第2話 後悔
目を開けると、そこには心配そうに僕を覗き込むメイド姿の女性がいた。
彼女は名をメアリーといい、僕の身の回りの世話をしてくれる専属のメイドだ。
まだ十五歳と成人を迎えたばかりで、長いブロンドヘアーと青い空のような瞳に、幼さ残る可愛らしい容姿とドジっ子属性という最強コンポを持った優しい女性。
先程は意識のない僕の身体を拭く水とタオルを交換するためこの場を離れていたが、戻ってきたら目を覚ましていて、驚いてしまったようだ。
「おはよう、メアリー」
「ごめんなさい、マルクスさま。わたし、わたし……」
今にも泣きだしそうな、彼女の大きな瞳。
正直、前世の記憶を取り戻した僕としては、心苦しくもある。
「だいじょうぶだから、泣かないで」
僕はそっと彼女の髪に手を伸ばし、伸ばし、伸ばし……。
忘れてました。僕はまだ五歳。全く届きません。
でも、その手をメアリーは優しく掴み、そのまま僕の身体を抱き上げた。今度は柔らかく、僕の身体を包み込むかのように。
「ありがとうございます。マルクスさまはお優しいですね」
彼女はそう微笑んで、僕の頬にそっとキスをする。
って、アレ? 彼女、使用人だよね。
「お礼です」
どこかおどけたような、それでいて、はにかんだ笑みを見せる彼女の姿に、僕は釘付けとなった。
☆ ☆ ☆
ほんと、役得だよね。あんな可愛い子からほっぺにキスされるなんて。
前世で甲子園に出場した僕でも、こんなことは無かった。この国の最高峰、王子様だからしてもらえたのだろう。
そんなことを考えて、僕は前世の記憶を思い返してみる。
前世の僕は日本人で、白球を追う高校球児だった。それが、ドラフト会議で漏れたショックから、うっかり学校の階段から転げ落ち、打ち所が悪くて死んでしまったのだ。
何故か名前までは思い出せないけど、そこは転生させた神の仕業だろう。あまり前世に執着して欲しくないという、配慮であったに違いない。
そう書いてあるラノベもあった。
まあ、その辺は置いておくとして。
あの後、国王である父上や母上が駆け付け、兄上たちと姉上たちに散々甘やかされた僕は、頭のケガもあって、またしてもベッドへ戻された。
どうやら僕をメアリーのハグから救ってくれたのは母上らしく、その後も暫くついていてくれたようだ。
前世で早世してしまい、家族に辛い思いをさせてしまった僕としては、今世では長生きしたい。
けれど、そう思ったところでまたしても大けがを負い、家族に心配をかけていたことに気が付いた。
面目ない……。
ちなみにこのケガも、わんぱくだった僕がテーブルに登り、うっかり頭から落ちてしまったという王族としては有り得ない理由だったりする。
それでも叱らずに甘やかす親バカ、兄バカ、姉バカたちに、正直この国は大丈夫なのかと思ってしまったけれど、僕はこんな家族が大好きだ。
もう二度と、こんな心配をかけないようにしよう。
そう、胸に誓うのだった。
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