第19話 明かりの謎
僕はメアリーと手を繋ぎ、ゆっくりと階段を下りた。
この先は目的の地下だけど、焦りは禁物だ。特にトラブルがあるわけではないけど、探索とはそんなものだと僕は言いたい。
「マルクス様、着きましたよ」
「うん!」
子供らしく元気に返事をすると、メアリーも嬉しそうに「じゃあ、どちらへ行きましょうか?」と、尋ねてくれる。
この場所は地下といっても、先ほどまでと変わらぬ廊下が続いているだけで、何の変哲もない場所に見える。
けれど、決定的な違いは窓が無いこと。
今までは見えていた外の景色も、ここには全くないのだ。
うん、実に趣深い……。
じゃなくて、今まで何気なく過ごしてきたけど、ここにきて僕は初めて違和感を覚えた。
電気のないこの世界で、地下だというのに煌々と照り続けている明かりは何なの。
よくよく考えてみれば夜でも部屋は明るかったし、メアリーも普通に『ライトを消しますね』なんて言ってたから、気にも留めなかったのだけれど……。
でも、電気のない世界で、これは不自然過ぎる。普通に考えれば松明やロウソクなどの火明かりだろうけど、どう見てもあれは電気のそれだ。
というわけで、わからないことがあれば聞けばいい。
「ぼく、あっちに進もうと思ってるんだけど、あの光はどうなってるの?」
僕は天井より放たれる光を指さし、尋ねてみた。
見た感じ蛍光灯ではなく豆電球? って感じだけど、その明るさはLEDライトと変わらない白色光。
熱を持っているようにも見えず、不自然な感じがする。
そんな僕の感想であったが、メアリーから返ってきた言葉は、もっと衝撃的な内容だった
「あれは光の魔石から発せられているものですね。光の魔石というのは魔物から採れる貴重な素材でして、ある装置に取り付けることで、ああして光を発するのですよ」
僕はその説明を受けて、ある疑問が浮かぶ。
「光の魔石を光らせることができる装置って、どうなってるの?」
「はい、あの光の魔石はこちらの緑魔石と繋がっておりまして、このスイッチと呼ばれるものを操作することで、点けたり消したりできます。
そう説明してくれる彼女の言葉に、僕は愕然とした。
というのも、僕はこれまで何気なく生活していたが、あまり不自由に感じていなかったのだ。
普通に考えれば、もっと苦労していいはず。
なのに、それに気づかぬほど快適な生活だった理由は、魔石の活用法にあると思う。
光の魔石がライトになるなら、たぶん青の魔石は水だよね。まだ洗面所は見たことないけど、あれば付いているんじゃないかな。
そう思うと、魔石の活用には未来があると思える。
魔石の種類がどの程度あるのかもわからないけど、一度調べてみたい。
そんなことを考えたところで、僕はふと神様から届いたメールを思い出し開いてみた。
中身を確認すると……、あった。
『キミの期待する魔法は無いけど、ファンタジーは有るからね』
この意味は、たぶん僕の期待する魔法はゲームのような魔法のことだろう。そしてファンタジーというのは魔物などのことだと思っていたけど、魔石を使った魔法効果を指しているのかもしれない。
そもそも魔物がいるのに魔力がないってこと自体、不自然だったからね
光の魔石がライトなら、火はファイヤ―、水はウォーター、それに土は何だろう。風は……。
僕の脳内にいくつかの構想が浮かぶ。
これはもっと真剣に考えるべきだと、本能が告げていた。
「メアリー、もう疲れちゃった。お部屋へ戻ろう」
「あっ、お気づきにならなくて申し訳ありません。そうですよね、帰りは登りになりますので、大変でしょう。私が抱っこして帰りますのでマルクス様、こちらに」
メアリーはそう言うと、僕をスッと抱き上げ、来た道を戻っていく。
そして、その後ろをライアンが微笑ましそうに見つめていたことは……、察してくれ。
探索を終えて、僕は部屋へと戻った。
帰りはメアリーに抱っこされていたから、ラクチンである。
「ただいまー」
そう言っても、中には誰もいないんだけどね。
なんて思っていたら、中には待っている人がいた。
「あら、マルちゃんお帰り。メアリーちゃんに抱っこされて、嬉しそうね」
「ママ! あ……、母上」
「うふふ、言い直さなくてもいいのよ。マルちゃんはまだ小さいんだから、ママでいいの。ほら、言ってごらんなさい」
「マ、ママ」
「はい、よくできました」
僕にママと呼ばせて嬉しそうなこの人物。もちろん僕の母であり、立場上は王妃様だ。
本当ならあまり子供にかかわるような立場ではないはずなんだけど、どういうわけかよく遊びに来る。
お仕事はどうなっているのかと問いたいところだが、父上を始め、兄上や姉上も至って優秀なようだ。
特に上の兄上は学園で生徒会長なんてものを務めているらしく、日々ハードなスケジュールを熟しているとか。それでも、毎日僕の部屋へ遊びに来てくれるし、下の兄上も学校が終われば僕の部屋に顔を出してくれる。
上の姉上に至っては学校の後に淑女教育が待っているにもかかわらず、必ず一回は僕を抱っこしに来るのだから、もはや執念だと思う。
『この時間が大切』
なんて言ってたから、僕もお役に立てて嬉しい。
え、下の姉上は、って……。
う~ん、年の近い下の姉上は無理して僕を抱っこしようとして、落とされること数回。
出禁になりました……。
なんてことは置いといて、まずは母上だ。
「ママ、どうしてここに?」
「あら、マルちゃん。用がなきゃ、ここへ来てはいけないのかしら?」
「ううん、そんなことないよ。ママに会えて嬉しい」
「私もよ」
母上はそう言うと、僕をメアリーから引き取り抱き上げた。
身体の小さなメアリーと比べ母上は背も高く、見える景色が一変する。
「わあ~」
そんな声を出す僕に、メアリーは何処か悔しそうな様子だ。
けれど、それも仕方のないこと。やっぱり自分では見えない視点というのは興味深いもので、ついつい興奮してしまうのだ。
でも、これがいけなかった。地下までの探索とこの興奮で、僕はもう力尽きてしまったのだ。
いつの間にか僕は母上の胸に頭を預け、寝入ってしまっていた。
「うふふ、どうやら疲れていたみたいですね」
「そうね、この年頃の子は遊びに夢中になって、すぐ寝てしまうものよ」
「ほんと、そうですね。でも、可愛らしい寝顔です。やっぱりお母さまがいいのかしら」
「うふふ、あなたも母親になってみればわかるわよ」
「でしたら、マルクス様には早く大きくなっていただかなければいけませんね」
そんな会話が繰り広げられていたなど、僕は知る由もなかった。
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