第10話 チームプレ~、万歳!!

「死ぬ前に、一度でいいから恋がシたいっ! そのために……お前は死ねぇっ!!!!」


 移動速度がやたら遅い、防御タイプの【NAMAKERONナマケロン】が合流するのを待たず、菫が鎌を手に飛び出した。

 真白いカグヤの機体に黒い影を落として、逆光を利用した不可視の一撃を食らわせる。カグヤにも並ぶ凄まじい速さと、機体の全体重をかけた重斬撃。

 すんでのところで躱したカグヤの左腕が、火花をあげて吹き飛んだ。


「チッ……急所は外したか。次こそ脳みそカチ割ってやる!」


 菫が叫ぶと、カグヤの金の瞳がチカチカ、と点滅し出して――


「菫! 眼光ビームが来るぞ!」


 声かけに反応した菫は、陽炎が揺らぐように残像を描いて回避。身体を大きく仰け反らせると、下方向から鎌を振りかぶった。真上に、カグヤの首を捉えて。


「取ったぁあああ!!」


 ズバン! と光る円弧が首をかすめる。その避けた先で、俺は待ち構えていた。

 飛び込むように回避してきたカグヤの頭を、がっちりと両腕でホールドする。


「ひとりでダメなら、ふたりでどうだ……!」


「狂人であるボクたちは集団行動が苦手……だがなぁ。目的が合致してたら話は別なんだよぉ! チームプレ~、万歳!!」


 我ながら、即興でよくここまで息を合わせられたなと思う。だが、幸か不幸か俺と菫の間には、この戦場に立った瞬間から謎の一体感があったのだ。


 ――ドクターを、守る。他でもない俺たちの手で。


「やれ! 今だ!」


「おりゃあああああ!!」


 鈍い錆銀の火花を散らして、死神の大鎌が兎の喉元を捉えた。

 俺たちの機体よりも装甲が優れているのか、すぐには切断できない。

 だが、この勢いならいける……! 謳うように、菫が大鎌を振りかぶる。


「壊すことしか能のないお前らと違って! ボクには沢山の夢がある!! ひとぉーつ! ドクターと両想いになってねんごろな関係になり、ぐっちゃぐちゃのどろっどろに愛し合うこと!!」


 ガツン、とカグヤ越しに伝わる衝撃に俺は全力で耐えた。ここで手を離したら、人類初勝利のチャンスが元の木阿弥。死んでも、手は離さねぇ。


「ふたぁーつ! お前らの頭をぐっちゃぐちゃのどろっどろにぶち抜いて、ボクとドクターの平和を乱すクソ生意気な異星体を引きずり出すこと!!」


 体重をかけて、もう一撃。


「みぃーっつ! そのぐっちゃぐちゃのどろっどろになったお前の検体をドクターに差し出して、『よく頑張ったね』って頭を撫でてもうらうことだぁぁあ!!!!」


 そして、最後に――


「今日こそ、ぐっちゃぐちゃのどろっどろにしてやるよ! 今の今までボクらの星でよくも好き勝手暴れてくれたなぁあ! 死ね!!!! 京太ぁ、とどめはくれてやる!!」


 俺は、正真正銘首の皮一枚になったカグヤの頭を、命一杯引き千切った。

 真昼の空に浮かぶ蒼白い月に御頭を掲げて、聞いているのかわからない二本耳に問いかける。


「なぁ、知ってるか? かぐや姫ってのは、月から来た未知の生命体で。最後には、月に帰るもんなんだとよ! だからもう……二度と来んな!!」


 ぐしゃあ! と勢いよく頭を投げつけると、カグヤは完全に沈黙した。

 俺は菫と、十年来の親友のようにハイタッチをする。そして――


「「やったぁ――――!!」」


 鋼の手が擦れる不協和音も、今日は心地いい雄たけびだ。俺は菫の機体と肩を組んで、何度も何度も互いの手を叩き合った。


「やったな菫! このカグヤをサナトリウムに持ち帰れば、俺たちは一躍ヒーローだ!」


「んひゃははは! ざまぁねぇなぁ~!! 未知の機体だろうが何だろうが、解析しちまえばこっちのモン。何回来たってぶちのめしてやるぜ~!!」


 ご機嫌な菫は、切断されたカグヤの頭部をサッカーボールよろしく脚で転がす。


「はぁぁ……ドクター、褒めてくれるかなぁ? いい子いい子してくれるかなぁ?」


「そりゃあしてくれるだろ! なんたって検体確保の第一号なんだから。人類の未来を一歩、俺たちの手で切り開いたんだもんよ!」


「だよなぁ~。んああ……! ドクター、早く会いたいよドクター。帰ったらシャワーを浴びて、ドクターの膝に乗って。命一杯なでなでしてもらうんだぁぁ……!」


 恍惚と腰をくねらせる【PANDA01】こと菫。

 だが、足蹴にしていたカグヤの眼光が突如として点滅を始める。


『セルフディストラクト・システム起動』




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