第20話 居候 2
天
芽吹きと共に
這いずり回る蟲たち
美徳な蛾は蝶をおしのけ
蜜吸う
アネモネ
明治の頃より
主人は
鴨井家は明治の頃よりこの地で商いを始め、大吉の代になってからは、料亭を始め益々の繁盛をしていた。一人娘の葛葉は文字通りの箱入りで外泊をさせるのも今回が初めてのことであった。
「おかえりなさいまし」
「
黒縁眼鏡の奥、鋭い眼光に背筋が泡立つ。かつての優男は面影もなく冷たい熱を帯び青い炎が瞳を濁していた。
「私には、難しいお話はわかりませぬが、お疲れでしょう。湯を沸かして有ります故、どうぞお休み下さいな」
「葛葉はどうした?顔も見せず。旅疲れで寝込んでいるのではあるまいな?」
「それが、先程のお話にあったように、汽車が止まって行くも戻るも難儀だそうで」
「なに?
「いや、母上様の処には居らんのです…」
「では何処に居るのだ?」
「大里町の与一の処に世話になっております」
「なんと、与一とは、また懐かしい名だ。そうか、そうか旅の縁とは面白いものだ。沙織も一緒だ。心配も無かろう」
ふと綻ぶ、優しい表情にハナは安堵した。最近の大吉は交友関係が政治だの思想だのに傾き、別世界の人間のやうに感じ、憑き物に喰われそうな危うさを纏っていた。自分は扠置き葛葉まで無関心になっては仕舞わぬかと漫ろにいたのだ。
「葛葉が戻ったら、話したい事がある」
「はて?お話とは?」
「縁談だ。淀川先生の御子息でな。勇ましい志の若者よ」
ハナの目から見れば、大吉の心境は霞がかかっていた。縁談という言葉は本来明るい意味合いを含むものだ。然しながら上機嫌な大吉が恐ろしく感じてしまい、ただ「結構なお話で」と相槌を打つことしか出来ずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます