第4話 一件目、失敗
「マゼル先生、大目に見てくださいよ」
「い〜や、無理です。一応担任ですからね、ベルセリアちゃんも……だからね?」
「ご、ごめんなさい……!! 私のお母様に報告だけはやめてください……!」
今、俺とローズは背中合わせに縛られ完璧に逃げることも許されない状況でマゼル先生に尋問されている。
ローズの顔も青ざめているしきっと俺の顔も青ざめてるんだろうなあ。
「ネク……貴方の〈魔属性〉魔法は非常に珍しいって本当に理解してる? いつも他の先生にもしょっちゅう貴方関連の事件を押し付けられているのよ!? これ以上仕事を増やさないでちょうだい」
「す、すみません……」
あまりの圧で無意識に謝罪の言葉が口から出てしまう。ローズを巻き込んでしまったし……次のチャンスはもうなさそうだ……。
「私の授業で教えたわよね? 属性は何種類あって、どんな特徴があるかを」
「
俺は授業で習った7つの属性を順番に先生が満足するまでひたすら唱え続ける。
その様子にローズは怯えきって、もう普通に泣いていた。
「意外と覚えてるじゃない……」
なんで不服そうなんだよ。
「そうね……順番通りだし問題無いわね。貴方達、ベルセリアちゃんもそうだけど、〈聖属性〉と〈魔属性〉は扱いが難しい魔法が多いから本当に気を付けなさい。私以外に見つかると……停学になるわ」
「ヒィィッ! も、もうやりませんーっっ!!」
「まさか……貴方も魔法を使ったのね!?」
あらら、自滅。……って、こんな仲良しこよししてる暇はないんだけどな。ギルバート君も相変わらず目覚めないし。
「ネクもどうするの? アルスタッド君は倒れているし……もしかして、ベルセリアちゃん……彼のことが?」
「さ、さっきまではすすす、好き! ……だったんですけど」
「あはは……、色々ありまして」
マゼル先生は俺の発言で全てを察したのか、頭をかき上げながら小さくうめき声を上げだした。
ローズと俺は黙ってそれを見守り、少しの沈黙が過ぎると同時に先生は言った。
「中身が、タイプじゃなかったか」
「先生、やめましょうよそういうことを聞くのは」
俺だって今回の件は無かったことにしたいんだ、話を掘り下げようとしないでくれ。コネが遠のいていく……。
「――ううっ、僕は何を……」
「ギ、ギルバート君……!」
そうこうしているうちにギルバート君が目を覚ます。
俺達の慌てふためく様子を見て何かを察したのかギルバート君はマゼル先生を見て苦笑した。
「……まずはありがとう、ネク君。僕の悩みを解決してくれて。そして、ローズさん。本当に不快極まりない行動を取ってしまったことを申し訳なく思う」
「いや、あの……ね? ローズさん……超綺麗ですよね。好き……だったり?」
「それだけは揺るがない。僕はもう少しぽっちゃりしてた方が好みなんだ……」
「で、ですよね……」
三人の間に気まずい沈黙が起こり、次に続く言葉を誰も言えずにいると──
「なぁにこの思春期特有の会話!? いいわぁ〜……教師目指して良かった……」
興奮した様子でマゼル先生はニヤけていた。頼れる先生だけど、こういう所が新米教師とはいえ俺と同じように浮いてる要因なんだろうな。
「先生、俺達の捕縛魔法を解除してくれませんか」
「ふぅ……分かったわよ」
* * *
「──お願いです、私を恋愛相談部に入れてください、先生! ネクさん!」
横長のテーブルを俺と先生、向かいにローズとギルバートで囲み彼女は話の続きをマゼル先生に伝える。
しかし、俺達が言えるのは悲しいお知らせだけだ。
「実は、恋愛相談部の廃部が決定しちゃってねえ……」
「ええっ!? だったら善意だけで協力してくれたんですか……!? お優しいんですね……」
「……ネク?」
俺は先生に睨まれながら肩を小突かれる。
成就したら報酬を貰うって伝え忘れただけ。最悪一人目だし貰わなくても良かったし!
