第34話 王宮へ
一年振りの王宮でのお茶会に招かれたロゼリアたち。チェリシアとペシエラの二人は緊張した様子が見えるが、ロゼリアは堂々としていた。二人が緊張するのは無理もない。目の前に居るのはブランシェード女王陛下とシルヴァノ殿下の二人なのだから。
それにしても、婚約者候補にしておきながら、よく一年間も王家から一度も呼ばれなかったものである。夜会はあったのだが、そこでも特に目立った事はなく、そもそも子どもという事でシルヴァノ殿下が出てこなかった。故に、本当に一年振りの再会である。
目の前のシルヴァノ殿下は、今日も笑顔を絶やさない。演技なのか地なのか分からないが、ずっとにこにこしているのである。
ロゼリアが警戒していると、ブランシェード女王陛下が突如として歩み寄ってきた。これは異例とも言える事だ。
通常、王族や皇族は謁見中に玉座から動く事はない。近付く時にしても、通常は相手が動くものである。
だが、ブランシェード女王陛下は、自ら動いてロゼリアたちに近寄ったのだ。いくら相手が子どもだからといっても、本当にあり得ない事だった。
「今日は本当によく来てくれた。最近のそなたたちの活躍を嬉しく思うぞ」
近付いた上に直接お褒めの言葉を掛けるという、更にあり得ない事が起き、ロゼリアは頭が混乱した。
しかし、今回この席に同行したのは、ロゼリアたち三人とそれぞれの侍女の計六人。助けてくれる者など誰も居なかった。
「あ、ありがたきお言葉。……もったいなく存じます」
代表するように、ロゼリアが言葉を返す。それを聞いたブランシェード女王陛下は、ふっと温かい笑みを浮かべた。
「謁見の間は苦しかろう。すぐに茶会の場へと移動するとしようぞ」
女王陛下がそう言うと、女王付きの使用人たちが慌ただしく動き始めた。そのうちの三人が、ロゼリアたちとその侍女たちに近付き、エスコートを始める。
茶会の場所へと移動する最中も、女王陛下はロゼリアたちに話し掛けていた。
「婚約者候補に指名しておきながら、今の今まで何もしてこなかった事を詫びておきたい。というのも、そなたたちの働きを思うと、我がシルヴァノが相応しいのかと考えてな。シルヴァノの教育に打ち込んでいたというわけなのだ」
女王陛下と並んで歩くシルヴァノ殿下は、こくりと頷いていた。彼も九歳という割には、将来国を背負って立つという立場を理解しているのだろう。
「遊びたい盛りではあろうが、この一年間は我慢してもらった。今日は子どもらしく、存分に楽しんで欲しいものだ」
女王陛下の言葉が、ロゼリアに深く刺さる。時戻りを体験して、ロゼリアは実質人生二周目の真っ只中なのだ。確かに子どもらしからぬ言動があったとはいえ、女王陛下はロゼリアたちから何かしら妙な感覚を覚えたのだろう。
そうこうしているうちに、女王陛下とシルヴァノ殿下、それと女王陛下付きの使用人たちについて、とある場所へと到着した。
目の前の光景に、ロゼリアたちは言葉を失った。
連れられてきた場所は、王宮の中でも王族と一部の者しか立ち入れない庭園だった。
庭園には様々な花が咲き乱れていて、しかも手入れが行き届いているので、極上の美しさを放っている。
(ここもあの時以来ね。でも、ここに通されるという事は、私たちは王家にとって重要と判断されいるという事だわ……)
庭園の中央には、周りより数段高くなった屋根付きの場所がある。そこのテーブルの上には、既にお菓子などが用意されているようだった。
テーブルに到着すると、まずは女王陛下が椅子に座る。そして、その次にシルヴァノ殿下が座る。それを見届けてから、ロゼリア、チェリシア、ペシエラの順番に席に着いた。
(目上の人から順番だものね。チェリシアは先に座りかけたけど)
さすがに異世界からの転生者となると、その辺のマナーみたいなのが曖昧な様である。
(転生から一年経つんですから、いい加減覚えて下さらないと……ね)
ロゼリアは平静を装いつつ、内心チェリシアにツッコミを入れた。
こうして、一年振りとなる、女王陛下と王太子殿下を主賓とする茶会が催されるのだった。
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