白
テレビ野_灯里
拝啓 オカルト同好会の皆様
突然のお手紙、失礼致します。
私の兄についての話です。
4年ほど前のことです。
当時、私は小学6年生、兄は高校3年生でした。
兄は歳の離れた妹である私をとても可愛がってくれ、二人で買い物に行ったり、ゲームセンターに連れて行ってくれたり、同じように私も兄にとても懐いていました。
詳しい日付は忘れてしまいましたが、夏休み期間だったと思います。親戚一同で集まりがあり、3泊4日で田舎にある父方の祖父母の家に行った時の話です。詳しい理由は覚えていませんが、たまには親族で集まろうということだったのだと思います。
初日の夕方ごろに祖父母の家に着き、久々に会う従兄弟家族たちと挨拶をしました。久しぶりの従兄弟達に、人見知りの私は打ち解けるのに少し時間がかかりましたが、2日目には、子供たちだけで遊ぶ時間もあり、徐々に慣れていました。
私はその中で最年少で、高校生や中学生のお兄さんお姉さんが6〜7人いたと思います。
3日目の晩のことです。
祖父母の家はとても大きく、また周囲を畑に囲まれた場所にあったので、どこかへ遊びに行くということもできませんでした。暇を持て余した従兄弟たちが、裏庭にある先祖代々の墓地に肝試しに行くという話をしていたのですが、おじさんやおばさんに非常に叱られ、夜は家から出るなと怒られていた記憶があります。
それでも何かスリリングなことがしたかったのだと思います。誰かが「百物語」でもやろうと言い出し、みんなはそれに賛成していました。
当時の私は百物語がなんなのか知らず、従姉妹お姉さんに聞いて、自分は参加したくないと不安になったのを覚えています。
お姉さんは、その中で一番幼かった私は聞いているだけで良いし、それでも嫌なら部屋に戻っても良いと言われ、恐怖とは裏腹に多少の興味を持っていた私は、とりあえず参加することになりました。
夕食後、各々がお風呂を終えた頃に始まった百物語は、70話を超えた頃には0時を回っていたと思います。百物語といっても、所詮学生ですので、1話1話が短く、学校の怪談が多かった記憶があります。
懐中電灯の灯りだけで暗い部屋の中、私は怖さと眠たさで抱き着いていた従姉妹のお姉さんの膝にうずくまり、気がつくと朝で、私は自分が寝泊まりしていた部屋で、布団に入っていました。
従姉妹のお姉ちゃんか兄か、布団に運んでくれたんだな、そう思って、少しぼうっとしていました。
ダイニングから朝御飯ができたという母親の声が聞こえて、3家族全員が揃って朝食を食べ始めます。そこに、兄の姿はありませんでした。
夜更かしをしたし、まだ寝ているのかな、と思って、あまり気に留めませんでした。休みの日には良くある光景だったのです。
昼には、私たちは祖父母の家から帰る時間になり、荷物を片付け、車に乗り込みます。
しかし、驚いたことに、父は兄が乗っていないのに車を発進させたのです。
私は慌てて父に、「お兄ちゃん、車に乗っていないよ!」と声を掛けたのです。
父と母は怪訝な顔をして、少しの間沈黙していました。
「お兄ちゃん?従兄弟の恭平のことか?」
「違うよ、うちのお兄ちゃんだよ。」
「変な冗談はやめなさい。」
お父さんは少しムッとした顔で、話を切り上げてしまいました。
お母さんは、
「久しぶりに従兄弟のお兄さんたちに会って、お兄さんがほしくなっちゃったのかもね。」
と父に話しかけていました。
車に乗っている間、何がなんだかわからなくて、ずっと不安でした。
自宅に着き、私は直ぐに兄の部屋の前へ向かいました。
恐る恐る、ドアを開くと、そこは兄の部屋ではなく、父の書斎、ということになっていました。
兄の勉強机、服の入ったタンス、趣味だったプラモデル、一緒によく遊んでいたテレビゲーム、すべてが初めから無かったかのようにそのどれもがそこには無く、初めからあったかのように大きな本棚に本がびっしりと並べられていました。
その後調べて知ったのですが、百物語と言っても正しい形式をとったわけではありませんでした。百本の蝋燭を一つずつ消していく、なんてことできませんでしたから。
ただ、兄がいなくなったのは、この百物語のせいなのではないかと思っています。百話目が終わった時、兄の身に何があったのか。今となっては知る由もありませんが。
兄が通っていたこの高校に入学し、オカルト同好会というものがあると知り、お手紙を投書させていただきました。
初めから兄がいなかったと思いたくありません。もし、百物語について、参加していた人間が存在ごと消される、そのようなことがあるのかどうか、なにより、この高校に兄の在学していた形跡が残されていないかどうか、お心当たりがありましたら、情報をいただきたく、筆を取りました。
兄の名前は、鹿島 和弘です。
敬具
鹿島 めぐみ
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