第45話 真打
「本当に申し訳なかった」
深々と彼は俺に頭を垂れた。それに続いて二人も同じように頭を下げている。
「俺達は全然気にしていないよ。死ぬほど暗くてほんの少しジメジメしてたくらいだし。それより、ロウタス君達の方が心配だったかな。マゼル先生は怒らなかった?」
「情けないことだが……我はそれでようやくここに来る決心がついたのだ。君達を苦しめてしまったことをむしろ後悔している。本当に申し訳ない」
何度も謝り続けるロウタス君達を見て、俺の隣にいたハイノが突然俺の袖を引っ張った。
「……うん、分かってるよ。ロウタス君、俺達は気にしてないから……こっちはありがたかったよ。そのおかげで俺達は黒幕を見つけられたからね」
「それは本当か? 我々にも教えてくれ。手助けをしたいのだが……」
「それは無理だ。誰が黒幕なのか伝えたら向こうにも俺達が辿り着いたこともバレてしまう。ただ、決行は明日になるから三人も備えておいてほしい」
「ああ……任せろ……」
みんな、精神的に参っている様子だ。こんな閉鎖空間でまともな状態でいられる方がどうかしている。
ロウタス君達は俺の要求をすんなりと飲み込み、とぼとぼと教室へと帰っていった。
「ウチらについて何も言ってこねえんだな……そんな余裕もねえのか、
「……ともかく、準備に入りましょう。決戦は明日……オリアスはきっと俺の前に現れるはずだ」
確信の持てる発言ではないと自分でも分かっている。
だが、今までの言動からして復讐に近い悪意を発しこの舞台を作り上げたオリアスなら間違いなくそこで来るだろう。
それからの俺達は誰にも作戦をバラすことなく一日を終えた。
しれっと教室に戻ってきた俺やハイノを指摘するものは誰もいない。
精神的に余裕があるものがいないのも、閉鎖空間かつ殺されるかもしれない恐怖に押し潰されかけているのだろう。
散り散りになった後、まず俺とハイノは学園中に様々な仕掛けを設置した。
ローズには対抗戦で使用した詠唱記憶飴を渡し、使いそうな魔法を保存するようにと伝え、残りの三人にはバラバラになっている他学年の指揮を任せた。
出来るだけ死者が出ないようにするのも、俺達の役割だ。
***
万全の体制で臨む事件発生三日目の早朝。
俺にしては珍しく落ち着いている朝だった。
「……そろそろだね」
「うん、俺も来る気がする」
俺達は中庭で手を繋ぎ、奴が訪れるのを待ち続ける。
奴の気配を感じたのかハイノの手も心なしか震えている。
「【
「──おや、どうして分かった?」
俺がそう言うと、オリアスは目の前に現れた。
相変わらず彼女の全身は何かを纏っていて捉えられない。だが、これがオリアス・ワールドイーターだということだけは明確に分かる。
「俺達がお前の正体を完全に理解したからだ」
「私を理解した? 貴様に何が分かる?」
「お前はオリアス・ワールドイーター、俺の妹を魔力で殺した化物だ。そして、お前はセレス君を殺害するまでの間、ずっと俺達の中で潜伏していた……」
「つまり、私は誰だ?」
……もう答えは出てんだよ。
そう口を開こうとした途端、オリアスは俺の言葉を遮るように言葉を続けた。
「サクラモチ・クライズ、セレス・マルティエル、ナイラ・ストライキ、リリエ・フォッシュにロウタス・ムスペルヘイム……そしてローズ・ベルセリア。既に私は君の友人を葬ってしまったぞ?」
「……」
……いや、これはハッタリだ。ローズ達を殺せる訳がない。
俺はオリアスの挑発には乗らず、冷静に彼女の正体を言い当てる。
「……セレス・マルティエル。お前はセレス君の中身だったんだな。生き残った俺達の中で疑うべき人間は誰一人いなかった……一体いつからセレス君のフリをしていた?」
それが、俺達が到達した紛れもない真実。
色々な人を疑ってきたが、セレス君を殺せたのはセレス君以外にいなかった。
「メモ帳の持ち主はセレス君だった……今思えばあの情報を書き込めたのはセレス君しかいなかったんだ」
しかし、俺の発言を聞いてもなお、オリアスは動揺した素振りを一切見せずに淡々と話し始める。
「なるほど……そこまでは辿り着けたのだな? 私がいかにしてこの学園に入り込んだのか」
「……でもあなたは前に見た人と全然雰囲気が違う……どうして?」
たしかにハイノの言うとおりだ。同じクラスを過ごした頃のセレス君とは見違えるほどに随分と雰囲気が変わっている。
「はははっ! それは彼本人の人格だよ。むしろ、君達の前で私が顔を出したことは一度もない。彼が学園にいる間、私は体内で寄生虫のように生きていたのだよ」
「じゃあ俺が知ってるセレス君は本物なんだな……それなら迷いなく敵討ちが出来るぜ」
「おや、他にも聞かなければならないことがあるだろう。尋ねてみろよこの私が学園に来た目的を」
そう言うとオリアスは周りを覆っていた物から姿を表した。
中身の外見はマゼル先生と殆ど変わらない若さで、アッシュの瞳が見え隠れする長い髪に紅いドレス風の軍服を着飾り、そこはかとなく天才の雰囲気を漂わせている。
俺は初めてオリアスと目を合わせ奥に眠る感覚を探った。
オリアスはそれ気にしない様子のままゆったりとした口調で、辛い過去を語るような態度で彼女は言う。
「この物語は私の復讐劇である」
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