第27話 原点

  ◇


 ドクターが目を覚ましたとの報を受け、サナトリウム館内はてんやわんやの大騒ぎ。

 あの銃撃はなんだったのか、そもそもドクターは死んでいなかったのか、いや、心肺は確実に停止していた。一縷の望みをかけて、栄養補給と仮凍結処理を行っていただけだ。それがどうして?

 などと様々な憶測が飛び交うなか、長い順番待ちを終えて、ナンバー563――俺の面会時間がやってきた。


「ドクター!! 無事でよかった!!」


 抱き着きたい気持ちを抑えてうずうずする俺に、ドクターはいつもと変わらない柔和な笑みを浮かべる。


「心配をかけたね、ゴローさん。僕はこの通り、今では食事の味気無さにケチをつけられる程度には回復しているよ」


「よかった、本当によかった……!!」


 思わず目に涙を浮かべると、ドクターはそれを指で掬って舐めてみせる。


「――ん。しょっぱいね。でも、美味しい」


 その仕草が、なんだかとっても色っぽくって、また心臓がどきりとしてしまう。


「……なんてね♪」


 くすり、とイタズラっぽく笑みを浮かべるドクターの姿に、安堵と、よくわからない感情がこみ上げて。


「ドクター……俺、多分……ドクターのことが好きです」


「!!」


「ドクターが倒れたって聞いた時、頭の中が真っ白になって。夜も眠れなくって。俺が戦う意味って何だろうって考えたとき、真っ先に浮かんだのがドクターの姿で……これが『愛』なんだって、かぐや姫が教えてくれて……」


「かぐや姫?」


「はい。先日俺と菫が捕らえたカグヤの中に乗っていた異星人の子で、『愛』と運命の人を探しているっていう……」


 説明をしていると、ドクターは頭を抑えて高らかに笑い出す。


「あはは! それでかぁ!! いやぁ、おかしいと思ったよ。急に全身に電撃が走るものだから、僕にも何が起こったのかわからなくてつい仮死してしまったけれど……そうかぁ! あいつら、遂に特攻兵に『対・僕用の細胞作用電流』をこっそり付けるようになったってわけか!」


「へ――? あの、ドクター……?」


 首を傾げる俺に、ドクターはつらつらと語りだし。


「要は身内の尻ぬぐい……外来種は、ときにその惑星ほしの生態系を大きく崩し、生命に多大な影響を与える。優れた知能や生命力、文明にとって過ぎた知識は、支配のための道具となるのさ。だから奴らは、この星がそうなる前――完全に僕のものになる前に、半径数メートルの僕に作用する電流兵器をこっそりその子、かぐや姫に仕掛けておいたんだろうよ」


「ドクター……? 何を、言って……」


「あーあ。僕もここらが潮時かなぁ。この星は随分と時間をかけて手に入れて、すっごく気に入っていたのに。僕の故郷にあったような醜い争いもなくすことができたし、何より、この星の男子は二千年以上前からずーっと、僕をちやほやしてくれたっていうのにさぁ」


「星……男子……? 二千年……?」


 その言葉で合点がいった。きっとドクターは、かぐや姫と同郷なのだと。

 そうして、もしかするとかぐや姫の童話はこの人が――


「ドクターはまさか、初代のかぐや姫なんですか?」


 その問いに、ドクターは内緒話でもするように、くすりと指先を唇に当てて。


「初代もなにも……現役さ♪」


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※あとがき

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