第16話 犯人探し

  ◇


 翌日。かぐや姫の回復を待って食事を持っていく。

 ドクターのお気に入りだった三日月型のクロワッサンを持っていくと、かぐや姫は「お月様みたいで可愛い!」とあつあつのソレを頬張り、「美味しいですわ! こんなの初めて!」と笑みを咲かせた。

 くそっ、可愛い。不覚だが、あまりにその笑みが可愛すぎる。


 『愛』というものを俺はよく知らないが、もしドクターがソレを知っていたというのなら、俺らに向けるようなあの慈しみに満ちたあの目が、そうなんだろうか。

 だとすると……


「これが、『愛』……?」


 胸に手を当てて、視線をかぐや姫と行き来させる。

 とくん、と一定のリズムを刻む心臓はいつもと変わらずにいる。

 ドクターいわく、『愛』とはこの世の全てを掌握するようなものらしいから、今回のコレは違いそうだ。


 だが、かぐや姫は目をきらきらと輝かせて問いかけた。


「これが、『愛』なんですの? ということは、私達はもはや番と呼んで差し支えないのでは?」


「番って……カップルのことか? 悪いけど、俺はコアラ組だから、愛だか恋だかその辺の学習がまだ進んでなくて。なんとも言えないけどさ、でも、なんか違うと思うぞ」


 この世の全てを掌握するような衝動……俺は、一度だけソレに心当たりがあった。

 あの、ドクターと『ご褒美』について話したあの一瞬……


「ドクター……」


 どうして、目を覚まさないんだ。

 また笑って欲しい。撫でて欲しい。

 あんなに優しいドクターが、なぜ撃たれなければならなかった?


 その理由に最も近いと思われる彼女は、俺の中では、最も『答え』から遠いように思われる。


「ねぇ、キミ……かぐや姫。キミはどうして俺たちの星を攻撃――侵略しようとしたんだ? あの兵器、カグヤの狙いは? キミたちの目的は?」


 問いかけに、かぐや姫は目を輝かせて俺と腕を組む。


「それはもちろん、こうやって『運命の人』を探し出すためですわ!!」


 すり、と懐っこい兎のような銀髪の少女。だが、言っていることは支離滅裂で、望むような答えは得られないのだろうと思ってしまう。

 だって、『愛』を知らない俺にもわかるもん。


「暴力で何かを手に入れようとするのはダメ……だと思うけど?」


 だって、今までカグヤは散々俺たちの星で好き勝手してきて。

 今更「好きだから」なんて言われても許せるはずがないじゃないか。


「ドクターを撃ったのは、本当にキミじゃないんだな?」


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※あとがき

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