第14話 恋愛相談で決闘?
プルシャ先輩は早歩きで部屋に入ってすぐ向かいにある椅子に着席する。
「よろしくお願いします」
「……」
彼女は俺の声には見向きもせずにローズの声だけに反応していた。
プルシャ先輩は決して俺には目もくれずただひたすら遠くを見つめて考え事をしている。きっと彼女にも彼女なりの悩みがあるに違いない。
概要自体は大体こっちで把握済みだけどね……。
制服を着崩して少しでも派手に見せようと主張してくるオーバーサイズのブレスレットやネックレスが相当特徴的な彼女は、一年の間でも怖い先輩だと少しだけ噂になっていたのは聞き覚えがある。
ただ、他に聞いた噂だと二年生きっての大甘党だの尊敬してる先輩のファッションを真似しているといった好感を持ちやすい情報ばかりだ。
そんな彼女になんで変な噂ばかり広まっているのかは……先日の一件で粗方予想は付く。
「……まァ、相談内容ってのはそういうやつだ」
「ええ、恥ずかしいなら別に言わなくても平気です」
「はぁ!? 言わなきゃ分かんねーだろ……?」
「俺はあなたの悩みを知っていますよ」
「間違ってたら否定するから……言ってみなよ!」
ここで初めてプルシャと目が合った。その表情からは焦りや不安が入り混じった感情が読み取れる。
そして俺は出来るだけ平静を装い、ほんの少しだけトーンを落として彼女に伝えた。
「尊敬している三年生に恋をしている。その人は女性だ」
プルシャ先輩は分かりやすく目を泳がす。どうして見抜かれたのか不安だろうけど、ここで俺は畳み掛ける。
「名前はメルシー・ミルレシオ。きっかけまでは知らないけどとにかく好きになった……ですよね」
「……正解だけど、アタシの悩み何で知ってんのキモッ」
刺さる言葉を吐き捨てられたけど気にしない。とりあえずいつでも催眠はかけられるように何を言われても目は逸らさないからな。
「あ、あのー……」
「ん?」
ローズは俺の肩をそっと叩き、手を付けてプルシャ先輩に聞こえないよう俺の耳元に近付いて囁いた。
「どうするんですか……? だって今はネクさんがメルシー先輩と付き合っていますよね?」
付き合っているのは仮だしあんまり気にしなくてもいいと思うけど……。
俺の声も聞こえるとまずいので代わりばんこで今度は俺がローズの耳元で小さく囁く。
「本当は付き合ってないから大丈夫だよ。ミルレシオ家もブルーン家も階級的にはほぼ差がないから女性同士でも問題ないと思うし」
「そこが問題ですけどね……どっちも凄いお家じゃないですか……」
「おーい、目の前でイチャイチャしないでくれない?」
「「イチャイチャしてませんから!?」」
……どうして俺まで焦る。それよりもどうやって彼女を結ばせようか。
メルシー先輩はむしろ恋人募集中みたいなスタンスだったし俺がこの人を紹介するだけで丸く収まるんじゃないか。
「ねぇローズ……もしかしたら魔法無しで二人をくっつけられるかもしれない」
「え、本当ですか?」
「大マジだよ」
俺はから身体の向きをローズからプルシャ先輩の方に向き直して、力強く演説を始めた。
「プルシャ先輩! 安心してください。俺達に任せてください! メルシー先輩とは面識がありますので!」
「えっマジで!? もしかして先輩も相談しにきた?」
「相談というか、相談になってなかったというかそもそも目的あって来たわけじゃないだろうけど……」
まずい、余計な事を言ってしまう前に話を逸らそう。
「プルシャ先輩はここで待っててください。俺が彼女を連れてきます」
「えっと……プルシャさん。待ってる間私に馴れ初めとか惚気話とか話してください。これは成就のためには必要不可欠なんです……決して! 私が聞きたいだけとかじゃないですから!」
「じゃあそっちは任せるよ」
そして二人を残して俺は部室を飛び出し、三階の三年教室に向かった。
上の学年のいる階層って何か行くと気まずくなるよな!
