第3話 STORY:出会いは空から? エルフの少女

 ウゥ――まさか、異世界に転生して早々『曲がり角遭遇』的な事故に巻き込まれるとは。まぁ十中八九、ぶつかっちゃった相手は声の主の女の子だろうけど。

 でも、なんで“空”か――ムグゥゥッ!? え!? おい、ちょっ……い、息ができない!!? ちょ、だ、誰か助けてッ! というか、上に乗ってる子早くどいてッ! 命にかかわるッ!!


「う~ん……はっ!!? うわぁぁ!? ご、ごめんね!? パラシュートが風に煽られちゃって」


「プッハァッ!!? ゲホッゲホッ!! はぁ、はぁ、死ぬかと思った……!」


 か、間一髪助かった! 危ないところだった……。もう少しで“あっち側”に逝くところだった、マジで!


「あ、あの~? 君、大丈夫? ケガとかしてない?」


 心配そうな声のする方へ振り返ると、パラシュートを片付けながら心配そうな目線でこちらを見ている可愛らしい女の子が一人いて目と目が合った。

 瞳はキレイな黄色、髪の毛は葉桜みたいな緑色で髪型は前髪パッツンなショート、特徴的なとがっている耳が目を引くいわゆる“エルフ耳”だ。


 背丈はやや小柄だけど、そこに耳よりも無駄に目を引く発育の良すぎる部分があって、少し目のやり場に困る。服装はゴーグルとかポーチとか奇妙なガジェットが付いたスチームパンクな感じで、やたら厚底のブーツをはいている。


 ん? ちょっと待てよ、最近のゲームでよくある属性だからサラッと流しそうだったけど、“エルフ耳”……? え!? もしかしてこの子、エルフなのか!?


 しばらく、自分たちはお互いの顔を奇異きいの目で見合って沈黙していたが、女の子は突然はっとしたような表情になり俺に向かってつぶやいた。


「君……もしかして、転生者てんせいしゃ?」


 “転生者てんせいしゃ”? 今、この女の子は俺にそう言ったのか。

 周りには自分たち二人以外には誰もいない、ということは俺に対して言ってるのはやっぱり間違いない。


 ん? あれ? ちょっと待てよ、なんでこの子!? まぁ、正確には転生させられたんだけども。いや、正確にがどうこうの話じゃない、なんで分かったんだ!?


 自分で言うのもなんだけど、俺って案外冴えないこと以外は『普通の高校生』だと思ってるんだが……それともアレか? こっちって異世界からの転生が結構よくあることなのか? いや、だからってこういうの初対面で分かるモンなのか!?


「え、えっと……あの、その」


 なんて答えればいいのか分からない、現状ではがどういったものかも分からない。

 下手したら白状した瞬間牢屋行きなんてのもありえる、なんか最近のゲームって主人公に厳しいストーリーが増えてきてるしどうしたら……。


「だ、大丈夫? なんか顔色よくないけど、やっぱりどこかケガしちゃったの!? や、薬草ならいっぱいあるから! ほら!」


 心配そうに言いながらポケットとかポーチから、いかにも“薬草っぽい草”をたくさん――いやいやいや、どんだけ入ってるの!? 明らかに物理法則ガン無視してる量だけど!?


「え? あ、いや、あの。大丈夫、です。考え事してた&こういう時になんて話したらいいか分からなくなってただけなので!」


「えっ? あ、そっか良かったぁ。でも本当に大丈夫? なんなら、この先の街まで送ったげようか? というか送らせて! 丁度私の“発明品”の複座テストもしたかった所だし、ここからなら三分もかからないから!」


 な、なんか変に気を使われてる気がする。いくら事故ったとはいえそこまでやられるのはなんか申し訳ない。というか、“発明品”ってなんだ?

 だがしかしそれを聞く前から、女の子は既にポーチの中身をゴソゴソあさって“ルービックキューブみたいな何か”を取り出し、それを地面に向かってポイッとなげた。


 そのキューブが地面に落ちると。昔どっかで観たロボット映画風にカシャンカシャンと質量保存の法則を完全に無視した動きで変形して、これまたスチームパンクな見た目の『三輪バイク』とでも言うべきなマシンになった。


 いやぁ……異世界ってすげぇ。ただでさえあまり身に着けてない常識が全く通用しない! 逆にもう眺めてるだけで楽しい。


「うおぉぉ……! な、なんだコレ!?」


「え? この“三輪車”のこと? ふっふっふっ……! よくぞ聞いてくれたね! これは! 正式名称は『蒸気+魔力駆動型高速三輪車七式じょうきプラスまりょくくどうがたこうそくさんりんしゃななしき』だよ! 生物の発する微弱な“生体電圧”に反応する、『形状変化記憶合金けいじょうへんかきおくごうきん』を採用した自信作なんだぁ♪ 全長三メートルから、手のひらサイズまで小さくなる優れモノでしかも――」


 あ、こりゃいかんな。この子俺と同じで、自分の得意分野に引き込んだら止まらずに爆走するタイプの人だ。そういうのは分からんでもないけど、このままじゃ聞きたいあれこれも流されてしまう気がするッ!


