第17話 王宮の探索

 ついに完成したゴムのボールとグローブ。


 僕はさっそくグローブでボールを挟み、糸をグルグル巻いて型作りを始めた。

 仕上がったばかりのグローブは硬く、僕の指では全く動かないため、こうして捕り易いように形を整える必要があるのだ。


 まあ、僕のは子供用だから、ボールがスッポリ入らないけど……。


 でも、ゴムのボールで型が作れるのかって疑問もあると思うけど、実はこのボール、最初にできたやや硬いゴムのボールなんだよね。

 記念にって貰っておいたから、こうして役に立っているんだ。


 とりあえずこのまま一週間ほどグローブを放置して、次の作業に進もうと思う。

 もちろん毎日ほどいて形の確認やオイルを塗ったりはするけど、それはすぐ終わっちゃうから。


 ということで、これから僕の行う作業は、ルールの作成。

 スポーツとして楽しむんだから、ルールブックは必要でしょう。

 学校で読んだルールブックの中身を全部覚えているわけではないけど、わかっていることだけを書き出して、いつでもゲームを始められるようにしておくつもり。


 まずは、えっと……、選手は九人、守備はピッチャーにキャッチャー、ファースト、セカンド、サード、ショート、センター、レフト、ライトと。

 それから攻撃はスリーアウト制にして、ストライクゾーンはと……、こんな感じかな。


 う~ん、思ったより書くこといっぱいあるね。そういえば、ルールブックも結構厚かったような気もするし、少しずつにしようかな。

 もう飽きちゃったから、今日はここまで。


  次は何しよっかなあ……。


「それでしたら、王宮の探索など如何でしょう。マルクス様はあまり部屋からお出になられないので、まだまだ知らないところが一杯ありますよ」


 どうやら僕のひとり言を聞き取ったらしいメアリーが、そんな提案をしてきた。

 僕は面白そうだしちょっといいかなと思い、そのまま頷いた。


「それ楽しそう。すぐに準備して」


「はい、かしこまりました。護衛を呼びますね」


 チリン、チリン


 ガチャ


「お呼びでございますか?」


「マルクス様が王宮の探索にお出になります。至急、誰か護衛を呼んでください」


「かしこまりました」


 僕からの返事を聞いて、メアリーはすぐに近衛騎士たちに指示をだした。

 近衛騎士の一人が護衛を呼びに行き、一人の騎士を連れてくる。


 それは……。


「いやあ殿下。久しぶりですな」


「えっと、ライアン?」


「ガハハハッ、覚えていただけていたようで何よりです。どうです、これから。一緒にトレーニングにでも」


「いや、ちょっと一杯みたいに言うな! これだから脳筋は……」


 そう、僕の護衛に来たのはいつものヒューイではなく、ライアン。

 もちろんこれから向かう先は屋外ではなく王宮内の探索なのでヒューイでなくてもいいのだけど、何故こいつなんだ?

 正直、僕にやたらと筋トレさせたがる面倒な人物なので、少々苦手だ。


 なんて思っていたら、メアリーが彼に小言を言った。


「もう、ライアンさん。マルクス様はこれからお散歩に出かけるのですから、あなたは私たちの警護をしつつ、後ろから付いてくるだけですよ」


「ガハハハッ。久々に殿下と会って、嬉しくなっちまってな。まあ、今日のところは後ろに控えているさ」


 何が楽しいのか大きな笑い声をあげるライアン。


 だけど、僕としても素材集めで頑張ってくれている彼を無下にしたくはないから、おとなしくしていてくれるならそれでいい。


 僕は気を取り直して、メアリーと一緒に部屋を出る。

 近衛騎士の方たちは部屋の前から移動しないので、付いてくるのは彼だけだ。


「マルクス様、まずはどちらへ向かいましょう」


「じゃあ、下へいく。階段をずっと降りて、地下室まで行けたらいいな」


「地下室ですね。かしこまりました。では、参りましょう」


 僕はメアリーと手を繋ぎ、楽しく廊下をお散歩だ。


 王宮内は広く、ましてや僕の部屋は安全を期して五階にあるため、地下まで行くとなると相当な距離であり、なかなか遠い。おまけに、学校の階段のように一か所に纏めてあるわけではないため、次の階段を見つける楽しさもあったりする。


