第14話 鴨井葛葉 4


薄雲に墨汁一滴 半紙に垂らす濃淡差

言葉を知らずとも 染み入る想いは

僅差なく打ち寄せ 砂文字となり

海へと帰る 輪廻の輪




「私、笑われるかしら」


 十八にもなり恋心の糸口さえ感じた事がなかった。箱入りと言えば聞こえは良いが世間知らずは自負している。

 目蓋が重くなれば布団が用意され、風呂を掃除せずもお湯を頂ける。知識こそあれ経験が酷く乏しい。人様に打ち明けようとも嫌味にしか聞こえぬ劣等感を抱いていた。


「胸が痛いのでしょう?」


「何故分かるのですか?呼吸の仕方も忘れる程、等等私はうつけ者になって仕舞ったのかしら」


 沙織の肩が小刻みに揺れ、私から視線を切る。


「ふふふふ。」

堪えきれず吹き出す沙織。扇子を取り出し仰ぎながら、ずいっと身を乗り出す。


「どうしたの?何が可笑しくて?私は苦しいと申しておるのに」


「葛葉様、それが恋で御座いましょう。あゝ何と可愛らしい事。綺麗なお顔が益々お綺麗になって。ほら、ご自身のお顔を見てくださいまし」


 漆塗りの手鏡を渡され覗き込む。そこには頬も耳も朱色に火照り、潤んだ瞳の私がいた。






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