三種のジンギ
仕事終わり。俺は高橋と鈴木と共に互助会の運営するサ店でコーヒーを飲んでいた。
鈴木に至っては三日連続かよ……と思わなくもないが今日は別に飲むわけじゃない。元々別の予定入ってたからな。
「おい、お前ら。ちったぁ落ち着けや」
「「いやだって……」」
そわそわしてるアホ二人を宥める。
昨日の夜、千佳さんから連絡が来たのだ。二人に会いたいと。
どういう心境の変化があったのかは知らんがネガティブなものでないのは声を聴いてれば分かった。
だから高橋と鈴木にその旨を伝え、今日会うことになったのだが……。
「いざ会うってなったらキョドってんじゃねえよ。ドンと構えてろドン! と」
「……しゃあねえだろ」
「……私たちは佐藤くんより繊細なんだよ」
「は? 俺のが繊細ですけど? 抜け毛を数える度に泣きたくなるぐらい繊細なんですけど?」
などと駄弁っていると梨華ちゃんと光くんを連れた千佳さんが入店した。
キョロキョロと周囲を見渡し俺らを見つけるや柔らかな笑みを浮かべ近寄って来る。
「こんばんはヒロくん。それに、高橋く……高橋さんと鈴木さんも」
「うぃーっす」
「お、おう……」
「ひさしぶり、だね」
三人揃って黙り込む。照れ屋かっつーね。
「じゃ、俺もう行くから後は君らでよろしくやってくれや」
「「「え、もう?!」」」
「子供らと約束あんだもん。そらそっち優先するわ」
ばっははーいと手を振り、梨華ちゃんと光くんを連れて店を出る。
「さて、そんじゃ行……どうした梨華ちゃん?」
「あ、いや……あのお姉さんたち、元は男の人……なんだよね」
「うぇ!?」
梨華ちゃんの発言に光くんがギョッとする。
ああ、千佳さん話したんだ……かなりデリケートっつーか何て説明すりゃ良いか分からん部分なのにな。
「まあそうね」
「……全然見えない。完全に女の人じゃん。エロと清楚系の美人さんじゃん」
ジャンルはさておき完全に女ってのはそりゃそうだ。
手術とかじゃなくオカルトな性転換だからな。
「それよりそこまで踏み込んだこと知ってるってこたぁ……アイツらが何しようとしてたかも?」
「うん。聞いてる。ママは全然気にしてないみたいだから……私も気にしないようにする」
「そうか」
拉致って生贄にするとかかなりヘビーな話題なんだがな。
それを子供の梨華ちゃんに軽い調子で話せるみたいだからマジで千佳さんは気にしてないんだろう。
「あ、ごめんね。話遮っちゃって。続けて続けて」
「あいよ。んじゃこれから闇市に行くわけだが二人とも、ちゃんとお金は持ってるか?」
「はい。言われた通り百万円用意しました」
「おなじくー」
梨華ちゃんはちょい不安だったが百万ぐらいは貯まってたか。
「よしよし」
最初は自身の能力をちゃんと把握する意味でも無手でやらせるのが定石。
しかし二人もそこそこ裏の世界に慣れて来た頃合いだからな。
そろそろ自分用の装備を見繕うことを考えても良いだろうと裏の市場へ連れて行くことにしたのだ。
百万というのはこんだけあれば初心者用装備は一式揃えられるだろうという予算である。
普通に考えれば大人からしても大金だが簡単な依頼でも一回の仕事で十万ぐらいは貰えるからな。
こなした数的にそれぐらいは貯まっていても不思議ではないだろう。
別に俺が金出しても良いんだが……こういうとこで甘やかすのはマズイからな。
「あの、佐藤さん。互助会でもそういうのは買えるんですよね? 吉野さんからこないだ許可証も貰いましたし」
「ああ。ただ闇市のが目利きさえしっかりしてりゃ安くつくからな」
デパートで魚買うより市場に直接出向いた方が安くて美味いの買える的な?
