第14話 視察

 挨拶を終えたロゼリアたちは、まずは子爵の別邸に荷物を運び込む。ペシエラの事は気になるが、今は後回しだ。

 荷物を片付け終われば、もう日が暮れかかっていた。今日のところは夕食を取って寝るだけとなった。

 チェリシアは久々の姉妹水入らずらしく、ペシエラと一緒に寝ているらしい。ペシエラの性格は分からないが、姉妹仲が良好なのはいい事だ。

「お嬢様、ペシエラについて探りを入れますか?」

 就寝前の世話をしているシアンが尋ねてくる。

「そうね。心なしか、私を見る目が睨んでいたように思うわ。それとなくコーラル子爵の使用人たちに聞いてみて」

「畏まりました」

 念には念を。少しの疑念も許せるはずはなかった。

 就寝の準備が終わるとシアンは、

「おやすみなさいませ、お嬢様」

 と、一礼をして部屋を出ていった。

 ロゼリアはベッドに入る。

(あのペシエラの表情、とても見覚えあるのよね。まるで、私が諌めてる時のチェリシアのような……)

 そう思ったロゼリアは、勢いよく上体を起こした。

「そうよ、なんで忘れてたのよ。あれはまるで学生時代のチェリシア・コーラル。妹だからっていっても、初対面に対してあんな表情するのはおかし過ぎるわ」

 そう考えたロゼリアだったが、眠気には勝てず、そのまま再びベッドの中に入る。そして、そのまま眠りについた。


 翌朝、ロゼリアは早めに起きて、軽く視察を兼ねた散歩へと出かける。まだ薄暗く、道行く人もとてもまばらである。一応念のため、シアンを伴ってはいる。

「貧乏子爵の領地ながら、この街はそこそこ外観は整ってるわね」

 ロゼリアが歩きながら感想を漏らす。

「海近くの拠点として整備されたようです。気候の変動が小さい事が決め手だったようですね」

 シアンが説明する。

「これだけ整っていれば、漁港として機能させられたんじゃないかしら」

 それを受けて、ロゼリアはふっと思った事を漏らすと、突然走り出した。

「お嬢様?!」

「釣りをしましょう、シアン」

 シアンが慌てて追いかけると、ロゼリアは楽しそうな顔でとんでもない事を言い出した。

 ロゼリアは釣りの経験は無い。だが、ここのところコーラル子爵領の事を調べていて、海が近い事から何かないものかと考えていた。そこで辿り着いたのが、よその地域で行われている釣りというもの。それを元に、かなり万能寄りの自分の魔力を応用してとんでもない事を考えついたのだった。

 海に突き出た岩場までやって来たロゼリアは、自分の魔力を練り上げて釣り竿と糸を生成したのだ。

 そして、餌すらも魔法生成して、釣りを始める侯爵令嬢。優雅な服装で岩場で釣りを始める少女の姿は、さぞ滑稽であったろう。知らず知らずに周りには人が溢れてきていた。

 釣りを始めて数十分後、ロゼリアの手にただならぬ感触があった。

「シアン、支えて!」

 咄嗟にシアンは、ロゼリアの体を支える。ぐぎぎと唸るロゼリアだったが、八歳でありながらも魔法を駆使して一気に引き上げる。

「うわぁ!」

 驚きの声と共に海から現れたのは、なんとも大きな魚だった。その光景に、知らない間に増えていた野次馬からも驚きの声が漏れ出ていた。

 その後は、危うく魚に逃げられそうになるが、シアンが無事に捕獲。ロゼリアが魔法の網を生成して、その中へとしまい込んだ。

 その魚を街で見てもらえば、どうやら食べられる魚だったようで、早速処理して市場へと流された。

 こうした一連の出来事は、昼には既に街中に広がっており、昼に視察に回ったヴァミリオの頭を大いに悩ませたらしい。なにせ、魔法を使うわ、大物を釣り上げるわで、八歳とは思えない事をしでかしてくれたのだから、まったくもって仕方がない。当然ながら、視察から戻ったヴァミリオに、思いっきりお小言を食らったのは言うまでもない。

 だが、この事によって、シェリアには漁業という新しい産業が生まれる事になったのだった。

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