十七 「交差点」 3年
兄から聞いた話。
兄は地方の大学に通っていて、今は一人暮らしをしている。
その街にある交差点で噂されている話と兄の体験談。
その交差点で、数年前に女子小学生が交通事故にあって亡くなった。現場はかなりひどい状況だったらしい。なんでも大型トラックに轢かれ、跳ね飛ばされたのならまだしも、タイヤに挟まり、身体の一部が切断されて、遺体がひどい状態だった。その街ではかなり有名な事故で、当時はニュースでも騒がれていて、その地名とトラック事故で検索すると上位にヒットするくらい。
事故現場には、その女の子の母親も居合わせていて、その現場を目の当たりにしたらしい。母親は精神的に参ってしまい、精神病院に入院したものの、自殺してしまったらしい。
それで、夜中にその交差点を通ると、その女の子の霊が出るって噂も、まあ、不謹慎ではあるけど、やっぱり周辺の人たちの間では広まっていた。
ここから兄の話。
兄は大学に進学後、大学に通うために車の免許を取って、帰りが遅くなる時などは車で通学していた。その通学に使う道路にはその事故のあった交差点があった。
といっても、国道ではないにしても、普段から車通りの多い道路でそんな噂に遭遇するのかどうかも怪しい感じではあったようだ。周囲には商業ビルもそれなりにあるし、街灯も煌々と光っている。兄もそんな噂のことは気にせず、いつも通学していたらしい。
ある日、研究室での実験で帰りが夜中になった。兄は噂には聞いていたらしいが、研究室の忙しさを初めて体験し、結構疲労困憊だったらしい。
その日の当直は友人に任せて、夜中0時過ぎに帰宅することになった。
大きな通りといえ、0時も過ぎれば昼間の車通りは嘘のようになくなり、通り過ぎる車も、並走する車も数台。急に大人になった感じがしたそうだ。
そんなことを考えていたら、件の交差点で赤信号に引っかかり車を止める。同じ車線には車がなく、対向車が2台ほど止まっているだけで、青信号で横断する車はなかった。
ぼーっと信号を待っていると、左奥の歩行者信号のあたりでしゃがみ込んでいる人がいた。
「酔っ払いか?」と思ってよくみる。
まるで何かをかき集めているみたいに、長髪の何かがもぞもぞもと動いている。
まさか、事故に遭った小学生・・・?
信号が青に変わり、恐る恐る、興味本位でゆっくりとアクセルを踏んで、その女らしき人の横を通り過ぎる時、はっきりと目があってしまった。
小学生じゃない。明らかに大人の女だ。
そして人間でもない、確実に違う。その表情や顔のパーツの不自然さで、生きてる人じゃないって直感した。
急いでアクセルを踏み込み、自宅へ帰った。
次の日、そのことを友人に話した。
「昨日の夜、研究室の帰りに幽霊見ちゃったよ、例の交差点で。」
「マジ?本当に女の子の霊、いるんだな・・・」
「いや、それがさ、女の子じゃなかったんだよ。なんか、かき集めるみたいにゴソゴソしてて、通り過ぎる時に目があってさ・・・大人の女だったから、あれ、多分自殺したっていうその女の子の母親なんだろうな・・・ちょっと悲しくなったわ。」
兄がその話をすると、その友人はかなり納得のいかない表情だったらしい。
どうした?と尋ねると、その友人が応えてくれた。
「あ、あのさ、その亡くなった女の子、俺の小学校の女の子でさ、親同士が知り合いなんだ。だからさ、あの噂のほんとの話知ってんだけどさ、確かに、その女の子の母親は精神病院にしばらく入院してたんだけどさ、その女の子って、3人姉妹の真ん中でさ、そのお母さん、退院して、今は立ち直って元気で暮らしてるんだ・・・」
なんだ、お母さんが亡くなったのって噂なのか。やっぱり噂には尾ヒレがつくもんだな、とか兄は呑気なこと考えたらしい。
そんで、気がついたんだってさ。
「じゃあ、俺が見た女は、何をやってたんだ・・・?」
初めは、我が子の死体を拾い集める母親の霊、だと思っていた兄は、そのことに気がついて汗が吹き出たそうだ。
バラバラの死体を拾い集めるおぞましい霊。
それ以来、兄は夜中にその交差点を通らないように、研究室に泊まり込むようになったそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます