第15話 何だったんだろう、俺達は

「決闘って何をするつもりですか、プルシャ先輩」

「簡単だよ、どっちが最後まで魔法をくらっても立っていられるか」


 プルシャ先輩の提案に驚いたのは俺だけじゃない、それどころかメルシー先輩の方が俺よりも大袈裟に驚いていた。


「おいおい……魔法を使うのは校則違反だぜ? ウチはプルシャが隣にいてほしいと思ってるからさ」

「……そうじゃないです。アタシの実力を持ってあなたを分からせたいだけなんです」

「わからせ……たい?」


 彼女の言ってることが全く理解出来ない。そもそも分からせたいとはどういうことなんだ。それって最早メルシー先輩のためにすらなっていないんじゃ……。


 俺達の脳内はメルシー先輩に筒抜けのはず。だったら、メルシー先輩にどうにか彼女を諌めてもらえないか願うしかない。


 ――メルシー先輩、助けて!


「……ッ。考えるのが疲れてきたから二人で決着を付けてくんね? プルシャは一度スイッチが入ったらやり遂げなきゃ気が済まないだろうし、ネクも……死にはしないだろ」

「投げやりすぎるって……」


 そりゃ俺だってこの勝負に負けるなんて思ってないけどさ、ここ最近変人との遭遇率が高すぎだろ。


「分かりました。決闘は受けます。ただ、手加減もしませんからね」

「勿論。アタシも手を抜くつもりはないから」


 俺は手加減をしないといけないな。実のところ俺は〈魔属性〉魔法で他人に使う魔法ってのは自分で縛っているんだ。

 催眠ヒプノティズム奪回リゲインの基礎魔法の時点で精神を壊しかねない。


 これ以上威力や効果のある魔法を抑えつつ、適度にまいったと言わせられる丁度良い魔法なんて存在するのか?


「アタシから先制攻撃するよ。【水泡アクアキャノン】!」

「グッ!」


 信じられない程の威力の水圧が俺の鳩尾に突き刺さる。魔法ってこんなにも物理的なんだね、初めて理解した。


「……え? ネク、嘘だろ?」

「話に……ならないね」

「まだ……だ」


 瞬殺されかかった肉体を何とか根性で耐え切ると、咄嗟に思い付いた魔法をプルシャ先輩にぶつける。


「【奪回リゲイン・フォース】……!」


 前回、ギルバート君に使った魔法の強化版だ。強化版ならより簡易的に効果が発揮されやすい。


 俺の術中にはまってしまったプルシャ先輩は睨み付けるのを止めて、付き物が落ちたような表情で自らの感情を吐露し始めた。


「アタシはただ、認められたかった……? メルシー先輩だけじゃなくて? 全員に……?」

「これ以上俺に攻撃を続けるならもっとペラペラ喋っちゃうぐらい威力を上げて撃ち直します。それが嫌なら、座って諦めてください」

「おっかねえ〜……」


 震え上がるメルシー先輩を尻目にプルシャ先輩はその場で腰を下ろし、俺に軽蔑の目を向けて決闘は終わる。


「残念ですけど実力では負けてるとは思ったことはありませんから。それに、メルシー先輩! 事情は全部分かってるはずですよね? ずっと黙っている理由はあるんですか?」

「あー……中々無いじゃん決闘って。治療ならウチでも出来るしさ、二人とも相手に遠慮して手加減するって分かるじゃん。だから満足するまでストレス発散になるかなって」


 俺が聞きたいのはそういうことではないのだが。だけどまあいい。

 それよりも心配なのはプルシャ先輩の方だ。


 ここまでメンタルを俺に削られて無事でいられる訳がない。


「アタシはただ……告白したかっただけなのに……! 何で上手く行かないの……?」

「何でって……」


 俺とメルシー先輩の性格が悪いから……?


 違うか。俺を含めてこの場にいる皆に問題があるからだ。俺も自分の感情に任せて滅茶苦茶にしてしまったし、メルシー先輩も俺達の暴走を止めようともしなかった。


 目の前で跪いているプルシャ先輩だって、勝手な勘違いで俺に決闘を挑んできたし。


「メルシー先輩。そろそろ説明しましょうよ、今の俺達の事情を……」

「まーしゃーない。そろそろ話すか」


 メルシー先輩は笑いながら全ての真相をプルシャ先輩に伝えた。

 彼女の目が涙目になっていることには気付けているのだろうか。


「……つまり、俺達はアイジ先輩に対抗するためにカップルを演じているんだ」

「そう、だったんだ……じゃあ本当は付き合ってないと」

「ラグナ先輩のタイミングが悪かったかな……プルシャ先輩も、アイジ先輩に対しては良い印象持ってないと思うしね」

「ネクが何言ってんのか分からねえけど、プルシャなら信頼出来るから本当の事を言ってるんだ。こんな奴よりもプルシャの方が何十倍も好きだからな」


 ボロクソに言われてるがこれはしょうがない。奪回の強化版にはデメリットが存在する。一つは反動で俺の思考能力が著しく低下すること。


 おかげで呂律も回らないし支離滅裂な台詞になってしまった。もう一つは、とんでもない異臭が俺と相手に纏うこと。


「……くっさ!」

「……ヴォエッ!」

「なんかアンタ達凄い臭いんだけど!? どうして!?」


 ……これはちょっと嫌だな。


「あの……ま! プルシャ先輩も俺達の協力者ということでいいですよね」

「は? そしたらアタシは二人がイチャついてるのを黙って見てないといけないじゃない」

「表ではウチらが付き合ってることにするだけだよ。裏ではウチとアンタが本当は付き合ってるけどね」

「え……! つつつつ付き合ってる!? アタシ達が!?」

「だからさっきから言ってんじゃん! ウチはプルシャが大好きだって!」


 そう言ってメルシー先輩は思い切りプルシャ先輩に抱きついた。二人はとても幸せそうで俺が入る枠は無さそうだ。

 二人に背を向けて、俺はヴェルヴェーヌ魔法学園のいつもの部室へと帰った。


「ネクさんどこに行ってたんですか!?」

「ネクくん大丈夫だった? ごめんねーもしかしたら俺が邪魔したかも!」


 ローズとラグナ先輩は俺達なんて最初居なかったように二人でボードゲームを楽しんでいた。


「……うぇっ! ネクさん臭いです!」

「凄いな、死臭」

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