夏祭り、君のとなりで

「いっせーのーで!」


みんなで一斉にくじを差し出す。

私の手に握られているくじには赤い印が着いていた。

ま、まじ…?


「はーい、そこの2人罰ゲームーー!」


友達が楽しそうに指さしたのは私とその隣にいた幼なじみ。

幼なじみの手に握られているくじにもしっかりと赤い印が着いていた。

夏休み前の少し浮ついた放課後。


友人同士で集まって、ふざけてくじを作ったのだけど…。

テンションと悪ノリが高じて、くじに当たった人が罰ゲームを受けることになった。

それが私と幼なじみだったらしい…。


「やーん、俺罰ゲームぅ!?」


幼なじみが自分の体を両手で包み込むような仕草をする。

こういうふざけたやつなのだ。

私の幼なじみ…好きな人は。


「いいじゃーん、あんたの愛しのぉ」


女友達が幼なじみをつつく。

愛しの…。

その言葉は本当に私とこいつに合っているのだろうか。


「あんなん、愛しじゃねぇよ!もっと可愛い女子いっぱいいんじゃーん?」


幼なじみで一緒にいることも多くて、私は自然と好きになって。

高校生になっても変わらず一緒にいたから周りから恋仲なのだと思われて。

それをこいつは否定しなかった。


「俺、好きだよ」


一瞬、世界が止まったかと思うほど衝撃だった。

こいつが私を好き…?

長年の片想いが実って…??


「なーんて、他の女子の方がもちろん好きだけどなぁ!」


後に続いた言葉に私は肩を落としたらいいのか、怒ったらいいのか分からなかった。

でも友達は笑っているし、空気を壊す訳にもいかずに何も言えなかった。

そこから私と幼なじみの関係は曖昧なままだ。


「じゃあ~、2人で夏祭り行ってキス写真撮ってきてよ!それが罰ゲーム~!」


グループの中で1番陽気な男子がそう言ってきた。

夏祭りにこいつと行って…。

それで、それで…。


「き、キス写真…!?」


私は大声で叫んだ。

何を言っているんだ、キスなんて出来るわけない!

両想いでもなんでもないのに無理があるよ。


「ちょっと、焦りすぎ~!キスに見えるように写真撮ってくるだけでいいんだよ~?」


女友達がそう言って笑う。

い、いやそれでも結構顔近づくってことだよね!?

そんなの絶対無理…!


「よし、やってやろうじゃねえか!」


必死に首を振る私の隣で幼なじみが声をあげる。

え、や、やるの…!?

それは私と顔を近づけるのが嫌じゃないってこと?

それともそんなことどうでもいいくらい私を意識してないってこと?


「お、いいねぇ!じゃ、決まりな!」


混乱する私をよそに話はどんどん進んでいく。

いつの間にか、陽気な男子と女友達は帰っていて教室には私と幼なじみの2人しか残っていなかった。

結局、行くの…?


「いやー、なんか決まっちまったな?」


幼なじみがからっと笑いながら、そう言ってくる。

そんな笑いながら言うことか!?

私からしたら一大事なんだけど!


「なんか決まっちまった、じゃないよ!どうして断ってくれなかったの!?」


私の問いに、幼なじみはへらっと笑う。

こいつの笑顔は色んな雰囲気を持っていてずるい。

怒っていても許してしまいそうになる。


「別にいーじゃん、夏祭り行ってキス写真撮ればいいだけだろ?」


軽く言ってのける幼なじみに私は察した。

やっぱりこいつが私を好きなわけが無い。

女として意識すらされてないだけなんだ…。


「良くないよ…。今からでも断れないかな?」


私はそう言ってスマホを取り出す。

女友達に言って、取り消しにしてもらおう。

そうすれば、これ以上虚しくなることもないよね…。


「そんなに俺と行くの嫌かよ」


必死にスマホで文字を打つ私を見て、幼なじみがぼそりとつぶやく。

なんでそこでショックそうな声出すの…?

あんたの本心は…?


