第14話 囚われのかぐや姫

  ◇


 その翌日から、ドクター銃撃犯探しは始まった。

 集まったのはいつものメンツ。俺、ナナオ、菫、そして場を仕切る朝顔だ。


「殺人の犯人探しなんて、なんだかミステリー小説みたいね――というのはさておき。犯人に心当たりなんてひとつしかないわ。こんな簡単なミステリー、三文小説にもなりゃしない」


 ため息交じりに、しかしどこか楽しそうにため息を吐く朝顔。その手には、銀色のカードキーが握られていた。それは、有事の際にとドクターから菫に託されていたマスターキーだという。

 だが、肝心の菫は精神的ダメージにより困憊状態。今は朝顔が預かって、温室や武器保管庫の管理などを行っていた。


「会いに行きましょう。犯人に」


「会いにって……え。どこに? つか、犯人は誰なんだ? 勿体ぶらずに教えろよ」


 俺の率直な一言に、朝顔は訳知り顔を萎えさせて白状した。

 曰く、鉄壁を誇るドクターの身辺セキュリティを搔い潜れる者など、この世界には皆無。だとすれば、犯人は異星人しかありえないと。


「先日、あなたと菫が捕らえた『カグヤ』の中に、人型の知性体が搭乗していたの。今は独房で厳重に禁固されているわ。彼女に話を聞きましょう。十中八九彼女がドクターを撃ったのだとして、その動機くらいは解明しておかないと、すっきりとした弔いもできないものね」


「だから、ドクターはまだ死んでないってばぁ……!」


 ぐすぐすと鼻水を啜る菫を引き摺って、俺たちは階下の独房を目指した。


 そこにいたのは、両手足を鎖に繋がれ、目隠しをされた銀髪の少女――異星人にして元カグヤの搭乗員、『仮称・かぐや姫』だった。


 分厚い鉄でできた独房の扉が開かれると、かぐや姫は鬱陶しそうに顔をあげる。目は見えないはずなのだが、これだけ鉄の軋む音がすれば、来訪者が来たのは瞭然だ。


「お食事の時間にはまだ早いけれど。話を聞きに来たわ、かぐや姫」


 朝顔の澄んだ声が牢に反響すると、銀髪の少女は忌々しげに鼻を鳴らした。


「私から話すことは何もない。負け犬は死んで当然。むしろ、早く殺して欲しいくらいなのだわ」


 体躯や声の感じからして、俺や、下手するとナナオよりも幼いかもしれない。その少女は、あどけない声に反して、かぐや姫という呼び名からは想像もできないような獰猛なオーラを発していた。


「任務は失敗。故郷ほしに帰ることすらできず、無様に捕まった私に生きる価値などないわ。早く殺して」


「あ~、あ~、ごちゃクソうるせ~なぁ! 今すぐそのお綺麗な面ぶん殴ってやるから、歯ぁ食いしばれメスガキが!! よくも! ボクのドクターを――!!」


 迫る拳の風圧に、かぐや姫は目隠しの下で目を瞑る。

 しかし、その拳をいとも簡単に朝顔が止めた。


「ここで殺してどうするの、動機の解明が先よ。それに、彼女には少し不可解で、気になる点があるのよ」


 朝顔は声のトーンを少しあげて、幼子に尋ねるように問いかけた。


「なぜドクターを撃ったのか、教えて貰える? どうやってあのセキュリティを突破したの?」


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