だって男の子だから……

「うわ……見なよ暁くん。すんごい値段が当然のように……」

「ン十万が当たり前って凄い世界だな……いや、俺らみたいな駆け出しも一回の依頼でかなり貰えてるから当然だけど」


 光くんもこういうとこは子供なんだな。

 梨華ちゃんは当然として光くんも物珍し気に露店に並べられた商品を見ている。


「あ、佐藤さんじゃないですか。うちの、どうです? これかなりイカしてると思うんですけど」

「あーん? どれ見せてみろ」


 アクセの類を売っている露店のチャラそうな兄ちゃんから商品を見せてもらう。

 ほうほう……こりゃあ感覚強化か? だが視覚や聴覚みたいなポピュラーなとこじゃなく味覚と来たか。


「中々面白いとこに目ぇつけてるじゃねえか」


 この分だと並んでいるのはどれも戦闘用じゃないっぽいな。


「ほら、そういうんは競合激しいっしょ? だからQOLを上げるような作ったらどうかって」

「コンセプトは分かる。普通の食い物でもより美味しくってとこか? だが変に味覚過敏にしたら逆効果じゃね?」

「ええ。そこらはやっぱ難しかったですけど商品として並べてるのはどれも一定のクオリティあるっすよ」


 今俺が手に取っている味覚強化のピアスは高級料理とかには不向きだがコンビニ飯とかにはピッタリなのだとか。


「高級料理向けのとかはねえの?」

「ないですね。そういうのは高い食材を腕の良い料理人が作ってますからね。完成度がダンチなんですわ」

「繊細なバランスの上に成立してるから下手に味覚を弄ったら逆にクオリティが落ちるか」

「はい。かなり難しいっす」


 素直だな。どこの誰だか知らんが気に入った。

 こういうタイプは結構、良いとこまで行くんだ。上手いことやれば更に上も目指せるだろう。


「先行投資だ。並べてるの全部くれ」

「……セールスかけといて何すけど良いんすか?」

「良いよ。俺、珍品集めも好きだからな」

「ざっす。お代はこれぐらいで」

「はいよ」


 異空間から取り出したアタッシュケースを幾つか渡してやる。

 ちょっと多いが……まあ、面白いもんを見せてもらったおひねりってことで一つ。


「お買い上げありがとうございます! これでちょっと、面白いの作れそうですわ」

「そいつは重畳」


 ちらっと子供らに視線をやると、


「……安全に配慮した妖刀?」

「それは妖刀って言えるわけ?」


 安全な曰くつきの品に揃って首を傾げている。


「ああ、そういうんはやめとき」

「佐藤さん……え、これやっぱり安全じゃないんですか?」

「いんや? 安全になるよう力をある程度封印してっから問題なく使えるだろうよ」


 ただこの手の封印は経年劣化するんだ。

 また封印をかけてもらうなら別途費用がかかるし最終的に高くつく。


「そういうのは自分で封印かけ直したりあれこれ出来る奴向けだな」

「なるほど」

「オジサンはそういうの持ってるの?」

「持ってるよ。何なら魔剣、妖刀なんかの曰くつきの品作りにハマってた時期もあるからねオジサン」

「「……曰くつきの品を……作る?」」

「うん」


 その手の曰く付きの品ってようは怨念なり憎悪なりをたっぷり染み込ませれば良いだけだからな。

 テキトーに剣買って悪神なり邪竜なりをぶっ斬れば余裕よ。


「六年ぐらい前かな? 仕事がクッソ忙しい時に邪神、悪神連中にちょっかいかけられてな」


 神話の垣根を超えた連合で音頭を取っていたのは北欧神話一のトリックスターロキだ。

 暇な時ならともかく忙しい時に立て続けにあれこれちょっかいを出され俺はキレた。

 本当は殺したかったんだがそいつらが属する神話のトップから勘弁してやってくれと頼まれたので俺は代わりに条件を提示した。


「曰くつきの代物を作るために協力させたんだ」

「ぐ、具体的にどんなことを……?」

「飛びっきり劣悪な環境を整えてそこに幽閉。サンドバッグみてえに吊るして只管、武器で甚振り続けた」


 武器は各神話お抱えの鍛冶師に作ってもらった。少年ハートを刺激するようなデザインのをな。

 んでそれを使ってザクザクやってしっかりと呪わせた。