「もういい、帰る。じゃーな」


そう言って机に腰かけていた幼なじみはくるりと私に背を向ける。

このまま帰しちゃだめだ。

反射的に、そう思った。


「ちょっと待―」


でも追いかけた先にはもう幼なじみの背中はなかった。

女友達に送ろうとしていたメッセージを取り消す。

やっちゃいけないことをしてしまった気がする…。


どう考えたって今更遅くて、メッセージを送る気にもなれなかった。

絶対、怒らせた。

絶対、嫌われた…。




夏祭り当日。

一応浴衣を準備したりしたけど、一緒に行けるわけないよね…。

本当は一緒に行けるの少し楽しみだったりしたのに…。


「私、馬鹿だなぁ…」


でも自分のこと、なんとも思ってないんだって思ったらショックでとてもじゃないけど一緒になんていられなかった。

虚しいだけだもん…。

これで、良かった…のかな…。


「何独り言こいてんだ、お前?」


1人で打ちひしがれていると、部屋のドアが開いてそんな声が聞こえてくる。

この声は…。

私はびっくりしながらドアの方を見る。


「な、なんでいるの!?」


私が聞くと、幼なじみはため息を吐く。

だって私に怒ってるはずで、私になんか会いたくないんじゃ…。

固まっている私に、幼なじみががしがしと頭を搔く。


「いちゃ悪いかよ」


私はブンブンと首を振る。

本当は来て欲しかった。

一緒に夏祭りに行きたかった。


「罰ゲームとか関係なしに、お前と夏祭り行きたいから迎えに来た…。早く行くぞ!」


そう言ってすたすたと部屋から出ていく幼なじみ。

私は急いでその背中を追いかけた。

罰ゲームとか関係なしに…?


「ちょっと待ってよ!」


それってどういう意味…?

それは怖くて聞けなかった。

だってなんの意味もなかったらまた落ち込んでしまう。


「何食おうかな。焼きもろこしは必須だろ?」


「ええ~、りんご飴、かき氷、チョコバナナ!」


「この子供舌が」


「夏祭りってそういうものでしょ!?」


そんな他愛もない会話をしながら夏祭りの道を歩く。

今こうして隣を歩けてるだけで十分だ。

それだけでこんなに嬉しいんだもん。


「どれ、これ食ったら写真撮るか」


幼なじみがとうもろこしを頬張りながら言う。

しゃ、写真…?

私が首を傾げると、幼なじみはスマホを取り出す。


「罰ゲームだよ、あいつらに送らなきゃだろ~?」


やっぱり今日来てくれたのはそういうことだったの?

ちょっとでもいい感じだと思ったのは私の勘違い?

罰ゲームは関係ないって言ってたのに、やっぱり罰ゲームのためだったんだ…。


「やだ…」


私は俯いてそう呟いた。

どうして罰ゲームであんたとキス写真なんか撮らなきゃいけないの?

あんたに罰ゲームだなんて思われたくない…。


「こんなふうに写真撮るの―」


パシャっ


私が言おうと顔をあげると、カメラのシャッター音が響いた。

気づいたら幼なじみの顔がすぐ近くにある。

な、何この状況…。


写真撮られちゃった…。

ていうか顔近い…!

無理だよ、こんな距離無理だし罰ゲームなんて嫌だし、私はあんたのことが好きなのに!


「罰ゲームはこれで終わりだな。じゃあ、次は本番」


そう言って幼なじみの顔がより近づいてくる。

そして唇と唇が触れ合う。

え、え…?


泣き出しそうだったはずなのに、涙が一瞬で引っ込んだ。

なにこれ…!?

なにこれ!?!?


「罰ゲームとか関係なしに、俺はお前とキスしたかったわけだけど。そんで、これからもお前の彼氏としてデートしたりハグしたり、手繋いだりキスしたりしたいわけだけどお前はどうなの?」


顔を離した幼なじみがそう聞いてくる。

今、キスされたってこと?

幼なじみが私と付き合いたいってそう思ってくれてるってこと…?


「な、何してんのよ!急に!告白より先にキスとかありえないし、罰ゲームのどさくさに紛れてとかもっとありえないし!私の気持ちとか、心の準備とか色々あるのに!!ほんっとありえないってば!だいたい、本当にキスするならなんでキスするフリして写真なんか撮ったのよ!」


私は幼なじみの胸を叩きながら怒りを爆発させた。

びっくりして、怒ってて、でもやっぱり嬉しくて…。

いろんな感情がもう抑えようがなかった。


「あいつらにファーストキス見せるわけないだろ。で、俺と付き合うの?」


ふぁ、ファーストキスだったんだ…。

私より先に、キスしてる相手がいなくて良かった…。

私は、幼なじみの胸を叩きながら声をあげた。


「つ、付き合うわよ!!」


まだまだ素直になんてなれそうもない。

幼なじみもふざけたやつのままだし。

それでも来年の夏祭りもこいつの隣にいられたらいいなってそう思うんだ。



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