二人の魔法使い編
第22話 とっても不思議な転校生
初めてのクラス対抗の行事を終えた翌日。いつもよりも強烈な日差しが俺の顔を照らし出した早朝。
「おはようございます〜!」
「……ローズは今日も早いね」
「なんて言ったって今日の私は頼みごとをされていますからね!」
「ん……?」
やけに誇らしげにしているローズには疑問が残るが、目も覚めたのでとりあえず俺は身体を起こした。
前日であんなに盛り上がって全身筋肉痛になった俺とは対象的に、彼女は陽光にも劣らない屈託のない笑顔を俺に送ってくる。
最早日常になった生活、そして支度を済ませて俺達は教室に向かった。
「あら、ネク・コネクターとローズ・ベルセリア? 朝早いね、意外と体力あるんだ」
教室の扉に手をかけた瞬間、俺達の背後からナイラさんが話しかけてきた。相変わらず物事に無頓着そうな顔をしてじっとりと俺の目だけを見てくるのは、分かっていても圧が強い。
「ナイラさんか……昨日はごめん。勝てなくて」
「機材トラブルがあった以上、敗北してしまったのはしょうがないわ。四十三と五十八……相当な点差ではあるけどね」
「トラブルさえなければ私達も今頃……いえいえネクさん勘違いしないでください! 嫌味とかではないですから! ただ……悔しかったんです!」
二人に軽く慰められながら俺はそのまま教室に足を踏み入れる。しかし、すぐに俺の足が止まる。中には早朝だというのに、既に半数近くの生徒が集まっていたのだ。
「ちょっと遅いんじゃないーっ?」
「リリエ……」
最前列にはニヤニヤとした表情で煽ってくるリリエ、そして彼女の隣にはロウタス君とセレス君が、彼女の一段後ろにサクラモチが座っていた。
「我々は各自で集まっただけなのだから、ネクは気にするな。リリエもあんまり揶揄ってやるなよ」
「あっ、おはようございます。なんか……この二人仲良くなってますよね、ネクさん。あと……ネクさんのお陰で友達が増えましたっ……ありがとうございます」
「おはようっ……ネク君。僕……全然何も出来なくてごめんねえ……」
他の三人も優しく俺に話しかけてくれるが、一体なんの用でここに集まったんだろうか。ロウタス君やサクラモチさんはともかく、他の二人はどちらかというと寝坊してくる印象があったのだが。
俺はこの三人に恐る恐る目的を問いただした。
「朝からこのメンバーが揃うのは珍しいね。しかも昨日の今日だよ? 俺とか走れないくらい疲れたし、平気なの?」
「あの程度のレクで疲れたの? まったく、そんなんじゃリリエに勝てないわよ――」
「リリエ。君が話すと長くなるんだ。代わりに我が答えよう。単刀直入に言おう、我らはマゼル先生に午前六時に教室に集合だと呼ばれたのだ」
「……俺は全然呼ばれてないけど……」
俺の発言は無視され、遮るようにロウタス君が言葉を続ける。
「ともかく、少なくともここにいる七名には任せられると信頼してくれているということになるはずだ。……ローズにもあの人が約束しているなら、そういうことになるだろう」
「そういうことなんです! ネクさん! 気に病まないでください!」
ローズの言葉を聞いて、セレス君とサクラモチさんが哀れみの目を向けてきたが、完全に二人のフォローのせいで俺が悲しい奴のような扱いを受けているような……。
「――全員揃ったようね。入るわ」
「マゼル先生! おはようございます! ネクさん、ナイラさんも座りましょう!」
変な空気になるのを見越したようなタイミングでマゼル先生が教室に入り、教壇の前に立った。
遅れて入ってきた俺達は即座に空いているリリエ達の背後の席に座り、またシメられる前に口を閉じた。
「朝からすまないわね。ちょっと急用が入っちゃってね、本来なら全員に紹介するべきだけど信頼出来る生徒に先に紹介しておこうと集まってもらったわ」
「紹介……なるほど、しかし先生。この時期……というかこのタイミングなのは何故なのでしょうか」
「ロウタス、リリエでも分かること偶に分かんなくなったりするんだよね〜。教えてあげようかしら?」
多分、ロウタス君が言いたいこともリリエの考えも何となく分かる気がする。行事を終えて今日から生徒の半数がいない今変化が起こるのも不安ではあるし、行事を終えた今だからこそ変化を起こしてもいいという考えも。
というか、紹介ってなんだろうか。そんなことを俺が考える間も無く、マゼル先生は説明を続ける。
「転校生だ……しっかり可愛がってやってくれ。彼女は家の事情で入学が僅かに遅れてしまった生徒だから、不安になっているはずだ」
「女の子なんですね! 私と友達になってくれたら嬉しいなあ〜!」
「ローズさんなら出来ると思いますけど……た、ただ、私もなれたら嬉しいです……」
ローズもサクラモチさんも相当浮かれているが、俺や前の席のロウタス君は心底不安そうな表情をしていた。
クラス対抗の時にした会話なんかで俺達の思考が案外似ていることに気づいたのだが、既にロウタス君もこれからの事態にある程度察しがついているようだ。
「そろそろ入ってきていいぞー。えーと……ハイノ!」
…………………………ゆっくりと、扉が開いた。謎に緊張する胸の鼓動を必死に隠す通すことに必死で最初は彼女の顔すら見れなかった。
ローファーが擦れる音だけが教室中に響き渡り、マゼル先生の隣で彼女は立ち止まって息を吸った。
「…………」
が、彼女は一向に話さない。俺はそこで冷静を取り戻し、徐々に顔を上げて彼女の顔を見つめた。
彼女の服装は、学園の制服の上に随分と使い込まれたマフラーを羽織り、口元をそれで覆い隠している。目付きもそこらの一般人とは一線を画しており、見るもの全てを拒むような恐ろしさが視線には含まれていた。
髪も貴族の娘にしては手入れが全くされておらず、彼女の紫色の髪はどこか生気が抜け落ちているように見える。
「ああ……この子は離すのが苦手でね。基本的に紙で会話してもらうから皆も合わせるようにしてくれ。それと……ネク。その態度は失礼だからやめなさい」
「……それはごめんなさい」
「ネクって謝れるの!? ローズ、これって日常なの!?」
「リ、リリエさん……ネクさんはしっかりと謝れる優しい人なんですよ! もっとネクさんのことを知ってくださいね!」
二人の会話にも戸惑う様子もなく、マゼル先生も一通り終わって一言も残さずすぐに教室を飛び出ていき、残された俺達八人。
凍りそうな空気にいち早く気づいたセレス君が口を開いた。
「あのぉ……自己紹介でも、しませんかぁ……? 紙は僕が持ってる……メモ帳がありますからぁ……」
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