第14話 ヒューイの視点③――視察の許可――

 王都へ戻った私は陛下との謁見を済ませ、そのままの足でマルクス殿下の部屋を訪れた。


「お久しぶりでございます、殿下」


「あっ、ヒューイ。帰ってきたんだね」


「はい、ご依頼のゴムの木とアロン樹の討伐が済みましたので、ご報告を兼ねて参上いたしました。殿下が心配なされていた部下たちも、全員無事に戻って参りましたよ」


「ほんと、よかった~」


 まだ幼い殿下であられるが、自分のことよりも、まず部下たちの無事を喜んでくれる。

 このくらいの年であれば、真っ先に素材の話をしてもいいだろうに、殿下の優しさに私も救われた思いがした。


 けれど、こんな利発で可愛らしい殿下を、誰が我儘な残念王子と呼んだのか、私には疑問でならない。

 たぶん、殿下が王位継承権を剥奪されたことから揶揄して言ったのだろうが、陛下たちの態度を見れば、それが本意ではないと気づくはずだ。


 まあ、私も以前はそうであったかもしれないが、今ではハッキリとわかる。


 殿下には人に知られてはいけない、特別な秘密がある。


 トムさんは明言を避けていたが、あの様子では神が絡んでいると考えているに違いない。

 ならば、私のとるべき行動は……全力でお尽くしするのみ。


 ……いかんな、こんな調子では部隊を預かる者としては不適格だ。

 殿下の望みは、誰も死者を出さずに任務を終えること。

 そのためにも、私は心を鬼にして……。


 そんなことを考えていると、殿下もまた少し悩んだ様子。


「殿下? いかがなさいました」


「あ、うん。どうやって魔物を倒したのかなって思って」


 これはどう取るべきか。

 このくらいの子供なら武勇伝を期待するのだろうが、殿下であれば……。


「ああ、戦い方ですか。そうですね……、もしよろしければ、訓練場を視察なされませんか? 殿下がお見えになれば兵たちも喜びますし、面白いものが見れるかもしれませんよ」


「うん、見たい!」


 やはり殿下は武勇伝ではなく、魔物とのを知りたかったのだと確信した。




 翌日、私は陛下と会い、殿下の訓練場への視察許可を求めた。


 予想ではダメだしされるだろうと思っていたが、案の定、陛下は「まだマルクスには早い。もう少し大きくなってからで、良いだろう」と、反対意見であった。


 とはいえ、それで引く私ではない。


「陛下、レイナーク様はともかく、ロアール様はもう十二歳となられました。マルクス殿下とともに訓練場の視察をされても、よい頃ではないでしょうか? 陛下も一緒でれば、殿下もさぞお喜びになることでしょう」


「ふむ、そうか。私が一緒であれば、マルクスも喜ぶか」


 ああ、そっちなんだ。

 つい、そう思ってしまったが、もちろん私は顔に出さない。


 王太子殿下あられるレイナーク様は、二年前に視察を済ませている。

 それならばロアール様もと誘ったのだが、陛下にとってはマルクス様こそが重要らしい。


「わかった。私も一緒に参る。いい機会だから、レイナークも連れて行こう。勉強にもなるだろうしな」


「かしこまりました。騎士団長には私から伝えておきますので、お任せください」


「うむ、頼んだぞ」


 こうして私は陛下との話を終わらせ、殿下のもとへ急ぐ。


 殿下は「ごめんんさい。父上から許可が貰えなくて」と謝ってくれるが、私から許可を得たことを伝えると驚いた様子。

 けれど、すぐに「ありがとう」と感謝の言葉を伝えてくれるところは流石だ。


 本当に誰が我儘な残念王子と言ったのか、私は首を傾げるばかりであった。

 不毛な争いには参加したくはないが、いずれ問題にはなるだろう。その時私の取るべき行動はもちろん決まっているし、変えるつもりもない。


 ただ、殿下に尽くすのみ。


 とはいえ、その後が大変だった。

 殿下はまたトムさんとの面会を求め、そこで決まった内容がグローブを作るための素材として、ガープ牛の皮とタンポポ羊の綿毛を刈ることだ。


 ガープ牛は食育された牛であるため問題はないが、タンポポ羊は群れを成す魔物であるから非常に危険。

 遠くから攻撃できる手段で、被害を最小限におさえながら戦うしかない。

 となれば、彼を連れて行こう。遠くから破壊力のある槍を投げられる人物は、彼しかいない。


 間違いなく戦力になってくれるだろうから、作戦も立てやすいはずだ。


 私は訓練場の視察の際に殿下へライアンを紹介し、その翌日から素材の回収へと出かけて行った。

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