8月に入り、9月に迫った学校祭の準備の話で騒々しくなってきた校内。

 特に、部活や同好会はクラスの出し物と違い、統率が取りやすく、凝った出し物が多い。

 我がオカルト同好会は、例年怖い話寄席をするのが通例となっていたが、マンネリ化していたのもあったのか、去年の客の入りは非常に寂しいものとなってしまった。

 月山会長はそれに危機感を覚えたようで、新しい催しを検討している。そもそも、オカルト同好会は、3年が4人、2年が2人、1年が2人。来年1人でも入会希望者がいなけれが、同好会設立の規定である5人に満たず、そのまま1年が過ぎてしまうと廃会になってしまう。

 放課後、全会員が集まっての打ち合わせは完全に行き詰まってしまっていた。怪談寄席をやるにも、そもそもとっておきの怖い話が伝聞のものばかりで、イマイチ臨場感に欠けるというところもあったし、オカルト同好会として伝聞の怖い話をメインに据えるというのも沽券に関わるというものだ。

 そもそも会員だけで怪談話を収集するのにも限度があった。実際に出遭った怖い体験談は会員各々持っているものの、自称霊感体質である3年の石上さん、2年の太川おおかわさん以外はあっても5、6話で、心霊現象を直接体験することの難しさを実感していた。

 会としては、実際に心霊スポットに出向いてみたりもしたかったのだが、学生という身分では夜の活動は大っぴらにできるものではなく、車などの移動手段も乏しいため、近隣の心霊スポットに各々で出向くという程度だった。

かくいう自分も、近場にある、「地元では有名な心霊スポット」に夜中に一人で行ってみたが、特にこれといった体験はなく、スマートフォンで手当たり次第撮った写真にはオーブすら写らず、心霊スポットなんてこんなもんなのかと打ちひしがれた。


「百物語でも募集して、配布でもしますか?この間の投書も気になりますし。この同好会の宣伝にもなるかも。」


 副会長の石上さんが提案する。

 石上さんは、容姿端麗で明らかにこの同好会に似つかわしくない、いわゆる高嶺の花とされるような人なのだが、オカルトが趣味だということを臆面もなく公表している、だけならまだしも、自分がいわゆる霊感体質であることも堂々と公言しているため、異性のクラスメイトからすると高嶺の花というよりもマンチニールの木くらいには近寄り難い雰囲気になっている。

 同じ趣味の自分としては、今のところ食虫植物のくらいだろうか。


「この間の投書か・・・。俺も気になってはいたんだけどな。ああ、灰島先生にも聞いてみたけど、鹿島和弘なんて生徒に覚えはないそうだ。あの人、ここに10年近くも勤めているし、知らないはずないと思う。ただ、1年に鹿島めぐみは本当に在籍しているそうだ。この話が本当なら投書はその子だろうと言っていたし、なによりその子の兄ともなれば、忘れるなんてことはないと言っていたな。鹿島という名字の生徒は初めて受け持つと言ってもいた。真方まがたさんは同じ学年だけど、その鹿島という女子とは知り合いじゃないのかい?」


「すいません、同じクラスではないので、初めて聞きました。」


 会長の問いに、真方が申し訳なさそうに応える。真方は、自分と同じ1年で、隣のクラスだ。うちの学校はそれなりに大きな学校で、各学年10クラスを超えているから、名前の知らない同級生がいることが当たり前だ。


「まあ、クラスが違うなら知らなくても当然か。でも、百物語を募集する、ってのは面白い案かもな。」


 それには同意だ。この少ない部員数だとどうしても収集できる怪談話にも限界があって、結局インターネットを漁っては、考察してみたり、というのが活動のほとんどになってしまっていた。


「そうだな、募集すればこの学校で体験した怖い話なんかも集まりそうだし、募集するだけしてみるか。多少集まりが悪くても、会員で持ち寄って100話にするくらいならなんとかなるだろう。」


 古寺こてら先輩もとりあえずは賛成のようだ。古寺先輩は会長副会長と同じ3年で、会員の中でもアクティブに怪談話を収集している。ぱっと見は今時の人って感じの好青年で、サッカー部あたりにでも所属していそうな爽やかな人だ。


「他の会員も依存はなさそうだな。じゃあ、募集要項でも検討するか。」



怖い話募集します


 学校祭の企画として、百物語の編纂を検討しています。

 よりバラエティに富んだ百物語集を作成したいので、是非みなさまの怖い話をお聞かせください。


○募集内容

・タイトル−ない場合はこちらでつけさせていただきます。

・学年氏名−出版時に氏名の公表を控えたい方はペンネームをご記載ください。無記名の場合は、匿名希望とします。

・怖い話の内容−体験談、伝聞問いません。学校内外の体験談問いません。

・文体−問いません。一人称視点、三人称視点、伝聞調等の指定もありません。

・留意事項−インターネット等で広く流布されている話を投稿するのはお控えください。また、人間が怖い話は原則として禁止です。ただし、生き霊や呪術等超常現象が含まれる場合、人か霊か判断がつかない場合は問題ありません。

 人間が怖い話の例・・・自分の住むアパートで殺人事件が起こった。警察が事情聴取に来たが犯人は見ていないと回答。後日、テレビにはその殺人事件の犯人としてあの時に来た警官の顔が映っていた。

・備考−プライバシー、風評被害等配慮のため、刊行の際には具体的な地名や氏名等を伏せて掲載する場合がございます。また、内容が長すぎる場合等、編纂の都合上、内容が変わらない程度に改稿させていただく場合がございますので、あらかじめご了承ください。また、応募数が100通を超過した場合は、こちらで冊子に掲載する話を選定させていただきますので、必ずしも投稿した怖い話が掲載されるわけではございません。

・投稿先−各所に設置する投稿箱、オカルト同好会室への持参、下記のアドレスへのメール。

 メールアドレス・・・██████@████

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