学級対抗戦編

第16話 第一次魔法紛争(対抗戦)

 ヴェルヴェーヌ魔法学園一年一組十五番、ネク・コネクター。それが俺だ。


 このクラスには生徒が十八名いる。風紀委員のナイラ・ストライキを始め、クラスの中心に立っている生徒が七名。その中に俺は含まれていない。


 残りの十一名は良くも悪くも平凡な成績で特に目立とうともしない普通の生徒だ。俺とローズはそこに含まれている。


 だからなんだと思いたくなると思うが、俺がこんなことを改めて考えているのは平和なはずのクラスで、ある事件が起こっているからだ。


「さっきから言ってんじゃん! こっちの方がいいって!」

「いやいや……それじゃオレ側の負担がデカすぎるんだって!」

「なんであなたが出る前提なの!」

「あ、あの……喧嘩はやめた方が」

「ローズさん。あなたは口を挟まないで」

「ご、ごめんなさい……」


 いわば戦争。クラスで勃発している争いは俺達のような普通の人には止められない。ローズも無理に止めようとして払い除けられてしまった。


 こうなるのも仕方がない。俺達にとって初めてのクラス対抗の行事で、勝ったクラスは超一等地で六泊七日の長期旅行となればここまで熱が入るのはむしろ当たり前。


 俺は壁を背に座り彼らの様子を眺める。中心組のおかげでクラス全体は最悪になってしまった。


 マゼル先生が不在の教室で……何が起きているのか。


 俺とローズが教室に入った時はまだここまで険悪な雰囲気では無かったんだけど……。


 俺達は数分前まで部室でギルバート君を入れて楽しく談笑していただけなのに。


 ***

「――で、二人は無事に付き合えたんだね。良かった」


 安堵した表情で俺の話に相槌を打つギルバート君。俺の手元にはプルシャ先輩から渡された報酬金が置いてあった。


 ローズは自分の両手を握って神に感謝するように祈り、微笑む。


「あぁ〜思い出しただけで涙が……プルシャ先輩、凄く幸せそうでしたね!」

「いや本当、二人が結ばれて嬉しいよ。結婚式には俺を呼んでくれるかな?」

「え! その時は私も招待してほしいなあ……」

「後、僕のお金とこのお金盗まれないようにしっかりと保管しておいてね」

「ああ、分かってるよ」


 ……コネ二つゲット! ブルーン家とミルレシオ家と関わりを持てただけで、こんな端金の何億倍の価値がある!


 しかし、念には念を入れなくては……万が一破局なんてしたときには俺の転落人生コースが確定してしまう。


 しっかり貯金しとこ。


「……そういえば、君達のクラスはどうするか決めた? 僕達のクラスだともう誰が出るか決まったけど」

「早いね……俺達は多分誰一人決まってないんじゃないかな」

「ネク君は出ないの?」

「俺は……〈魔属性〉以外はからっきしだし、他の人が出ると思うな」


 入学してから一ヶ月過ぎ、クラスの仲が深まってきたこのタイミングで待ち受けていたのはクラス対抗の障害物競争だ。


 クラス旅行を賭けた一世一代の大勝負は、クラスからプレイヤー四名とオペレーターを一名選出しテーマに沿った魔法を使って立ちはだかる壁を破って競争するという内容になっている。


 妨害ありのこのレースじゃ、フィジカルが強く多彩な魔法を扱える者が圧倒的有利に働く。一種類の属性しか使えない俺では恐らく仲間の三人に付いていくのがやっとだろう。


「そうなんだ。残念だな、ネク君と戦えるんじゃないかなって思ってたのに」

「あっ……! もしかしてギルバートさんが出るんですか!?」


 机に手を付いて前傾姿勢になってギルバート君に顔を近付けるローズ。そんな彼女に少し戸惑う表情を見せつつもギルバート君は冷静に続きを話し出す。


「ほら、僕達は特待生じゃない? 少なくともこの一ヶ月間なんて短い間じゃ、誰の魔法が頼れるかなんて分かりにくいよね。だから、僕と同じようにネク君も特待生だから選ばれたら嬉しいよ」

