第29話 先輩と対立
「マゼル先生……」
「ネク……それに貴方達も……」
「先生……! もう話さないでください! 傷口が開いちゃいますよ!」
「……ええ、そうね」
マゼル先生の横腹にはひと目で分かるほど大きな切り傷があり、普段纏っている衣服も所々燃えてボロボロになっている。
疲弊しきった表情で辛うじて話せてはいるが、今にも気を失いそうな状態だ。
俺とローズは一目散にマゼル先生の隣に駆け寄り、今の状態を簡潔に述べていった。
「――そう……私じゃ守れなかったのね……」
「まだ終わりではないですよ。我々が残っている」
周りの物を物色しながらロウタス君は言う。それもそうだな。まだ始まってしまったばかりなんだから。
「あ、あの! マゼル先生は今何が起きてるのか分かりますか? 私達は全然分かってないんです!」
「先生も把握出来てないことばかりだけど……一つ言えるのは、私達は閉じ込められた……くらいね」
「さっきの警報……たしか学園防衛システムって言ってましたけど」
俺達が聞いたあの警報、たしか結界魔法が発動するとか言ってたような気がする。それについて詳しく聞いてみるか。
「私も初めての体験よ。結界魔法が降りている間は、中から外に出ることが不可能になるの。外から入ってくることは出来るけど……普通はしないでしょうね」
「それを解除する方法を教えてもらえませんか」
「方法は……理事長しか知らないわ。だとしても今の状況じゃ外に出ることなんて出来ないわ。……少なくとも私達を襲った犯人を見つけて取り押さえない限りは外の人達が許さないからね」
……なるほど。マゼル先生の言う通りだな。セレス君を殺した犯人を見つけるまで俺達は一生ここから出られない。
「バラン理事長はどこです? あの人には我々の保護を最優先とする義務があるはずですが」
「姿は見えない……わね。生存はしてるはずよ。あの人が敗北する訳がないのよ……」
俺もあの人が負けるとは思えない。だけど……。
「……なんか! 声が聞こえませんか!」
「声? 外から聞こえる……」
「ああ……リリエか?」
俺達はそこで外に視線を向けた。微かながらだが女性の声が聞こえたのだ。ロウタス君が言うように、リリエなのかもしれない。
「…………」
俺達は息を潜め、外の声に耳を傾ける。どうやら向こうも複数人で行動している様子だ。
「……おいおい、後輩が先輩に逆らっていいとか思ってんのか? 息を切らして必死こいて……挙句、『協力しよう』……? 対等な関係だと勘違いしてねえだろうな?」
「仕方ないでしょうッ!? こんなことになって頼れるのはあなた達くらいだったからよッ!? うちのクラスの特待生とか頼れる人は肝心なときに居なくなったし……」
二人の話し声が聞こえる。リリエとあのアイジ先輩だ。だけど、そこにいたのは二人だけじゃない。
二人はお互いのクラスを率いて言い争っているようだ。リリエが他のクラスメイト達を先導して、反対側のアイジ先輩は残留組の三年組を率いている。
言い争う声も次第に大きくなり、やがて彼等の怒声が飛び交い始めた。
「リリエ……何をやっているんだ……!? また襲われるかもしれないのに……」
「犯人そっちのけで喧嘩しそうな勢いですけど……!」
「ちょっと俺が止めます……これじゃすぐ見つかっちゃいます」
「頼むわ……」
皆からの許可を貰い、すぐさま俺は職員室の窓を開けて外に飛び出した。
俺が勢い良く窓から飛び出た途端、直前まで揉めていた一同がこちらを振り向き、俺と顔を見合わせた。
「……ネクッ!? 無事なのね、というかなんでそっから出てきたのよ」
「チッ、生意気な特待生がノコノコと現れたな……? いいぜ、大人は全員消え去ってんだよぉ! 教師もさっきの警報が鳴ってからどこからも姿を無くしちまった……従わせてやってもいいんだぜ?」
アイジ先輩は俺をじっと睨み、右手を前に突き出してきた。この構えは俺に魔法を使うつもりなんだろう。不敵に笑っている。
嫌な予感を感じ取ったのか、はたまたシンプルにムカついたのか壁にもたれかかっていたマゼル先生がよろよろと立ち上がり、アイジ先輩に向かって姿を現した。
「なッ……! どうしていんだよ……ッ!」
「先生! ……その怪我はどうしたんですか!?」
ふらふらとしている先生を支えながら俺が事情を説明する最中にも彼等は窓の前に駆け寄り、そこに生まれた人だかりを利用してばつが悪そうにアイジ先輩達はいつの間にか退散していた。
「私なら平気……目立ちすぎると危険だから中に入りなさい」
「良かったです。ネク・コネクター……あなた達が出ていってから大変なことになりましたよ」
「……あれ? セレスは? 人数数えても一人足りないけど」
リリエから発せられた何気ない発言につい俺とローズは押し黙ってしまう。そんな中、ロウタス君が躊躇せずリリエにセレス君のことを告げた。
「セレスは死んだ。彼の遺体は我々の教室に置いてきた。そして我々は……この学園から出られない」
「……え? ちょ、ロウタス? どういう……」
「そのままよ。私達が最初に教室で襲われたときに……やられてしまったの。不甲斐ないわ……」
そうだよな。聞いただけじゃ信じられないよな。ただ、同じ反応を聞き続けても意味が無い。
戸惑うリリエをよそに俺はこっそりと【
【魔眼】には二通りの使い方があるのだが、今回は視野を広げて情報を取得するために使う。
「んー……周りにはもう誰も居ない。本当に俺達で隔離されただけか……」
徐々に範囲を広げてみるも、俺達以外に二年と三年の先輩しか確認出来ない。勿論、結界の外は光ごと遮断されているせいで何一つ見えなくなっている。
天気も曇りがかったような感じで、日常と比較すると視界が若干悪い。
「出血も……収まってきたわね。とりあえず貴方達も再集結したことだし……私からの提案を聞いてね」
「……はい」
俺達のクラスはマゼル先生を含めて二十名。セレス君を除いた十八名で先生を囲って話を聞いている。
「何をしますか……?」
「まずは……」
「食料集めね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます