第19話 私が先に好きだったのに

「ナナオたんはさぁ、あいつのどこが好きなンだ?」


「ふえっ!? 菫ちゃん!?」


「隠さなくてもいいよ。『恋愛』についての学習が進んだうちらパンダ組からすれば、ナナオたんが京太に恋をしているのは見ればわかる。ナナオたんはさぁ、コアラ組の中じゃあ、その辺の知識や感情が進んでる方だよな? やっぱり553――ココミねぇから色々と聞いてたのか?」


 今は亡きココミは、ナナオが姉のように慕っていた狂人だった。

 ゆるふわとしたパンダ組のムードメーカーで、誰もが彼女を慕っていたし、皆にとっても姉のような存在だったのだ。

 そんな彼女と仲良くしていたナナオは、コアラ組にしては感情学習が進んでいる。


 しかし、その事実が露呈すればドクターによってクラス替えをされてしまい、京太とは一緒にいられなくなる。だからナナオは、そのことについては極力秘匿するようにしていた。


 パンダ組の最終目標は、誰からも淘汰されてしまった感情――『愛』を理解することだとされている。その人類最大の感情こそが、狂人たちの闘争心を抑制し、寛容にし、他の『コアラ』たちとの共生を可能にさせるものなのだと信じて。


 だが、先程までここには、その他ならぬ『愛』によって闘争を起こしてきたというかぐや姫が存在し、今ここには、『恋』を巡って争うことになるかもしれない二人が残されている。菫はそう感じ取ったのだろう。だから先に尋ねた。できることなら、ナナオと喧嘩なんてしたくないから。


「京太――カッコイイよなぁ」


「!!」


「京太は、ボクのことを命懸けで庇ってくれたンだ。一緒に協力してかぐや姫をとっ捕まえて、ハイタッチして――楽しかった。誰かと一緒に笑うって、こんなに楽しいことなンだなって、それを教えてくれたのが京太だったんだ。だからボクは、京太が好きだ。ドクターの次にな」


「菫ちゃん……」


「でも、ボクの一番がドクターだからって、京太のことを誰かに譲るつもりなんてない。ボクは我儘で凶暴な狂人だから、京太がかぐや姫とイチャイチャしてたらムカつくし、ぶっ潰して横取りしてやりてぇよ。でも、ボクはナナオたんのことも友達として好きだから、ナナオたんにはそういうことをしたくないンだ。だからって、『京太を寄越せ。諦めろ』なんてことを言うつもりもない。だって、ナナオたんはボクよりずーっと前から、京太のことが好きだろう?」


「!!」


「こないだ授業で習った。タイムイズマネーだっけか? ボクはバカだから、難しいことはよくわからん。でも、積み重ねてきた時間が大事なンだってことはよくわかる。ボクがドクターを目で、心で追っている間、ナナオたんは京太を追っていた。だから正々堂々勝負がしたい。ナナオたんが京太を好きな理由を教えてよ。もしそれが『敵わねぇなぁ』って理由なら、ボクは京太とキスしたい気持ちを頑張って抑えるからさ。こう見えて、ボクは一応パンダ組なンだぜ? その気になれば『恋』を抑え込むことだって……」


 どこか得意げに言ってのける菫をよそに、ナナオは突きつけられた事実に震えることしかできないでいた。


(私が、京太さんを好き……? 正々堂々勝負って? それって、私が京太さんに告白するってことですか!?)


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※あとがき

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