「魔銃とかの時は銃身を腹に突っ込んでグリグリさせたっけな」

「「……」」

「ドン引きしてるが神はその程度じゃ死なんよ」


 そして邪神、悪神の類はその程度じゃ反省もしない。

 「そのデザイン、ちょっと子供っぽ過ぎない?」とかデザインにダメ出しするぐらいだからね。

 何なら最後の方は一緒に曰くつきの品作ってキャッキャしてたわ。

 私が作りましたって生産者ブロマイドの作成にも喜んで協力してくれたよ。


「大体、二千ぐらいかなぁ? その手のダーク装備が増えました」

「「……」」

「ま、俺の話はそれぐらいにして銃火器見に行こうか」


 タゲジイことタゲ取りの翁が開いている店へ向かう。

 タゲジイはその通称通り、ヘイトを集めるのが病的に上手いのだ。

 集団戦やるならタゲジイからノウハウを学べばまず間違いはないだろう。

 まあ気まぐれなジジイだもんで師事出来るかどうかは分からんが。


「やあタゲジイ。ちょいと商品見せてもらうよ?」

「お前さんか……ああ、好きなだけ見て行きな」


 タゲジイはカウンターの向こうでFPSに夢中のようだ。

 ゲーミングPCから一瞬も視線を外さないあたり商売舐めてるとしか思えねえ……。

 や、趣味で銃火器売ってるだけだから問題はないんだけどな。


「おっほ……すっご……うわぁ……」


 梨華ちゃん……女の子がダメな顔してる……。

 何? 今どきの女の子って銃火器好きなん? いやそれはないか。

 確かに美女美少女にゴッツい火器は映えるけどそれは男の欲望だし。


「光くんはこういうのにはピンと来ない系?」

「まあ、はい。俺はやっぱり刀剣類と……あとはその、ワイヤーとかカッコ良いと思います」

「良いね。確かにワイヤーでスパスパぶった斬るのもロマンだもんね」

「ああでも一発しか撃てない巨大砲とかには憧れるかも」

「分かるマン」


 男二人で駄弁っていると、ふと光くんの視線がある一点に釘付けになった。


「光くん?」

「こ、これは……もしかして……」


 ふらふらと幽鬼のような足取りで近付き、それを手にする。

 光くんが手にしたのは細いハンドライトのような金属の筒だ。

 ああ、店の品ぞろえ的にこういうのもあるわな。


「さ……佐藤、さん?」


 期待に満ちた視線に俺は慈母のように優しく微笑み、頷いてやる。


「スイッチを押して御覧」

「……!!」


 ぶぅん、と音を立てて光の刃が形成された。

 光くんは……泣いていた。


「ほし……これ、欲しい……欲しいです! 買います! ニコニコ現金払いで!!」


 値段は……おぉ、三十万か。安いな。

 まあ見た感じそこまで大した殺傷力なさそうだし妥当か。


「ああでもそれはやめといた方が良いかも」

「な、何でですか!?」

「刃を形成するリソースが自分の体力だからだよ」


 光くんは今んとこ近接が主体だからな。

 体力を削られる武器はよろしくないだろう。

 ものによってはありかもしれないが今手に持っているのでは火力を考えるとちょっとマイナスだ。


「高い買い物するんだ。どうせなら実用性あった方が良いだろ?」

「う゛……それは、そう……ですね……」

「そう落ち込まないの。多分……あったあった」


 この手の使い手の何かを消費する系の武器はタイプ違いのがあるんだ。


「こっちなら良いだろ」

「これは?」

「魔力を消費するタイプだね。俺が見た感じ光くんはそこそこ魔力あるっぽいし」


 ゲームとかでは魔力=精神力なのもあるが実際は別物だ。

 超常の力に目覚めることで人体に変化が起こり特殊な器官が生成されることがある。

 その器官から生成されるエネルギーを魔力と呼びそのエネルギーを主に利用するのが魔術だ。

 魔法は精神力をリソースにするので別系統である。


「な、ならそれにします! うっほほ……あ、これ色とか変えられませんかね!?」

「……まあ、それぐらいなら後で俺が弄ってあげるよ」

「ホントですか?! お願いします!!」


 微笑ましいなぁ。

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