第15話 塩を作ろう

 釣りをした翌日、ロゼリアは今回の視察団の全員と一緒に、シェリアの街の海岸に来ていた。

 目の前には大きな四角い木の桶が置かれている。小さな桶を使って、街の人が大きな桶に海水を汲み上げている。

 どうやらこの大きな桶は、昨日の時点で製作依頼をしていた物。国王陛下直々の依頼に、急ピッチでこしらえた物だそうだ。

 そして、大きな桶の一角には細かい目の網が付いており、そこから海水を汲み入れている。この網は目的は、汚れを濾すためである。網をよく見てみれば、砂や小枝に海藻など、様々な物が残っていた。

 次に、塩というものがどういうものかイメージできるように、場に居合わせた魔法使いたちに海水を舐めてもらった。全員がその味に顔をしかめている。

「な、なるほど。これが塩というものですか。確かに岩塩と似てるような違うような、そんな味ですね」

 その中の一人が感想を漏らす。

「では、マゼンダ侯爵令嬢」

「はっ。準備はできております」

 ロゼリアは返事をする。

 海水の入った桶の近く立つロゼリアの足元には、また別の木の桶が置かれている。海水から取り出した塩を入れておく桶だ。

 すうっと呼吸をして、ロゼリアは気合いを入れる。そして、手をかざして魔法を使う。

 次の瞬間、海水が揺らめき始め、白っぽいキラキラした物が次々と飛び出してきた。ロゼリアは魔力をコントロールして、それを足元の桶へと入れていく。やがて、桶の半分くらい溜まったところで、ロゼリアは魔法を使うのをやめた。

「これが塩か。ロゼリア嬢、ご苦労」

「……、ありがとうございます、国王陛下」

 よく見れば、ロゼリアは肩で息をしている。桶はそれほど大きな物ではないが、その半分ほどのとなるとかなりの量である。それほどの魔法を使えば、さすがに八歳児の体には大きな負担であった。

「ロゼリア様、大丈夫ですか?」

 現場に来ていたチェリシアが、ロゼリアに駆け寄る。

「ええ、大丈夫ですよ。……少し頑張りすぎただけですから」

 椅子が用意され、ロゼリアはそこに座る。この様子を見ていたペシエラは、どことなく面白くないという顔をしていた。

「とりあえず、味をご確認下さい」

 椅子に座って少し休んだロゼリアが、塩を確認するように促す。

 得体の知れない物という事で、最初は毒味が行われるようだが、なぜかチェリシアが真っ先に確認する。味を知っているからといっても、子爵令嬢だ。コーラル子爵家の使用人が止めようとするが、チェリシアは無視する。

 ひとつまみ取って、塩を舐めるチェリシア。

「うん、間違いないわ。塩です」

 味を確認して、頷きながら言うチェリシア。だが、この塩は精製塩とは違い、味が豊かだった。天然塩という感じだった。

 チェリシアが確認した事で、魔法使いや国王陛下も順番に確認していく。

「ほう、先程の海水とはまた違った味だな」

「水分の分だけ、味が薄まっていましたから」

 国王たちの感想に、チェリシアが理由を説明していた。

「なるほどな」

 国王が納得したところで、魔法使いに命じて、ロゼリアが行ったように海水から塩を分離していく。もちろん、魔法使いそれぞれの足元にある桶に対して塩を入れていく。だが、誰も桶を満たす事はできなかった。

「もう塩が出てきませんね」

 一人の魔法使いの声に、チェリシアは杓を持ってきて水をすくって飲む。そして、

「塩分が抜け切っています。ここにあるのはただの真水です」

 塩が出てこない理由を説明した。

「この水はそのままにしておいて下さい」

 チェリシアはそう言うと、父親であるプラウスに顔を向ける。

「どうした?」

「お父様、塩を抜いたこの水を生活用水にしましょう」

 プラウスは驚いた。魔法で海水から塩を抜き、その水を生活に役立てる。考えた事のない方法に度肝を抜かれてしまったのだ。

「このような魔法の使い方は考えてもみなかったな。魔法を普段の生活にも活かす。これは考えてみる価値があるというものだな」

 今回の塩の精製の一件で、国王は次の事を考え始めた。

「うむ、今回は私も来て良かったと思うぞ。コーラル子爵、塩を量産できるように、この地に魔法使いを送る事を約束しよう」

「はっ、有難きお言葉でございます」

 国王の言葉に、プラウスは大きく頭を下げるのだった。

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