第13話 コーラル子爵領へ

 翌日、ロゼリアたちは王宮へと出向く。

 そこで、王宮から出向く重役と魔法使いたちと合流。改めて、コーラル子爵領へと向かうのだ。

 今回向かうのは、コーラル子爵領の中でも海に面した街シェリアだ。温暖な海岸の街の中では、一番気候が安定している特徴がある。

 この場所を薦めたのは、もちろんコーラル子爵。だが、コーラル子爵の領地は王都からは遠く、馬車だと最低でも十日はかかる。なので、国王陛下は今回の視察には赴いてはいなかった。

「ロゼリア、お前はいつから魔法が使えたんだ?」

 王都を出てしばらくして、ヴァミリオがロゼリアに尋ねる。

「最近ですわ、お父様。友人チェリシアの提案を実現したくて、密かに訓練しましたから」

 ロゼリアは表情ひとつ変えずに、淡々と答えた。

 馬車の中には、ロゼリアとヴァミリオ、それとそれぞれの専属の従者の四人が乗っている。その従者たちは、親娘のやり取りをただ黙々と見守っている。

「お前は以前と比べてかなり変わった。あれだけおねだりをしていたというのに、それも鳴りを潜めている。一体何があったのだ?」

 ヴァミリオが真顔で尋ねれば、

「それは内緒ですわ、お父様」

 あっけらかんととぼけて返すロゼリア。いくら尋ねてものらりくらりと躱す娘に、ヴァミリオは聞き出す事を諦めた。娘が成長したんだと言い聞かせる事にしたのだった。

 道中、野盗や魔物が現れる事は無かった。整備された街道に沿っていたし、そこであれば常日頃から王国騎士や冒険者たちが常に警戒している。つまりは安心安全の旅だったのだ。

 そして、十日ほどの旅を終え、ロゼリアたちは無事にシェリアに着いた。街に着けば、そのままコーラル子爵のシェリアの別邸に向かった。

「お帰りなさいませ、旦那様、チェリシアお嬢様」

 コーラル子爵たちを使用人たちが出迎える。

「ようこそおいで下さいました、シルヴァノ王太子殿下、マルーン宰相閣下、マゼンダ侯爵様、ロゼリア侯爵令嬢様」

 主人たちに続いて、客人にも挨拶をする。ちゃんと上位から名を並べるあたり、貧乏とはいえど教育はしっかりされているようである。

「お前たち、殿下たちを客室に案内しなさい。ささっ、殿下、こちらへどうぞ」

 コーラル子爵が案内をしようとした、その時だった。

「お父様! お姉様!」

 館の中から、一人の少女が勢いよく飛び出してきた。

「おお、ペシエラ。元気になったようでなによりだ」

「ペシエラ、久しぶりですね。元気にしていましたか」

 ペシエラと呼ばれた少女。チェリシアによく似たピンクの髪に軽く内側にカールした毛先、少し赤みが強い瞳を持っていた。

 だが、ロゼリアはこの少女を見て違和感を感じた。

(前回には居なかった子ね。チェリシアはコーラル子爵のでしたもの)

 そう、ペシエラは初めて見る存在なのだ。学園でチェリシアと出会ってから、彼女の身の上はすべて洗い出した。その結果、コーラル子爵には子どもがチェリシアしか居ないと判明していたのだ。

(亡くなったとも聞いていない。つまり、この子はの可能性があるわ)

 ロゼリアは警戒しようとしたのだが、

(それはともかくとして可愛いわね……)

 チェリシアとコーラル子爵に甘える様子に、つい顔を緩めてしまった。

「おっと、申し訳ございません。次女のペシエラでございます。ペシエラ、殿下たちに挨拶なさい」

 ペシエラは父親に促されて、殿下たちに向き直ると、

「コーラル子爵家次女のペシエラと申します。お父様の領地にようこそおいで下さいました」

 淑女の所作とこれまた見事な挨拶をしてのけた。

 これを見たロゼリアは、チェリシアにそっと近付いて小声で尋ねた。

「この子は何歳なの?」

 それに対してチェリシアは、

「五歳よ。ゲームには居なかったから、私も驚いたわ」

 と答えた。

 やはり、本筋から外れた人物のようだ。

 ところが、ロゼリアは何かが引っ掛かった。

「あれ? チェリシアが前世の記憶を取り戻した時、まだペシエラには会ってないのよね? なぜ知っているのかしら」

 そう、ゲームに存在しない記憶にも無い人物を、どうして知っているのか。ロゼリアはそこが引っ掛かったのだ。

 ロゼリアの指摘に、チェリシアは青ざめる。チェリシアは既に強制力の影響を受けている事になるからだ。

 ところが、ロゼリアはこれに不敵な笑みを浮かべる。そして、こう言った。

「私たちの抗いか、物語の強制力か……。どちらが強いか、まさに勝負ですわね」

 ゲームの時間軸がまだ始まっていないにも関わらず、強制力との戦いは既に始まっているのだった。

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