衛騎士たちもいるし問題ないのだと思う。
でも本当の理由は、やっぱりアレだろうね。
「申し訳ございません、マルクス殿下。お願いがあるのですが……。少し抱っこさせていただいてもよろしいでしょうか?」
だよね。なぜかみんな僕を見ると抱っこしたがるんだよ。僕ってそんなオーラ出てる? ご利益的な。
まあ断る理由もないので、僕は「うん、いいよ」と、両手を差し出した。
「それでは失礼して……。ああ、かわいい。癒されます。でも、ゲイルお兄様の言ってたとおり、殿下は抱っこが好きなんですね」
ん、今なにか不穏な言葉が聞こえたような……。いつの間にか僕が抱っこされたがっていると思われてるの?
それに、ゲイルお兄様って。彼女、ライアンの妹かよ!
僕はどこか納得できない思いを抱き、そのまま自然な流れでリティスを鑑定。
ステータス
(名前) リティス・ライアン (性別)女性 (年齢)十九歳
(所属) ライアン伯爵家三女
王国騎士団小隊長
(能力)
(ちから) 33/60
(スタミナ) 26/58
(走力) 18/32
(遠投力) 28/45
(守備力) 22/36
(長打力) 31/52
(指揮力) 24/38
うわっ、マジだよ。
ライアン伯爵家の三女で十九歳か。基礎能力もどちらかというと腕力系に振られているし、よく見れば顔立ちも似ているような気がする。
けど、こいつ。妹に何吹き込んでんだよ。
僕はもう五歳だから抱っこは卒業しているからね。ただ、みんながそういうものだと思っているだけで、ほんとは自分で歩きたいの。いつまでもそんなだから僕のステータスは1のまんまなんだよ。
僕はやや不機嫌になりつつも、それを面には出さず、視界の変わる高さに喜んでいるように繕った。
いつも思っていることが顔に出ちゃう割には、頑張った方なんじゃないかな。
リティスも喜んでくれていることだし、良しとしよう。
「それでは、マルクス殿下。参りましょうか」
あ、降ろしてはくれないんだ……。
結局、僕は彼女に抱っこされたまま、中庭にある管理小屋まで向かうことになった。
護衛的にどうなんだろうという疑問はあるけど、今日はゲイルも一緒だし、万が一のことがあったとしても僕を抱えていた方が逃げるのも早いからね。
僕は諦めて身を任せることにした。
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