相合傘の中、2人で

最近、天気は雨ばかり。

髪の毛はうねるし、肌はベタつくし。

気分だってどんより上がらない。

それに加えて最近、彼氏である幼なじみと過ごす時間が少なくて寂しい。

今日の朝は奇跡的に、雨が降らなくて私はわざと傘を持ってこなかった。

だから祈ってる。

雨が降りますように...。

あいつの傘に入って、少しでも同じ時間を過ごしたい。


そしたら、昼休みが始まって少したった頃雨が降り始めた。

お願い、どうかこのまま降り続けて...。

私の願いが通じたように雨は放課後まで降り続けた。

そりゃ、梅雨なんだからそうだろって言われたらそこまでだけど嬉しかった。

早くあいつが来ないかなと、ソワソワしながら昇降口で待つ。

「よぉ」

聞こえてきた声に、私は嬉しさを噛み殺しながら振り向く。

ずっと待っていた声。

今日の放課後だけでもいいから独り占めしたい。

「お前、傘持ってる?」

幼なじみの問いに私は首を振る。

すると幼なじみは失敗したとでも言うように顔を顰めた。

それ、どういう表情...?

「最近雨続きだったのに傘もってこないバカがいるかよ」

わざとです!!

あんたの隣、最近歩けないでいるから自然に歩ける理由見つけたのに...。

彼女なんだから素直に言えばいいってわかってるけど、自分のキャラじゃないような気がしてなかなか言えない。

だから、こんな回りくどいやり方をしてしまう。

「俺も持ってきてねぇんだよ」

幼なじみの言葉に目を見開く。

な、なんですと...!?

私の計画、失敗じゃん...!

ていうか、ここは私が持ってきて貸してあげるというか入れてあげるべきでは...??

完全に女子力捨てたやつだと思われた...。

「仕方ねぇから、一緒に待とうぜ」

幼なじみは首の後ろをかきながら言った。

私は無言で頷く。

なんだか、思ってた形とは違うけど一緒にいられる...。

それだけでいいや。

「雨だと、気分落ちるよね」

何気なく言った言葉に幼なじみは反応した。

私の顔を本気で心配したような顔で覗き込んでくる。

ち、近い...!

「大丈夫か?落ち込んでんのか?」

間近で見る幼なじみの顔に心臓がどくどくと跳ねる。

私は心臓の音が聞こえてませんようにと祈るしか無かった。

絶対、顔赤い気がする...。

「だ、大丈夫!!そんな深刻な事じゃないし!」

可愛くない返答をして後悔する。

もっと可愛いって思って貰えるような言動をしなきゃ。

呆れられちゃったら絶対に嫌だから...。

「あれ?お前、傘無い系?」

そんな声が聞こえてきて、私は声のした方に目を向けた。

その先にいたのは、幼なじみの友達くん。

その手には傘が握られていて、嫌な予感が湧き上がる。

「おう、忘れちゃったんだよ」

幼なじみの言葉に友達くんは傘を差し出した。

ああ、その先は言わないで。

お願いだから、連れて行かないで。

「じゃあ入ってくか?」

友達くんの問いに肩を落とす。

やっぱりそうなるよね…。

でも止める権利もないしね…。

「いや、いいよ」

私の予想とは裏腹に、幼なじみは友達くんの提案を断った。

あれ...?

帰らない、の...?

「帰ってもいいのに」

私は思ってもないことを言ってしまう。

どうしてこんなこと言っちゃうんだろう...。

本当は絶対に帰って欲しくなんかないのに。

「俺が帰りたくねぇんだからそれでいいの」

そう言って、幼なじみはまた私の隣に当然のように立った。

それがどうしようもなく嬉しくて、私は泣きそうになってしまう。

こいつが隣にいるのってこんなに嬉しかったっけ?

久しぶりのことすぎて感覚がおかしくなってるのかも。

「あの...な...?本当は傘...」

幼なじみはそこまで言って、私に手を伸ばしてきた。

私はそれを拒まずにただ待ち続けた。

幼なじみの一回り大きな手が私の手を包み込む。

「わざと忘れたんだ」

伝わってくる手の温もりに幸せを感じていると、幼なじみは驚きの告白をしてきた。

私は幼なじみの方を向いて目を見開く。

だって、それって私と同じ...。

「最近なかなかゆっくり会う時間もなかっただろ?素直に誘うのも恥ずかしいし...。だから、傘忘れて入れてもらおうと...」

幼なじみは心底恥ずかしそうに目を背けた。

私は喜びを隠しきれずニヤついてしまった。

同じことを考えてた...。

私と過ごしたいと思ってくれてた...。

「失敗しちゃったけど、でもいいよな。こうして一緒にいるんだし」

そう言って幼なじみはにかっと笑った。

ねぇ、今なら少しだけ素直になれるかな。

自分のしたいこと言えるかな...?

「ねぇ...」

それでも口に出すのはこの上なく恥ずかしくてその先が言えない。

私がそのまま黙っていると幼なじみは不思議そうに首を傾げた。

私は幼なじみに体ごと向けた。

「目、つぶって」

私の言葉に幼なじみはさらに不思議そうな顔をする。

だって、やっぱり恥ずかしすぎるし...!

「何する気だ?」

怪訝そうな幼なじみを見上げる。

すると、幼なじみはうっとなったような表情を見せたあと「仕方ねぇな...」と言った。

するとそのまま目をつぶってくれる。

「私も傘忘れたの、わざとだよ」

それだけ言って思いっきり背伸びをする。

私より10センチ以上高い身長に追いつくように。

そして自分の唇を幼なじみのそれまで運んだ。

すると幼なじみは目を見開く。

私は恥ずかしくなって目をそらした。

「やっば、全部お前のせいだからな」

今度は幼なじみに唇を奪われる。

誰もいない、昇降口。

このまま雨が止まなければいいのに―。

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