第13話 鴨井葛葉 3


 箸を添えるだけでほろりと身が掬われる。金目鯛の白さを優しく色付ける煮汁の慎ましさに惚れ惚れする。口に運べば溶けて無くなり儚い余韻だけが静かに佇む。


「美味しゅう御座いますね」

沙織の笑顔に余計に美味しく感じた。何だか自分が褒められた気になりついつい調子に乗る。


「沙織、いつも有難うね。幼い頃から私に付ききりで、時には嫌な事もあったでしょう。ただでさえ鴨井の家は面倒事が多いのに」


「何を仰っしゃいます。沙織は葛葉様のお側に居させて頂き大変幸せで御座います。ほら、今だってこんなに美味しいお食事を頂けて」


「ふふふ。それもそうね。美味しい物が頂ける幸せは代え難いわ」


 沙織が鴨井家へ奉公に来たのは何時の頃だったか色白ですらりとした立ち姿を初めて見たとき私は密かに憧れを抱いていた。

 その年の初雪が中庭に薄く積もり小さな荷物を持った沙織が深々とお辞儀をしている光景が焼き付いている。


 父娘の感性とは似たもので、父上様も沙織を直ぐに気に入り白地あからさまに溺愛した。それは母上様も知る処であって、母上様の伝えかは知らないが女中達から沙織は酷い扱いを受けてきた。

 父上様ときたら事実を知らぬ訳も無いのに夜な夜な沙織を呼びつけては布団を共にした。


 ある晩の事。


 私は父上様の御部屋に忍び込み天袋に隠れていた。無知な子は沙織が何か酷いことをされてはいまいかと心配をした。否、それは表面的な感情であり本質は内側から疼く好奇心だった。


 暫くして父上様と沙織が部屋に入ってきた。

 戸を閉めるなり着物を剥ぎ取り、顕になった乳房を揉みしだき噛みつく。


 灯りに照らされた沙織の肌が火照り赤くなってゆく。戯れ合う猫のやうに互いを舐め合いやがて結合する。下から突かれる度、琥珀色の吐息が沙織の唇から漏れる。仰け反り腰を振る姿に合わせ私は無意識に自分の突起を擦っていた。

 沙織の美しさに酔いしれ幼心に快楽を共感したく擦り続けた。父上様の名を呼びひくひくと動く沙織を見て強く儚い心持ちになっていた。


「恋心ってどんな想い?」


 急な問いかけに沙織はにこやかに答える。


「良いものですよ。相手を思えば思う程、苦しくて辛くて一噌のこと自分さえ居なければなんて思うものです。」


「えっ、それじゃあ全然良いものじゃ無いわ」


「お相手も同じ気持ちで居てくれているのです。こんなに幸せな事はありません。本当に勿体無いくらい」


 ふふふと笑う沙織。私にも思い会えるお相手様が現れてくれるのだろうか。お酒を少し頂くと心がチクリと痛くなった。






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