「あ、あの、ちょっとストォォップ!! 好きなことを語りたい気持ちはメチャクチャ分かるし、今このブツ切りが失礼千万なことも重々承知してるけど――少しだけ待って!」


「ふぇ? あっ! ご、ごめん! ついいつもの癖で……!」


危ない危ない! 俺だから分かる、あのまま放置しておいたら確実にニ時間以上はいっていた。この子には申し訳ないけど、今は情報が欲しい。ダメもとで色々聞いてみると、やや得意げに答えてくれた。

 ちなみに、俺は断ったんだけど結局あの後、ゴリ押しでバイクには乗らされた。もちろん後部座席に。


 そんでもって、バイクに揺られつつ俺はこの子から聞いた話をまとめていた――どうやらここは『ユピアート王国』という国の最南端に位置する場所で、近くには『ティムースタウン』と呼ばれるそこそこ大きい街があるらしい。

 あと、この世界では『獣族けものぞく』っていう、いわゆるケモ耳種族とかの例外以外は“尖った耳をしている種族が基本的”らしい。その為、丸い耳をしているのはという認識があるという。


 ああ、だから俺の顔を見て一発で分かったのか……通りで。


 また、異世界らしく『魔法』とかの概念もあるらしい。“火”、“水”、“風”、“土”の『基本四属性』やそれらの“魔力”を扱うための『魔術式』って言う、要は“呪文の詠唱えいしょう方法”みたいなのがざっと四種類ぐらいあるらしい。

 俺もいつか使えるようになるかな? まぁ、さすがにすぐはキツイだろうけど。


「お! 見えてきたよぉ、あれが“蒸気と魔術と超発明の都”。『ティムースタウン』だよ!」


 そう言われて遠くの前方に目をやると、ものすごい景色が見えてきた。あたりの野原や丘を越えた遠くに青い海が広がっていた。その少し手前に巨大な歯車や煙突が目を引き、蒸気の霧に少し覆われた『奇妙な街』が見えてきた!


 まわりが野原なだけあって、存在感エグイな……!? もはや浮いてるし。ついつい見入っていると、気がつけばあっという間に街に着いたのだった。近くで観ると迫力がヤバイ! まるで遊園地のアトラクションみたいだ。


「到着♪ あ、ちなみに街以外にも観光スポットとして近くに有名な『鏡の泉』とか、『剣天山けんてんざん』の温泉とか他にも色々――って、やっばい!? もうこんな時間! 雑貨屋さんのタイムセール始まっちゃうよ!?」


 そしてどうやら、話を聞けるのはここまでのようだ。少し物足りない部分もあるけど、まだ初対面だし仕方ない……。


「じゃあ、私はもう行くね。あ、そうだ! これ、このあたりの“地図”! 私の持ってる予備をあげる。ぶつかっちゃったお詫びと話を聞いてくれたお礼♪」


 しかも、地図とかいう超重要そうなアイテムまでくれた!? この子、ひょっとしなくてもかなりの“ぐう聖”!?


「あ、ありがとうございます、わざわざどうも。あ、そういえば、名前! まだ聞いてなかった!」


 そして、うっかり名前を聞くのを忘れそうになったので今のうちに聞いておきたい。なんか、この子とはこれから何度も会いそうな気配するし。


「ふぇ? 名前? 私はユーコ! ユーコ・ヒールロイスだよ♪」



 【エルフの少女:ユーコ】



 おお!? だ! どのゲームでも毎回ワクワクするんだよなぁ、絶対この感情俺だけじゃないハズ!


「それでそれで! 君はなんて名前? もし思い出せないなら、私がとびっきり良いあだ名を――」


「ちゃんとあります! ありますから! ゆ、夕輝周夜ゆうきしゅうや。一応夕輝が苗字で、周夜が名前」


 とりあえず、あ互いに名前で自己紹介した。というか、この世界の人達ってフルネームが海外の人みたいな感じなんだ。


「ユウキ・シュウヤ? へえ~苗字が先なんだ、珍しい名前! 覚えとくね、じゃあ、またねー!」


「う、うん。じゃあまた!」


 そんな感じで、別れの挨拶もサラッとすませてそのまま別れた。さて、ここからはどうすればいいのやら……とりあえず街を探索でもするか?

 といった感じに考えようと視線を下におとしたら、


 手に取って見てみると『ユーコのポーチ』とほられたプレートが付いていた。彼女の落とし物だろうか? すると、口が下に向いていたのかひょいと持った拍子に中身をぶちまけてしまった。


 出てきた中身はなんと――回転式拳銃リボルバーだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る