九 「マンデラ効果」 同窓会員

 事実とは異なる記憶を多くの人が共有している現象。2013年に亡くなったはずの南アフリカの指導者ネルソン・マンデラを、1980年代に獄中死したと誤った記憶を持つ人が大勢現れたことに由来している。

 この、「マンデラ効果」というものがあるのを知ったのは最近のことです。

 自分が体験した不思議な出来事が、まさにそのマンデラ効果に当てはまるものだった、と知ったときは鳥肌が止まりませんでした。


 去年の夏のことです。

 高校進学のお祝いに、小学校の同級生で仲の良かったグループ、私を含めた7名で、食事会をしようと言うことになりました。

 場所は市内の格安バイキング食べ放題のある焼肉店。

 集合時刻の12時前に店に到着した時には既に半数の3名が集まっていました。

 集まったメンバーは、私、A、B、Cの4人です

 残るは3人。Dは幹事のAに急用のため少し遅れる旨の連絡があり、Eは部活のため元から遅れる予定、残るFについては連絡はないようでした。


 予約時間は12時のため全員が揃うまでに入店。

 開始してから10分程度すると、Dがやってきました。

 久々の再会に、近況報告をしながら、楽しく飲み食いをしていました。

 12時30分になり、部活のため遅れる予定だったEも合流し、残るはF。

 全員の近況報告も一通り終わり、連絡のないFの話題になりました。


 私「Fはどうしたんだ?誰か電話かけてみたら?」

 私が心配になり、Fの名前を出すと、数人の顔が引き攣りました。


 B「は?何言ってんの?冗談でもそういうのやめろよ。」

 強い語調で私を睨みつける友人Bに困惑しました。


 私「冗談ってなんだよ。Fが来ないと全員揃わないだろ?」

 B「いや、本当に止めろよ!なんでそんなこと言うんだ!?」

 

 幹事のAもポカンとして、

 A「お前、Fと仲悪かったっけ?」


 すると、私とA以外のメンバーが顔を見合わせて、恐る恐る尋ねてきました。


 D「A、お前、Fから連絡もらったってことか・・・?」


 A「ああ、多分部活ないから大丈夫って。多分って言ってたから、もしかしたら部活になって遅れてるのかもしれない。」


 再度、ほかのメンバーが不審な顔をしました。

 Bが何か言おうとしたその時、信じられないものを見たと言う形相で固まりました。


 F「連絡忘れててごめん、急に部活になっちゃってさ・・・」


 Fが到着しました。

 そして、そのFを見た、私とAを除いた4人が、目を見開いて尋ます。


 D「お前・・・本当にAなのか・・・?」


 F「そうだけど、俺、そんなに変わったか?」

 Fが私に尋ねてきました。

 流石に小学生の時よりも垢抜けているけど、顔にはあの頃の面影がしっかりと残っています。どう見てもFに間違いありません。


 B、C、D、Eの4人がしばらく沈黙しました。


 B「お前、事故で、死んだんじゃなかったのか・・・?」


 Fが何が何だかわからないという顔で困惑していました。

 

 F「なに?ドッキリ?」



 B、C、D、Eの4人に詳しい話を聞くと、Fは小学校を卒業する前日に、交通事故に遭って、入院した。治療の甲斐もなく、そのまま亡くなってしまった。葬儀にも出て、出棺で泣きながら見送ったから間違いない。他の同級生に確認してもいい。全員がそう主張しました。


 しかし、現にFはこの場にいるし、私もAも、Fが事故にあっただなんて話は全く知りません。確かに、小学校を卒業したあとは、引っ越しをしてみんなとは違う中学校に行ったのですが、私とAは定期的に連絡を取り合っていました。


 その場は混乱したまま解散になり、Fを除いた6人で小学校6年生の時のクラスメートに連絡をして確認をしたのですが、その結果、40人のクラスメートのうち、28人、半分以上がFが事故で死んだと思っていました。同じように、その全員が葬儀にも出席したと言っています。それぞれの親などに確認してもらうと、Fの事故を知ってるかどうかはまちまちでした。


 クラスメートの4分の3が同じ記憶違いをするなんてことがあるのでしょうか?


 今もFとは普通に遊んでいますが、もちろんFの学校にはきちんと在学しているし、一緒に遊びに行っても存在していないなんて扱いはされません。


 ただ、一つ、不思議なことがあって、それが卒業アルバムです。

 Fの写真は間違いなく卒業アルバムに掲載されているのですが、なぜか卒業式の集合写真にだけFがいないのです。私の記憶では、Fは卒業式に出席しているし、Fが卒業証書の写真も送ってくれたので間違いありません。

 Fに関する記憶違いは、ただの偶然なのでしょうか?

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