第38話 桃色の視界【side:ローズ】
無抵抗のネクさんとハイちゃんを生物室に閉じ込めてから数分後、教室に帰るのが怖くなった私達は誰も使っていない空き教室で話し合いをしていた。
ロウタスさんの周りにサクラモチさんとリリエさんが座り、複雑そうな顔で話し合っている。
一方で私はというと、曇ったままの空を眺めて一人考え事。
ずっと……二人のことを考えていた。
「何だか納得いかない結果になったわね……説明してくれなかったわ」
「し、心配です……」
「……現場証拠だけで行えた人物はネク、もしくはハイノしかいなかった。アリバイも含むとハイノ以外に有り得ない。それが……答えになる」
……本当にそうなんでしょうか。私にはそうだと思えません。
──と口に出すことは出来ず、沈黙を貫いていると向こうから話を振ってくる。
「ローズ、あなたはどう思うの?」
「……分かりません! でも、私はネクさんを信じていますから!」
「随分と根拠のない信用ね。あなたはさっさと教室に戻ってもいいと思うわ。リリエ達は戻っても『邪魔』だろうし」
リリエさんが自嘲気味にそう言ったが、二人の表情は変化しない。むしろ余計暗くなった気がする。
……ネクさんの為にも、今私が出来ることをやっていかなければならない。
まずは、この学園全員の身の潔白を証明して魔女狩りを終わらせるべきだ。
ここから出られるように少しでもお互いを信じ合えば、きっとどうにかなるはず!
この学園で一番怪しい人物に目星は付いている。やっぱり、三年のアイジ先輩だ!
アイジ先輩は同級生でも下級生でもお構いなしに態度が悪く、私自身が苦手意識を感じているのもあるけど、今いる人の中だと一番謎が多い人でもある。
ずっと前にネクさんから聞いた話だとギルバートさんのお父様同士で因縁があるようですし……。
「私は帰ります! やれることはあるので!」
「……念には念を入れて行動するんだぞ。何が起こるか分かったもんじゃないからな」
ロウタスさんが優しい言葉をかけてくれたのはすごく嬉しい。ただ、二人を捕まえても危険が残っているとロウタスさんも分かっているのだろう。
……私も役に立つんだ。
そう決心して私は教室を後にして三年の教室を目指した。
***
「──んで、一人でオレらの教室まで乗り込んできた訳か。何の目的で来たんだよ、殺されてぇか?」
「うッ……! は、離してくださ……ッ!」
首を掴まれ、私の軽い身体は宙に浮く。力強いアイジ先輩の腕に私は簡単に持ち上げられていた。
先輩達は私達の周りを数人で取り囲み、息が出来ずに苦しむ様子を見て不敵に笑いアイジ先輩を止めようともしない。
離せなくなる前に伝えるんだ……! 私に出来ることを!
「……協力……してくださ……ッい……!」
「協力……ハッ、脳腐ってんのか? 一年は同じことしか言えねえな」
「外に……出るには、協力しないと……ッ」
「警報のことだろ? 教師の奴らも消えて、オレにとっては都合のいいことなんだよ。何度頼まれようがやらねえ──」
「セレス君は……友達が……ころ……され」
「……あ?」
絞りだされた私の言葉を聞いた途端、アイジ先輩の腕から力が抜けた。宙ぶらりんだった私は重力に従って尻もちをつく。
アイジ先輩の右手は震え、声には出さないものの顔からは明らかに動揺しているのが分かった。周囲からも困惑した声が溢れだす。
「ア、アイジ? どうしたんだよ……」
「後輩だからって優しくしなくても……」
「俺達が代わりにやってやろうか?」
それでも、アイジ先輩は動かない。もしかすると、本当に私達以外は死者が出ていることを知らなかったんじゃ……!
もっと丁寧に詳細を伝えてみよう。そうしたら、少しは私の話を聞いてくれるかもしれない。
「あのとき鳴った警報は人が死んだからなんです! しかもその犯人がまだ学園の中にいるんです! だから……協力、私達と一緒に戦いましょう!」
「おい! 一年のクセに……それに見たことない顔、どうせ大した家でもないだろ──」
「──やめろ。オレの許可無く怒鳴るな。それよりもだ……もう一度名前を言ってみろ」
「わ、私はローズ・ベルセリアです……!」
「そうじゃねえよッ! セレスのフルネームを教えろッ……!」
慌てふためくアイジ先輩の姿を見て、さらに周りは口数を増していく。私は彼らの声を無視してセレス君のフルネームを伝えた。
「セレス・マルティエル……それが私の友達の名前です……!」
「マルティエル……気が変わった。オレを……そいつの遺体まで案内しろ」
「え……アイジいきなりどうしたんだよ? ってか誰だよ知らねーしそいつ」
「黙れ。オレには重大なことだ。早くしろ、お前」
……かなり無理やりだったけど、説得が上手く行った……?
色々と視線が気になるし空気が重い。
さっさとアイジ先輩の気がまた変わる前に教室に向かうぞっ!
そうして私は、アイジ先輩を連れてセレス君が眠る一年教室に足を運んだ。
案の定、憔悴しきった皆には赤髪の彼の刺激が強かったようで、教室に入った瞬間うめき声を上げられる。
「……ローズ・ベルセリア。勝手に部外者を立ち入らせないでください。それも……こんな人を」
「チッ。とにかくそれの顔を見せろ。オレはお前らには用がねえ!」
アイジ先輩は立ち塞がるナイラさんの横を通り抜け、一目散に隅で保管されているセレス君の元に膝を屈めた。
戸惑いながらナイラさんが視線を送ってきたので私は首を縦に振りつつも、アイジ先輩の隣で同様に座る。
「丁寧に顔まで布で覆いやがって……オレを騙したんじゃないだろうな!? 死後二十四時間は経っているだろうに死臭もねえ……」
「それは……私が魔法で腐らないように抑えているんです……! この布だって保健室からお借りしている物で清潔なんです! ただ……安全そうなのはここしかなかったので」
「そう……なのか。本当に死んだのか、この表情で」
彼の言う通り、セレス君はただ寝ているだけと言われても気付かないほど穏やかな表情をしていた。だが、彼は二度と動かない。
それを先輩も理解したのか真っ青な顔で、意外な言葉を告げられた。
「オレも捜査に参加させろ。マルティエル家を殺した罪を償わせてやる……ッ」
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