……なんて事を脳内で思っていると、話を最後まで黙って聞いていたギルバート君が口を開いた。
「……ねえ、良かったらなんだけどさ、僕が相談料を払ってもいいかな。お礼がしたいんだ」
「え……でも……上手くいったとは」
「──僕は二人に迷惑をかけたから、少しでも償いになればと思って。というか勝手にやらせてもらうね」
そう言ってギルバート君は懐から魔法が施された無色の紙を取り出し、机にゆっくりと置いた。
「千万くらいでいいかな? ほらっ」
ポンッと弾ける音と白煙が部室に焚かれ、視界が一気に見えなくなる。そして、数秒も経たないうちにテーブルの上に無限の札束が積み上げられていた。
これがいわゆる通帳ってやつらしい。
「マ、マゼル先生……これで俺10年は暮らせる……! 早速理事長に伝えないと」
感動のあまり俺は立ち上がり理事長に伝えるために飛びだそうとしたが、先生に肩を掴まれ引き止められる。
「都会じゃ半年も持たないわよ」
「田舎者だからって騙されませんよ!? 俺理事長に伝えて──」
「あのっ!」
俺が先生を振りほどいて行こうとしたその時、今度はローズが立ち上がり大声で俺を止めた。
「私も何か支払います……! お金は、ちょっと。一万くらいならお財布に……あっ、今月は教科書買ったからもう無いや……」
「いやローズさんは支払わなくていいですよ、失敗……したんで」
俺は二人に迷惑をかけてしまった。大金に浮かれていたけどここで金にがっつきすぎる様子を見せすぎたら切り捨てられちゃう……冷静になるんだ。
一人でぶつぶつと独り言を話して心を落ち着かせようとするとローズが一歩俺に近付き、俺の目を見つめる。
「──だから私が貴方の助手になりますよ! ちょうど暇してたので! いいですよね、助手なら! マゼル先生?」
「私は別に構わないが……ネクはどうするんだ?」
助手……懐かしい響きだ。たしかあの時もそうやって俺を慕ってくれる友達がいたなあ。
「勿論、OKですよ! ローズさんに服を乾かしてもらったし」
「ベルセリアちゃん、それで魔法を使ったのね……あ、ということはこの部屋に充満してる甘い香り……!」
「わ、私の香りです……」
ローズは照れくさそうに笑い、冷や汗を軽く手で拭う。
「……じゃ、僕はもう行きますね。お三方はごゆっくり」
ギルバート君は役目を終えたといわんばかりにすぐに立ち上がり、振り返る間もなく部室を出て行った。
「……じゃあ俺達でまた理事長に会いに行くとしますか」
「面倒だけど……そうね、ベルセリアちゃんのことも説明しないとね。もしかしたら廃部が取り消しになるかもね」
「分かりました」
そうして俺達は三人で理事長室に向かい、ギルバート君から千万ルードを得たことを伝える。
バラン理事長もそれには流石に驚いた様子で、本物の現金か確認を取った。
「ほう、ギルバート君がか……それに君はローズ君だったかな? ふーむ……そうか」
「とりあえず初日で課題は達成しましたよ」
「……分かった。退学通告は取り消しにするが、廃部だけは取り消せないな」
「そんな! そしたら俺は……」
「──代わりに、特例許可を出そう。今回のように活動することだけは認めようと思う」
今回のように活動──つまり、仕事として依頼を受け解決する形なら、報酬を貰ってもいいということだ。
「それと部室についてだが……毎月報酬金として頂戴したうちの三割を納めるならそのまま利用していいぞ。寝泊まりも自由に許可する」
「……マジですか。超最高の契約じゃあないですか……」
バラン理事長が差し出した手を躊躇なく握り締め、契約を成立させた。
その時左右から不安げな声が聞こえたような気がするが、特に問題無いだろう。
──ここからが、俺にとって本当の素晴らしいコネ作りの学園生活になるはずだ、そう期待して俺は大きく笑った。
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