第22話 キスして

 『一緒にいて心地いい』という思いは、次第に『一緒にいたい』に形を変えて、一緒にいればいるほど、不愛想なコアラにすらどこか懐かれているように見える優しい彼に惹かれて……


 好きに、なっていた。

 その気持ちは、みるみるうちに『恋』になってしまったのだ。


 『感情』や『闘争心』の捨てられない狂人である自分は、どれだけ薬を飲んでも『コアラ』の人たちのようにはなれないし、この気持ち――『恋』を捨てるくらいなら『コアラ』にならなくてもいいやと、ナナオは考えるようになっていた。


 私は――京太さんを好きなままの『私』でいたい。

 だから――


「菫ちゃんはともかく、あのかぐや姫とかいう子にだけは負けられない!!」


 ナナオは、堰を切ったように走り出した。

 全身全霊で、お邪魔虫をするために。


  ◇


 かぐや姫という女の子は、不思議な子だった。

 煌めく銀糸の髪を靡かせ、ぺたぺたと裸足で俺のあとをついてくる。


 俺のことを『運命の人』と呼び、やたらめったら懐いてくるし、くっついてくるし、異星から来たとかいう、わけがわからないことばかり。

 ただひとつ言えるのは、ドクターを銃撃したのは彼女ではないということだった。


「私、この星に来てすぐに貴方に捕まってしまいましたから。そのドクターという人なんて見たことも聞いたこともありませんわ」


 ついでに興味もありませんわ、と言わんばかりに、かぐや姫は腕を組んで京太に頬ずりをしてみせた。ふにゅり、とナナオよりは物足りない胸が腕に触れるけれど、俺には『恥じらい』が欠如しているせいなのか、うんともすんとも感じない。


 でも――変だな。この子のことは確かに可愛いと感じるのに。ドクターの胸に触れたときのような、体中が熱くなるような想いがこみ上げないんだ。


(やっぱり、俺は、ドクターのことが……)


 でも、ドクターはずっと目を覚まさないし、もしかすると、俺のこの想いは一生満たされることがないまま終わったりするのだろうか。

 満たされないまま、戦って、死んで……


「あ。そういえば」


 俺は、思い出したようにかぐや姫に向き直る。


「俺たちがキミを捕まえたってことは、月――本国に知られているのか? そうなると、もう追撃は来ない? 俺たちはもう、戦わなくてすむのか?」


 その問いに、かぐや姫は残念そうに首を振る。


「申し訳ないのですけれど……追手は来ます。いつ来るかはわかりませんが、私はしがない特攻兵ですもの。私の身の安全に配慮する者などいませんわ。本国での男子を巡る争いに疲弊し、『愛』を探して特攻兵に志願する女子は数こそ多くないですけれど、確実にいます。なので、今まで貴方方が迎撃してきたように、月の手の者はこれからも地球を訪れるでしょう」


「そんな……!」


「ですが、対策はあります。私は曲がりなりにも月の手の者。カグヤという機体の特徴や弱点などは心得ていますわ。『運命の人』のために同族を裏切り、その知識を伝授する覚悟もある」


「だったら……! 俺たちは救われた……のか?」


「そうなるように、私も努力いたしますわ。愛しい人」


 ふふ、と夕暮れに染まる笑みが、あどけない容姿に反して妖艶な雰囲気を醸し出す。

 ――美しい。まるで、月のように。


 つい見惚れてしまうほど、かぐや姫は、それはそれは美しい女の子だった。


「ねぇ、京太さん。私は貴方に協力を惜しまない。だからといってはなんですけれど、私も乙女ですもの、ご褒美が欲しいのです」


 そう言って、かぐや姫は両手を胸の前で握りしめて、目を閉じた。

 ぱちり、と伺うように片眼を開けて、呟く。


「……キス、してくださいませんか?」


「へ!?」


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