五 「金縛り」 バスケ部員
金縛りに遭った経験がある人って、結構いると思う。
俺も今まで何回も金縛りにあったことがある。
でも、今はネットとかで、金縛りの原因が疲労だってことも簡単に調べられるし、俺もそういう認識でいた。
例えば、部活で疲れ切った時とか、バイトが忙しい時期にはよく金縛りに遭う。
感覚的には、脳の意識の部分は目が覚めるんだけど、体を動かす部分が目覚めてないから、意識はあるのに体が動かせないって感じかな。
明晰夢の派生って感じ。明晰夢は、意識だけはあるけど、夢から醒めないし、体も動かない。この状態のまま、夢から醒めて、体が動かない状態が金縛り。
体験したことがある人は納得できると思う。
あと、目を瞑ってる感覚があるのに、周りが見えることがある。
これは、明晰夢の一種で、自分の見慣れた部屋、寝たままの状態の明晰夢を見てる。俺は何度も経験したから、間違い無いと思う。
寝ている時に幽霊を見たとか、襲われたとか、そういう話って、ほとんど、この自分の見慣れた部屋、寝たままの状態の明晰夢でしかない。
前置きが長くなってしまった。
2ヶ月ほど前に体験した、金縛りの話だ。
その日は、前週の練習試合で惜敗したこともあって、顧問も部員もかなり気合の入った練習をこなした週の金曜。2年の俺は、交代で出場機会があったけど、大した活躍もできずに悔しくて、その悔しさを練習にぶつけた。
そのお陰か、今までに無い疲労で、帰り道もフラフラ。疲れすぎて夕食も大した喉を通らず、カラスの滝行っていうんだっけか、風呂も湯船に浸からずにシャワーで済ませて、早々に自室のベットに倒れ込んだ。多分9時にもなっていなかったと思う。
いつもなら寝る前はスマホで動画を見たり、グループでメッセージのやり取りとかをするんだけど、そんな普段の習慣すらやる気が起きなかった。
俺のスマホ、もう結構充電池が死んでいて、その日は帰宅する前には充電が切れてたのに、スマホの充電をしないで寝てしまった。
いきなりスマホに着信が入って飛び起きた。
アプリの通話の呼び出し音じゃなくて、普通の電話の呼び出し音。
画面を見たら、友達の名前だった。
なんでこんな遅くに電話を掛けてきたのか不思議だった。それに普通ならアプリの無料通話で掛けてくるのに、わざわざ金の掛かる普通電話。
「もしもし?」
返事がない。何度か声をかけるけど、なんの反応もない。
「どうした?わざわざ電話ってことは、急用なんじゃないの?」
そんなことを聞いているうちに、少しづつ頭がはっきりしてきたんだ。
あれ?俺のスマホ、充電切れてなかったけ?
スマホを耳から離して見てみたけど、充電ケーブルは差さってない。
友達からも返事は一向にない。
ただ、なんか電話の向こうからノイズみたいな音が聞こえるようになってきた。
ああ、これ、夢なのか。
明晰夢かな?と思ってあたりを見回す。首は自由に動く。
体も、動く。
なんとなくベッドに腰掛けて、スマホから聞こえるノイズを聴いてた。
よくあるザーザーってノイズじゃなくて、電話とか無線とかで電波が悪い時みたいな、なんて表現したらいいかわからないんだけど、喋ってる声を邪魔してるみたいなノイズ。
友達がなんか言おうとしてる?
なんて言おうとしてるか、耳を澄ます。
「・・で、ぼ・・・・・だの?」
グチャグチャしたノイズから、何かが聞こえてくる。
わからないけど、急に冷静になって、すごい不安と恐怖が込み上げてきて、電話をきらないとならないって思ったんだ。
でも、いつの間にか体が動かない。金縛りだ。
でも、知らない。俺はこんな金縛りの状況になったことがない。
「な・・、・・だけ・・だの?」
どんどん電話口の声がはっきり聞こえてくる。ホラーにありがちな展開だ、って冷静な自分もいたけど、これ以上聞きたくないって恐怖が強かった。
「・ん・、・く・・しん・・?」
どんどんノイズが薄く、聞き取りやすくなってしまってきた。
「なん・、ぼ・・・・・だの?」
やけに幼い声だった。
「なんで、ぼくだけしんだの?」
目が覚めると、いつも通りベッドの中にいた。
よかった、全部夢だった。
スマホの充電も切れていた。スマホを充電して、朝ごはんを食べに行った。
部屋に戻ってきて、電源が戻ったスマホを見る。
気になったから、着信履歴を見る。
「午前01:24 タカギ リョウスケ」
本当に着信があった。
登録しているはずのない、友達だったやつの名前が登録されている。
小学校の時、事故で死んだ親友の名前。
怖くて、すぐにスマホを買い替えて、電話番号も変えたけど、よく考えたら意味はあるのだろうか?
あいつが死んだ後、中学校になって初めて買った携帯電話の番号に掛かってきてるのに。
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