第35話 ジャム

 茶会が始まったが、とりあえずは紅茶とお菓子を嗜みながら、沈黙が続いていた。

 そんな中、ロゼリアはさっきの女王陛下の言葉がかなり引っ掛かっていた。

 確かに、ロゼリアたちはことごとく人生二周目であるので、どこか年不相応のところはあるものである。

 しかし、ロゼリアは女王陛下の言葉の語気に、なんとなくではあるが、違和感を感じたのだ。子どもっぽくないから、年相応に楽しみなさいという事なのだろう。そういう意味であるはずなのに、ロゼリアは気になってお菓子の味が分からなくなっていた。

 紅茶とお菓子を食べ、ある程度くつろいだところで、

「三人で立ち上げた商会が、無事に開業したようだな。まずはお祝いを述べよう」

 女王陛下が、いきなり祝辞を述べた。

 ロゼリアたちは、驚きで固まった。父親たちになら分かるのだが、子ども三人に言う事自体が異例である。

「何を驚いておる。人員や箱物は確かにそなたらの親がした事だが、主力となる商品の開発はそなたたちの功績であろう? 今日の茶会もしっかりと利用しようとしておる事くらい、見抜けぬ妾と思うたか?」

 ロゼリアたちは更に驚いた。さすがは歴代の中でも抜きん出てると言われた女傑。洞察力が高すぎる。

「さすがでございます、女王陛下」

 ロゼリアが頭を下げる。

「して、本日は何を持って参ったのだ? 見せてみよ」

 間髪入れずに、女王陛下が興味津々に尋ねてくる。それに対して、ロゼリアは自分の侍女であるシアンを近寄らせて、

「シアンの実家であるアクアマリン子爵領から取り寄せた砂糖と、私の家の領地特産の果物を組み合わせた物になります。アイディアはチェリシアから頂きました」

 そうやって、シアンが取り出した小瓶を、茶会のテーブルに置く。

 女王陛下は、テーブルに置かれた瓶にとても興味を示している。

「これは何なのだ?」

 女王陛下が問えば、ロゼリアは目配せをしてチェリシアに答えさせる。チェリシアは頷くと、椅子から立ち上がる。

「は、はい。こちらはマゼンダ侯爵領で採れる果物を、アクアマリン子爵領の特産である砂糖で煮詰めた物になります」

「ほほう」

 チェリシアの説明に、女王陛下が反応する。一瞬、固まりかけるが説明を続ける。

「名前をジャムと言いまして、パンに塗ったり、紅茶に溶かし込んだりと、主に添え物として使う物になります」

 緊張しながらも、きちんと説明を終えられた事で、ロゼリアがホッとする。ペシエラも感心している。

 チェリシアはまだ説明を続ける。

「砂糖を使って煮詰めてありますので、多少の保存は利きますが、水分が思ったより多いのでそこまでではありません。ですので、このような少量ずつ瓶詰めにしています」

 話に女王陛下が聞き入っている。そして、そばに居たお付きの使用人に、何かを言って走らせた。

「今回試供品としてお持ちしたのは、いちごとオレンジでございます。よろしければ、お試し下さい」

 チェリシアは一礼して椅子に座る。

 間髪入れずに、今度はロゼリアが発言する。

「得体の知れない物をいきなり試せと言われても困りますでしょうから、まずは私が毒味を兼ねて実演してみせます」

 ロゼリアはそう言って、オレンジジャムの蓋を開ける。オレンジジャムは、スライスされた果肉が皮付きで残っている。食感のアクセントともなるが、初めて見たとなるといろいろ勘ぐりたくなってしまうものである。

 ロゼリアは茶会で用意された菓子の中からクッキーを選び、別の使っていないスプーンを使って、瓶からひとすくいのジャムを取り出してクッキー乗せる。

「先程、チェリシア様が申された通り、このように控えめに使います。あくまで調味料という立ち位置です」

 ロゼリアはクッキーをジャムごとかじる。ふわりとした酸味と甘み、クッキーのサクサクとした食感など、口の中に様々な味覚が広がる。体験したロゼリアは目を見開いた。

 続けて、ペシエラも食べる。ジャム作りを手伝いはしたが、こうして食べるのは初めてなペシエラも、その味わいについ笑顔になってしまった。

 その様子を見ていた女王陛下の元に、呼び出された料理人がやって来た。

「お呼びでございますか、女王陛下」

「うむ。この者たちの持って来た“ジャム”なる物を確認してくれ。どう扱うかはお前に任せる」

「はっ、畏まりました」

 料理人がジャムの確認に行く間、女王陛下は隣に目を遣る。そして、そこに居たシルヴァノ殿下の異変に気が付いたのだった。

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