ローズはこんな状態で呼び込んでくれたなんて度胸凄いな……。
なんてそうこうしているうちに俺の周りに人だかりが出来ていることに気付く。
「聞いたぜ! お前あの不良の彼氏なんだろー?」
「へ〜てか見たことない顔だね」
「一年なんだってよ!」
「え、でもどこの? ネク・コネクター……コネクター? 聞いたことないね」
名の通る先輩達に注目を浴びて嫌な気はしないけど今はメルシー先輩が最優先だ。
彼らに軽く謝りつつメルシー先輩のいるはずの教室へ向かう。
「メルシー先輩!」
扉を開いて中を覗いてみると、窓際に一人ポツリと外を眺めているメルシー先輩がいた。
俺の声かけにすぐ気付いて恥ずかしそうに俺の方へと駆け出し、目の前に来ると頭を叩かれる。
「いきなり何だよ! アンタから来んじゃねえって」
「メルシー先輩に会いたい人がいるそうです。部室まで付いてきてください」
「ああ? ……分かった」
意外と素直に聞いてもらえ、群がる他の三年生の隙間を縫って走って部室まで逃げ込んだ。
「へぇ〜そんな出会いだったんですね〜素敵です」
「思わず一目惚れしちゃうよね。あんなかっこいい姿見ちゃったら!」
「あのー……二人で駄弁ってないで本人連れてきたから話し合いしましょ」
「よぉプルシャ! 久しぶり、元気してた?」
二人は復学して初めて再会を果たしたようで喜びの感情を表すようにその場で手を繋いで飛び跳ね出す。
「やっぱり二人は仲が良いんだね」
「プルシャはさ、ウチと会うまでずっとアイジにイジメられていたんだ」
プルシャ先輩に変な噂があるのも、やっぱりアイジ先輩のせいか。
二人は笑顔ではあったもののどこか思い出す度に辛そうな表情が顔を出す。
それだけ二人にとってあの男は因縁深いのだろう。
「その時は真面目ちゃんだったから色々されたんだよね。でもメルシー先輩がそんな奴らを返り討ちにしてやって……かっこよかったなあ」
「何言ってんだ最後に抵抗したのは自分の意志だろ? だからもう気にする必要なんてねえ。もしかしてネク、ウチに気を使ってここまで連れてきたのか? ありがとうな」
ニコリと爽やかな笑顔を俺に向けるメルシー先輩。だけど、その顔が見たいのは俺じゃないんだよな。
「プルシャ先輩、後は自分の口からお願いします」
「あの……アタシ。メルシー先輩に前から言いたかったことがあって」
「ん? 急に改まってどうした? なんか落ち着いたね」
「え」
メルシー先輩はプルシャ先輩の指が震えていることを察して頭を優しく撫でた。
俺達は二人を見守るだけ。
「アタシは助けてもらった時からずっと……メルシー先輩のことが好きです」
「ありがとう。ウチもプルシャは好きだぜ」
「そうじゃないです。アタシの好――」
「――へぇ〜こんな所に部室あるんだ!」
突然、しっかりと閉めていたはずの扉が開かれる。俺達の視線は乱入者に注がれた。
「おいおい女子ばっかの中男ネクくーん一人って、え? ……ハーレム? たらし?」
「ちょラグナ? アンタ何勝手に入って来てんの?こちは忙しいの分からん?」
この人はラグナ・アトロポス。彼は現在三年生であり、ヴェルヴェーヌ魔法学園の太陽と評されるほど明るく裏表が無いお人好し人間だ。
だから別に会話を遮られたことには何も不満は無い。むしろ、相談に来ただけなら大歓迎したい。
だが、今回に関してはただの好奇心で訪れたに違いない。だって彼は今そんな顔をしている。
「ラグ――」
「――メルシーとデートのついでに俺の相談を君に聞いてもらいたくてさあ」
「……デート?」
瞬間、周囲の空気が一変する。今一番聞きたくない言葉を言われてしまったことで一人の心が壊れる音が聞こえた。
「プルシャ先輩、ちょっと待ってください。これはその事情があって」
「アタシには黙って二人で……楽しんでいたの?」
凄まじい量の魔力と殺気が入り混じった視線が俺に降り注ぐ。
ローズもメルシー先輩も俺と同様に額から汗を垂らして息を呑んでいた。
「……アタシと決闘しろ。どっちがメルシー先輩の隣にいるのに相応しいのか決めよう」
「決闘……!?」
「二人の奪い合い……!?」
「俺のせいで修羅場!?」
「……」
何でメルシー先輩は黙るんだよ! まずいな、プルシャ先輩を怒らせてしまった。
かと言って言い訳も思い付かないし、ラグナ先輩さえ来なければ!
「【
プルシャ先輩が俺の肩に触れ魔法を唱えると、景色が開けた土地に変わる。
中庭でもなく、ここは郊外の何処かに移動してきたみたいだ。
「ん? ウチも?」
空気が新鮮、そこまで遠くには行ってないはずなのだが田舎にいた時と似た空気が流れている。
そんな空間に俺とメルシー先輩は目の前にいるプルシャ先輩によって連れて来られてしまった。
「見ててくださいメルシー先輩。アタシを」
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