質の面でもそう。当たりはずれを見抜けるのなら闇市のが絶対良い。
俺が駆け出しの頃に通ってた店も紹介してやれるしな。
「まあでも今回は目利き云々は考えないで良いよ。俺が居るから」
最初だからな。目利きは次、買い替える時ぐらいから意識すれば良い。
その時、また良い商品の選び方を教えようではないか。
「よろしくお願いします」
「良いの選んでねオジサン!」
「俺が選ぶってか、君らが選んだのを判断する感じだから……さて、そろそろ行こうか」
二人を連れて向かったのは新宿二丁目にある小さな公園だ。
「人の多い場所で戦うことになった時、裏の人間は一時的に位相のずれた空間を作り出して戦うのが常だ」
それは終わったら消える一時的なものだが中にはそうじゃないものもある。
裏の人間が永続的に異空間を作り出している場所が日本全国にちらほら存在するのだ。
「ここが、その?」
「ああ。許可証貰ったってことはメルマガのランクも上るだろう」
入口は定期的に変わるものの有名どこのについては互助会のメルマガで常に把握出来るようになっている。
「今回はこの便所の裏にある落書き。この落書きな」
裏の人間が力を発動させると自動で転移する仕組みになっている。
やってみ、と促せば梨華ちゃんが真っ先に動いた。
「えい!」
「!?」
何の躊躇いもなく力を発露すると梨華ちゃんがシュン! と姿を消した。
大丈夫だよとフォローを入れると光くんも恐る恐る力を使う。
二人が行ったのを見届け、俺も同じやり方で入場。
「「――――」」
転移先に着くと二人は街の様子に呆然としているようだった。
まあそうよね。昔の闇市を現代でやったらって風情だもん。
そんなだからこういう大きい市場は闇市という通称で呼ばれているのだ。
「中々のもんだろ?」
「う、うん……すごいね……」
「この賑わい……圧倒されます……」
「大概のもんはここで揃う」
装備品の類だけじゃなく食べ物や表に出せない美術品とかも出回ってる。
探せば大体のもんはあるだろうな。質にこだわるならもっとディープなとこのが良いけど……。
(そういうのはこの子らにはまだ早い)
ああいうとこは大体、会員制だからな。
「さて。どんな武器を使うかちゃんと考えてきたかい?」
普通ならちゃんと色々使わせてその上で自分に合ったものを選ぶべきなんだろう。
だが何度も言うがこの世界は想いがものをいう世界だ。
カッコ良い――――そんな動機が適正を上回ることだってざらにある。
だからインスピレーションで考えるように言ってあったのだ。
一応、銃火器の類は弾薬にも金がかかるからいきなりはおススメしないと助言しておいたが。
(まあ拳銃ぐらいならそこまで運用コストもかからんのだが)
ただ駆け出しでも買えるぐらいの拳銃はメイン武装にはなり得ない。
何かと一緒に組み合わせて使うのが吉だ。
「じゃあますは光くん!」
「はい! えっと、その……俺は、刀とか良いかなって……」
少し恥ずかしそうに光くんが言う。
分かるよ。カッコ良いもんねポン刀。スタイリッシュに振り回したいよね。
「私はガトリング!」
「「ガトリング……ガトリング!?」」
思わず声を揃えて突っ込んでしまう。
おめー、俺の助言無視かい。インスピレーション優先かい。
「映画みたいにぶっぱなせたら気持ちイイかなって……ないの?」
「いやまあ、あるよ」
探せばな。
裏の人間だから固定せんでも普通に扱えるし。
「ちなみに佐藤さんは駆け出しの頃はどうしてたんですか?」
「俺? 俺は……まあ普通だよ」
武器カッコイイ! ってのはあった。
あったが武器よりも他に金使いたいものがあったからそっち優先して手堅いの選んでたわ。
「短刀、拳銃、回復薬に強化薬なんかが基本だったかな?」
「普通ですね」
「普通だろ? 趣味で選ぶようになったんは金に余裕が出来てからだったなー」
そんな話をしていると梨華ちゃんが小首を傾げ、
「
誰がヤクザだ。
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