第28話 戦滅兵器コアラ
「ドクターはまさか、初代のかぐや姫なんですか?」
その問いに、ドクターは内緒話でもするように、くすりと指先を唇に当てて。
「初代もなにも……現役さ♪」
長い藤紫の髪。今は白衣を纏ったその姿に、十二単の幻影が重なる。
「こうやって、目の前の男子を虜にして、告白を受けて、『愛』を享受して……なんて心地が良いんだろう! 僕の見た目はこの星では男女のどちらにも見えるようでね、サー=セリーヌという女性も、僕を大層気に入って、なんでも言うことを聞いてくれたっけ」
サー=セリーヌは確か、俺たちが身に着けているSAN値インカムを開発して、コアラ・サナトリウムを建設した張本人だ。
でも、ドクターのこの話しぶりからするに……
「サー=セリーヌはもしかして、貴女の指示でコアラ・サナトリウムを造って――?」
「そうだよ。おかげでこの世から『争い』はなくなった。だって、皆自意識を持たない廃人――『コアラ』になってしまったんだから! 争いなんて起こるわけもないよねぇ?」
白魚のような指先で、ドクターは髪を耳にかける。
京太は、他でもないそのドクターに歴史の授業で教わったことを反芻する。
サー=セリーヌによる世界的ストレス緩和という偉業を受け、ほぼ全ての世界で国民にSAN値測定インカムの着用が義務付けられた。
そうして、ストレスが異常値を示す者はリハビリのための施設に入れられて、SAN値が一定して基準値以下におさまるよう症状が緩和されるまで療養することになる。
しかし、朝顔が発見した『隠蔽された歴史』による記述は異なる。
要療養者の強制治療――その実態は、ロボトミーとも思えるような強引で凄惨な改善手術と、失敗作へのリハビリという名のユーカリドラッグの大量投与――及び矯正、体罰だったのだ。
国家からの支援と信頼、コアラ・サナトリウムという閉鎖的空間を逆手にとった問答無用で繰り返される悲劇に、皆が怯え、団体への捜査と解体を申し立てた。だが、揉み消された。
長きにわたる廃人生活、争いや活気、目標のない人々は、もはや生きているとも言いがたい。
すべきこともやりたいこともなく、己の存在意義や意味すら感じることなく、ただ呼吸のみを繰り返す――それが、『コアラ』という人々の本当の姿なのだ。
それらは全て、サー=セリーヌによる指示。つまり、裏で彼女の愛人として振る舞い助言していた、アルト・サー=ロイドによるものだった。
その凄惨な事実を、京太は知らない。けれど、今目の前にいる妖艶な美女の笑みに含まれる『感情』を、確かに感じ取っていた。
それは悪意ではなく――『願いを叶えた者の充足』だったのだ。
「ドクターは、世界から争いをなくしたかったんですか?」
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※あとがき
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