第33話 疑惑、少女と密会
今日も優しい朝がやってくる。二人が眠りについてから四時間も経過したが、特に異変は起こっていない。
事件が起こってから二日、ギルバート君率いる二組が俺達一組に勝利して六泊七日旅行の三日目に差し掛かる。奴から告げられた猶予も恐らくこの旅行に合わせているのだろう。
「もう朝だよな……? 結界の効果ってこんなに凄いんだ、流石名門校だね……」
「おっと、独り言が……ソプラ先輩〜ネクです〜起きてください〜……」
「ん……ラグちゃん……? はっ、ネクくん! 目が覚めたの!? ってこの仕切りは勝手に開けないでね! 絶対に」
「分かってますって……」
ソプラ先輩とは初めて話した気がするけど、事前に聞いていたよりも温和に感じる。同じ特待生として尊敬に値する人物でもあるので、それが案外嬉しかった。
「あの、ラグナ先輩は四時間しか寝られてないはずなので起こすか迷っているんですけど、起こしてもいいですよね?」
「ええ、私が起こしてあげようかー? よっと。ラグちゃ〜ん! 私ですよっ!」
ソプラ先輩に揺さぶられて軽く目を擦りながらラグナ先輩が目を覚ます。二人とも制服のまま大変だろうに、日常生活の一環と変わらない態度で接する余裕もあった。
「今度はラグナ先輩のベッドの方のカーテンを閉めるんですか……?」
「だって見られたくないじゃない、プライベートよ?」
「…………ラグナ先輩も、起きましたか?」
「ん……おはよう。もう朝かあ、早い」
わざわざ俺がツッコむ必要は無さそうだ。ラグナ先輩もそこまで寝ていないはずだけど、声も昨日より元気そうに聞こえる。
「それで……君はこれからどうするの? 私達でよければあなた達の教室まで一緒に行ってもいいよ?」
ソプラ先輩が優しい声で俺に尋ねてきた。
そうか、今は三年を仕切っているのはアイジ先輩で、俺達と対立しているから襲われるかもと危惧して提案してくれたのか。
だったら、その案に乗った方がいい。
「お願いします。俺も一人で行動するのは危険だと思うので」
「よし! 俺達に任せてくれよ。安全に送り届けるからな!」
そう言うと二人は特に着替えもしないまま俺を連れて保健室を出て廊下に飛び出した。
朝の午前八時、いつもなら明るい話題で騒がしい廊下もいたる所から殺気を感じるようになってしまっている。
ただ、昨日の感じからしてセレス君が殺されたことはあんまり広まっていない様子だ。むしろ、今の現状を理解している人の方が少ないのか。
二人の付添のおかげか、誰にも襲われずに俺の教室まで辿り着くことに成功するが、皆に変化は訪れていないだろうか。
「誰にも会わないね〜皆こそこそ何してるのかな?」
「自衛だろうね。俺達も危ないからネクくんを届けたら三年の教室まで戻ろうな」
「ここまでありがとうございます。俺はもう大丈夫なので……」
教室の前で俺が二人に感謝の言葉を述べていると、俺の声に気が付いたクラスメイト達が扉を開いて飛び出してきた。
「ネクさんっ! 起きたんですねっ!! 良かったです……っ!」
「ローズ……!」
俺と目があった途端、ローズは俺の胸に一直線で飛び込んでくる。彼女は涙を流していた。
それに続いて来たのはローズだけじゃない。教室で食事を取っていたマゼル先生を含めたほぼ全員が俺の周りに集まってきていた。
「バカッ! あの後すぐ気絶して凄く不安だったのよッ!?」
「ネク……無事で何よりだわ。最初倒れたって聞いたときは覚悟していたけれど……本当に嬉しいわ」
「ぐッ……先生、重い……ッ!」
一人や二人じゃ済まない重みに俺の身体が耐え切れず、俺はその場で押しつぶされてしまう。
だけども、誰もが嬉しそうな顔をしているわけでもなさそうだった。
「……ネク。水を差すようで悪いが君は何をしていたんだ。我には疑問が残る」
「あ、私も少しだけ知りたいです。ネクさんとローズさん、あとハイノさんがどうやって逃げたりしたのか教えてもらえませんか」
「俺が二人を逃した。残った俺は奴と戦って負けそうになったときに奴が俺を見逃したんだ」
これが真実。なのだが、彼らはいまいち信じきれていないようだ。なんて説明したらロウタス君は信じてくれるだろう。
「お邪魔みたいだし私とラグちゃんは帰りますね! 先生、後はよろしくお願いしまーす!」
「ええ、貴方達も気を付けるのよ。誰かに襲われないようにね……」
先輩達も事情を察したのか、矢印が向く前にここから離れていく。様々な考えがあるが、とりあえず今は昨日から何も食べていない俺は朝食を分けてもらうことになった。
「ネクさん、あの後何があったんですか! 私が逃げて二人が帰って来なかったとき本当に不安でしたよ!」
「ハイノが一人で食糧持ってきたときは思わず驚きましたが、あれもネク・コネクター。あなたの命令だったのね」
「まあ……そうだね。俺達は別れて行動して、ローズを探しに俺はあの場所に戻ったんだ。でそこで色々頑張ったけど勝てなかったんだけどね……」
自らのアリバイを説明しながら周りのアリバイについて探りを入れてみる。アリバイが不完全なのは俺だけじゃない。警報が鳴ったとき俺と一緒にいたのはハイノさんだけなのだから。
あんなに俺を疑っているロウタス君だってそれは例外じゃない。セレス君の遺体を発見する前に俺達と合流したけど、それも今となっては違和感がある。
……ローズもそうだ。あの時あの教室で集まっていた四人の誰かが明らかに怪しい。勿論、その中から俺を除く。
とにかく皆と話し合うのが大切だ。
「……ローズ。話があるんだ。食べ終わったらまた部室に一人で来てほしい」
「え! は、話ですか……? 分かりましたぁ!」
「…………」
俺達の会話に聞き耳を立てられると困る。話し合いは俺達の部室でやるのが一番安全だろうからな。今の会話も黙って聞いている人もいただろうが、会話の邪魔だけはさせたくない。
他人を信じるよりも先に他人を疑わなければ、俺達は全滅する。セレス君が殺された今、無責任な感情をぶつける意味はないんだ。
そのためなら彼女だって疑う。皆を守れるのは俺しかいない。
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