第30話 ざまぁみろなキス

「――ッ。ナメんなっ!!」


 ――「死ね!!」


 朝顔は、サナトリウムを貫通した大穴にダイブすると、ドクターの機体が出てきた方向へ身を翻し、地下に格納されていた、自身の【PANDA】に乗り込んだ。


「京太! 菫! あんた達も来なさい! このままじゃあ、あいつの――【天使のカグヤ】にサナトリウムもろともぶっ壊されるわよ!!」


「「な――!?」」


「『潮時だ』つってたでしょう!? あいつ、ここまで素直に自分の罪を認めるなんて、私に全部バレたからってここで口封じをして、何もかもをやり直すつもりだわ!!」


 俺たちの分の【PANDA】と【KOALA】を引っ掴んで、朝顔が外殻に上がってくる。ズシン、と機体の置かれる音がして、俺たちは選択を迫られた。


「乗るの? 乗らないの? 言っておくけど、乗らなきゃ一方的にぶっ殺されるだけよ」


 問いかけに、菫は弱弱しく首を横に振る。


「で、できないよぉ……ボクはドクターとは戦えない。だって、好きなんだもん。傷つけたくないんだもん……!」


「……ッ! 京太、あんたはどうなの?」


 ――戸惑いはある。


 俺たちが思うほど、ドクターは俺たちのことを愛していなかったかもしれない。

 ここで簡単に切り捨てるほどの存在――単なる実験対象や愛玩動物くらいの感覚だったかもしれない。でも、それでも――


「俺は、ドクターが好きだ」


「……チッ。あんたも所詮――」


「――だから、【KOALA】に乗る」


「「!!」」


 俺は自身の機体に乗り込み、【天使のカグヤ】を眼前に見据えた。


「俺達の持つ『感情』は、俺たちにしかわからない。だからそれを伝えるには、言葉が、対話が必要だ。だから俺は、ドクターを……力ずくで対話の場に立たせる。俺たちと平等な土台に引きずり下ろすんだよ」


「京太、あんた……よし、わかった! 援護は任せて。あんたは好きなようにやりなさい!」


「ああ!」


 勢いよく飛び出したものの、【天使のカグヤ】が持つ十二枚羽根は薄衣のようにたなびき、いかなる攻撃をも華麗に躱す。

 十二単のようなそれが色彩を放つと、俺たちの攻撃に合わせるように閃光が放たれ、あらゆる重火器も迎撃されてしまった。


 だが、銃弾による援護が得意な朝顔の機体が爆炎による弾幕をはると、全員の視界は情報を遮断されることになる。

 お互いの姿が見えないのはどちらも同じ。

 だが――


「丸見えだぜ!!」


 極彩色の十二単のきらめきが、その居場所を教えてくれた。

 俺は相討ち覚悟で、真正面からその頭を掴みにかかる。


「どうせ同じカグヤなんだ、目からビームがでるのも変わらねぇんだろ? それが……どうした」


「なっ――! ゴローさん、キミは何をするつもりで――!?」


「ドクターの眼光ビームが早いか、俺の拳が早いか、勝負しようぜ!」


 ――勝ったら、お茶を奢ってくれよ。

 前みたいな、優しい笑顔でさ……


 普通に考えれば、拳とビームなら圧倒的にビームの方が早いはずだった。

 しかし、その差を埋めたのは他でもないドクターの『感情』――

 躊躇いだったんだ。


(ああ、ありがとう。心のどこかで、まだ俺のことを心配してくれて……)


 俺は、握りしめた拳を思いきり振りかぶり、【天使のカグヤ】の顔面――コックピット部に食らわせた。

 ガシャアン!と派手な音がして、ドクターのコックピットが剥き出しになる。


 俺は自らの機体のハッチを開けて、ドクターのコックピットに乗り込んだ。

 驚きに見開かれる宝石のような瞳に、「ざまぁみろ」と心の中で呟いて。


 俺は――ドクターにキスをした。


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