第20話 愛の証
(私が、京太さんを好き……? 正々堂々勝負って? それって、私が京太さんに告白するってことですか!?)
「無理無理無理っ! ぜったい無理ぃい!!」
「ンなにが?」
「だって、“あの”京太さんですよっ!? 告白とか、『好き』って言ったところで『俺もだぞ』とか返されてあっさり会話終了じゃないですかっ!?」
「んあ~。まぁ、よく考えりゃあそうかもなぁ……」
「あんな朴念仁を相手に、想いを伝えるとか無理!!」
「まぁでも、言葉で伝わらないんなら、身体で伝えりゃいいンじゃね?」
「ふえっ!?!? す、すすす、菫ちゃん!? それってどういう――!?」
「だからぁ、言ってもわかんね~なら身体にわからせるっつーか。ガツンと一発――」
――『ぶん殴って……』のくだりはナナオにはまったく聞こえていない。
(身体!? 身体で伝えるって……やっぱり“そういうこと”だよねぇ!?)
「あわわわわ……! パンダ組って、やっぱりオトナだぁ……! うわぁぁぁん!!」
「ちょ、ナナオたん!?」
ぴゃああ……! と真っ赤になって、ナナオは逃げ出す。
脳内では憧れの京太とくんずほぐれつする自身の姿が目に浮かび、居ても立っても居られなくなってしまった。
ナナオは光の速さで自室のベッドにダイブして、枕を抱きかかえて顔をうずめる。
「うぁぁああ、やっぱり無理だよぉ……!」
そうして、パンダ組の学習過程をすべて修了し、唯一の『卒業資格』を持っていた姉、ココミの遺品であるコンドームの入った机に視線を向ける。
『コレはね、ドクターから卒業のお祝いに、花束と一緒にもらったものなの。【好きな人と愛し合うことができる証】なんだって。本来なら私達は決められた人と結婚して子供を授かるのが決まりだけれど、『感情』を理解して『理性と知性』を獲得した者には、目印としてコレが与えられる。コレを持っているとね、好きな人と結ばれることが許されるんだってよ!』
そう言って、嬉しそうに『好きな人』の卒業を心待ちにしていたお姉ちゃん。
カグヤの襲撃によって、その『好きな人』と一緒に、庇い合うように亡くなってしまったと聞いたときは声も涙も枯れるまで泣いた。
この世に神様はいないのかって――『恋』は、そんなにも成就することが難しいのかって。
でも、ココミが亡くなって、色んなことをひとり考えるようになってからわかったことがひとつあった。
きっと、ココミ姉の『恋』は成就していたんだと思う。
ココミ姉と、ココミ姉を庇った『好きな人』の間には、確かに『愛』があったんだと思うって――
(私は、そう信じているもん……)
人々は、この世で『愛』を知る人間はドクターだけだと言うけれど。ナナオは、自覚していた。パンダ組の卒業資格保有者――ココミも、そうしておそらく、自分も。多分、頭では『愛』を理解している。
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