「メアリー、階段あったよ」


「はい、では降りてみましょうか」


 今まで何度も中庭までは行ってるので、それまでの階段の位置はわかる。けれど、僕が通っている中庭は三階にあり、その先の階段の場所はわからなかった。


 だから、いつものように中庭へ出ず探し回ったところ、偶然にも警護に立つ近衛騎士二人の横を通り過ぎたところで、それを見つけたのだ。


 僕は階段探しを楽しみつつも、初めて降りる二階に興奮していた。


 一見するとそう変わりのない廊下だけど、キレイに磨き上げれた甲冑に、『開運! なんちゃら鑑〇団』にでも出てきそうな絵画や花瓶などの陶器類が数多く飾られていたのだ。

 見える扉の数も少なく、それだけでここが特別な空間なのだとわかる。


「ねえ、メアリー。ここは何をする部屋なの?」


 僕は扉を一つ開けてもらい、中を覗いてみた。


 そこは何もない大きなホールで、パーティでも行われるのかと思っていたけど、どうやら違ったみたいだ。


「この部屋はですね。国王陛下と王妃様がダンスを行うところですよ」


 それはまさかの答え、全く想像もできなかった。


「父上と母上がダンス? こんなところで?」


「はい、それはもう、お二人だけの空間ですから」


 そう言いながらもウットリと頬を染める彼女の姿は、憧れを抱いているようでもある。


 もちろん側仕えや護衛もいるはずだから二人きりってことはないだろうが、夫婦だけのプライベート空間とは羨ましい限りだ。いつか僕もメアリーと……。


 そんな思いを抱いていると、メアリが僕の手を引っ張った。


「マルクス様、一緒に踊ってみませんか?」


「え、いいの?」


「はい、もちろんでございます」


 僕は誘われるままにメアリの手に引かれ、ホールの中央へ進む。そして流れるメロディーはないが、彼女にリードされながら踊った。

 ハッキリ言ってダンスとはいえない酷いものであったが、僕は楽しくって、時間が経つのも早い。


 もう、終わりだ。


「いかがでございましたか?」


「うん、すっごく疲れた。でも、楽しかったよ」


「うふふ、私も楽しかったです」


 そう微笑む彼女は、実に可愛い。

 僕は顔を真っ赤にして俯くと、再び彼女の手を取った。


「次に行くね」


「はい、参りましょうか」


 そんな僕たちを微笑ましそうに眺めるライアン。


 たぶん彼からしてみたら『おままごと』にしか見えないだろうけど、精神年齢十八歳の僕にはすっごく恥ずかしかったよ。


 でも、前よりメアリーと心が通い合ったような気がするんだよね。何だろう、安心感っていうの? このまま身を任せてしまいたいっていうか……。って、何言ってんだろ、ぼく。




 …………僕は気を取り直して再び探索へと戻る。

 メアリーと手を繋いで、再開だ。


 暫く二階を彷徨っていると、一階へ降りる階段を見つけた。

 けど、少し疲れてきたんだよね。さっきのダンスが止めっていうか、まだ五歳の身体には負担が大きい。


 もう、これ以上はやめておこうかな、なんて思いはするけど、よく考えてみたら僕のステータスって全く上がっていないんだ。未だオール1だし、あれだけキャッチお手玉をしてても全くだよ。どうなってるの?


 なんてことを考えていたら、僕はふとライアンのステータスが気になった。

 鑑定スキルを覚えた頃は楽しくって、いろんな人を調べてみたけれど、出てくるのは野球ゲームのようなステータスばかりで飽きてしまったのだ。


 それであまり鑑定はしなくなっていたのだけれど、訓練場での姿を考えれば、きっと凄い数値に違いない。


 申し訳ないけど、ライアンをこっそり鑑定。


(名前) ゲイル・ライアン (年齢)28歳 (性別)男

(所属) ライアン伯爵家次男

     王国騎士団大隊長

     マルクス王子の護衛

(能力)

 (ちから) 60/80

 (スタミナ)40/50

 (走力)  25/36

 (遠投力) 60/80

 (守備力) 15/55

 (長打力) 52/90

 (指揮力) 40/62 



 げっ、ライアンって名前じゃないんだ。ゲイルが本名なんだね。それに歳は二十八。まあ、予想通りかな。

 それでステータスは……、高い。ヒューイと比べれば劣るけど、十分だと思う。

 でも、やっぱ足は遅いんだ。あの筋肉だから仕方ないよね。

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