「会長、応募はどんな感じですか?」


 2年の隠岐おき先輩が会長に尋ねる。

 相変わらず声のトーンが暗く、聞き逃しそうになる弱々しい声だ。隠岐先輩は、その見た目と挙動に反して、意外と内面は図太く、芯もしっかりしており、会話でもボソッと面白いことを言う、そんなタイプの人で、初めはとっつきにくい印象だったが、今では逆に一番声をかけやすい存在になった。


「募集して1週間経っていないにしてはまあまあきてるかな。投書はやっぱり少ないけど、結構メールで送ってくれる人が多いね。」


 会長が満足げに応える。

 怪談を募集したのが今週の月曜。そして現在は金曜。会長曰く20通弱が来ているそうだ。


「週が明けたらもう少し増えてそうだし、今のうちにある程度担当でも決めちゃおうか。」


「担当ですか。」


 会長の言葉を繰り返すだけの、アホみたいな返事をしてしまう。


「とりあえず、選定をどうするかでしょうか?採用しづらいものや、趣旨に反したものも結構出てきそうですし。」

「そうだな。選定作業はとりあえず2段階に分けようかなと思ってる。とりあえず大まかな担当としては、土端つちはたと2年が選定、1年2人が打ち込みと校正、土端以外の3年3人がデータ原稿の最終チェックと選定落ちからの拾い上げって感じで行こうかな。」


 会長と副会長で話がどんどん進んでいく。

 1年は自分と、真方まがたさんの二人。打ち込みはメールも多いから作業量は大したことないだろう。問題は・・・


「校正ってどんな感じで作業したいいんでしょうか?」


 自分と同じ心配をしていたのだろう。真方さんが会長に質問する。


「とりあえず、選定の3人が選んだ怪談を、パソコンのソフトに入力してデータ化。入力しながらでも、一通り打ち終わってからでもいいから、誤字や脱字、文章に間違いがないか確認。誤字脱字とか、間違った文章だと興醒めしちゃうからね。伝聞系だと「らしい」が語尾に続くのがありがちなんだけど、そういうのは、まあ基本放っておいてもいいや、色んな人が投稿したんだって言う色が出ると思うし。まあ、よっぽど気になるなら少し減らして調整してもいいよ。」


「あ、あと募集の時の注意事項にも書いてあるんだけど、個人名とか、明記すると支障がありそうな住所とかが書いてあったら伏せ字にしておいてください。特に心霊が出たとか、事件が起こったみたいな場所の固有名詞が書いていると、風評被害とか、うちの学校の生徒が文集を読んで肝試しに行って問題起こすなんてことがあったら大変なので。」


 副会長が補足する。

 確かに、事件があった場所の名前が書いてあったら、行きたくなってしまうのが高校生の性かもしれない。そもそも、この文集を手に取る人間自体、心霊に興味のある人間がほとんどなんだし。


「伏せ字の仕方どうしますか?マルマルとか、バツバツとか色々あるんで、統一した方がいいかもしれません。個人的には黒ベタがいいですね、都市伝説っぽい感じがして。」


 隠岐先輩の言ってる都市伝説っぽい黒ベタというのは、ネットで流行っているナントカ財団だかっていう都市伝説創作サイトの影響だろう。自分も先輩に勧められて一度読んでみようと思ったのだけど、あまりの数に圧倒されてしまって、どれから手をつけて良いかわからず、結局少し読んだだけで止まってしまっている。


「ベタ塗りか。うん、いいんじゃないかな。確か、フォントの中に塗りつぶされた四角い図形とかあるから、それを辞書登録するといいね。伏せ字の文字数とかはあんまり気にしないでいいよ。3文字を2文字分塗りつぶしてもいいし。逆に正確にしすぎるとバレたり、作業もめんどくさくなるしね。」


「とりあえず、担当は決まったな。今来てるヤツに興味あるし、とりあえず今日はみんなで回し読みしよう。」


 古寺先輩の一声で、副会長が印刷していた怪談をテーブルの上に広げてくれた。

 これから、どんな怪談が集まるんだろうか。悪趣味なんだろうけど、わくわくしている自分がいる。



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