「ああ、そうだね。だけど俺はそこまでクラスの人に信頼されてないから今回は選ばないと思う」

「……なら、次回を期待しておくよ」


 そう言うとギルバート君も平常を保った声で抑えた。


「――ちょっと!」


 勢い良く開かれた扉に俺達が注目すると、そこにはまたあの彼女の姿が見えた。同じクラスの風紀委員、ナイラ・ストライキが俺を睨んで立っていた。


「ネク・コネクター、ローズ・ベルセリア!」

「は、はいっ」


 いつになく険しい声で俺達を怒鳴ってきたので思わず情けない声で反応してしまう。

 最近はマシになってきた方だったが、まだ彼女とは距離があるため気まずい。


「何故こんな所で時間を潰しているの……!? 話し合いはまだ終わっていないじゃない……」

「え、ごめん。自由時間だったし……俺とか、選ばれないって思ってたから」

「選ばれないならサボってもいいの?」

「うっ……すみません……」


 ナイラさんの正論にローズは屈してしまい、彼女に謝罪してしまう。俺は謝らない。


「ギルバート君、俺達行くね。戸締まりもしていくからよろしく!」


 俺とローズはナイラさんに急かされながらギルバート君を外に出して鍵をかけ、部室を飛び出した。

 そのまま俺達は自分達の教室までかけていく。


「――どうするの? 二組にそもそも勝てるの?」


 既に教室の中で口論する声が入る前から聞こえていた。


「特待生だって向こうには二人いるのに、こっちには一人だけ。しかもあっちはオールラウンダーで不利すぎる」

「落ち着け。まだこっちにも勝機はある。そのための話し合いだ」

「……特待生到着しましたー……」


 俺が教室に入るとあれだけ賑わっていた討論も一時中断となり、クラスメイトは一斉に俺の方へ振り向く。


 まず一番最初に目があったのは、クラスで寡黙ながら的確な指示を出せるロウタス・ムスペルヘイム君だった。


「……丁度いい。この特待生も話に入れて策を立てようじゃないか。我にとっても一人話し合える仲間が増えるのは有り難い」

「ん?」


 ……その割には教卓の周りに八人程度しかおらず、魂が抜けたように机に伏したり壁に持たれている奴も沢山いるのはどうしてだろうか。


 それにそういえば最近どこかでロウタス君を見たことがある気がするな。あっ、そうか!

 俺が夢で見た時にいたA君がロウタス君だったのか。


 あれ、何で俺はその時気付なかったんだ? クラスメイトで何回も顔を見ているはずなのに。まあいいか、夢だし。


 そんな事よりも今重要なのは四人の代表選出メンバーを決める方が優先だ。


「……じゃあ決めようか、我らは誰を選出すべきか」

「一人目は決まってます! 絶対にネクさんを出すべきです!」


 口火を切ったのはローズだった。俺の顔を指差してこれでもかとアピールしている。


「あなた話聞いてた? 少なくともこんなピーキーな人を一枠使ってまで代表してほしくないの」


 俺を睨みながら強い口調で吠える彼女も、やはりどこかで見たことがあった。

 彼女はリリエ・フォッシュ、許嫁がいる同級生に禁断の恋をした系のツンデレだ。


 尖ったツインテールの毛先があまりにも凶暴すぎる。


「何と言われようと私は譲れません! だってネクさんは……一番強いんです」

「一番? リリエはそう思わないけど? 陰気臭くて減点式なら0点に近いこんなへっぽこ特待生を頼れるって本当に思ってるの?」

「……リリエ、言い過ぎだ」


 昂ぶるリリエをロウタス君は咎めるが、それだけで彼女は止まらない。


「ロウタスみたいに人を指揮できる能力も無ければ、何を考えてるか分からない人なんていらない。そうでしょう? ロウタス」

「……我にはまだ判断出来ないな。それは経験が無いから言っているだけだろう? 少なくともこのクラスの惨状を見てすぐさま切り捨てられるような人材ではない」


 ロウタス君の言う通りだ。現に俺達以外のクラスメイトは諦めたような視線を俺に何人かが送ってきている。


「――ああもううざったいな! オレがやるよ!」

「……は? あなたが出る方がもっと無いわ。空気読めないしリリエよりも成績微妙じゃない!」


 痺れを切らした皆が口を開いてリリエに向かって反論する。そしたらあっという間にクラスの雰囲気は一変してしまった。



 …………そして、現在に至る。



 ***

「……なんか、大変な事になっちゃってるね」


 そんな俺に、隣で俺と同じように壁にもたれて座っていたは話しかけてきた。

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