恐るべき蛮族

「結構生き残ってんなぁ」


 俺が強化した月面に叩き付けられたことで艦隊は壊滅。

 悪くて全壊。運が良くても半壊以上。そんな状態だから船員も結構な数、死んだと思ったのだがそうでもない。

 感じられる生命反応からして結構な数、生き残ってしまったようだ。残数が100ぐらいになるよう間引くか。


くたばれUniverseインベーダーFuck


 地球外生命体に使うのは初めてなので出力強めで死の権能を発動。

 何で使えるのかって? 度々死神とやり合ってたからだろう。

 旅行でハデスの部下どもと戦った後にラーニング出来るか試してみたら出来たのだ。

 まあ他にもこういう即死系統の技はあるのでそっちでも良かったんだがな。


「よしよし、きっちり死んだな」


 感じる気配からしてインベーダーどもは人類よりも優れた生命体っぽい。

 この分だと科学だけじゃなく異能的なものも先天的に身に着けてそうだな。


「どれ、どんな姿してるか拝んでやろうじゃないの」


 指を鳴らし生き残った100を俺の眼前に転移させる。


【き、貴様が……貴様がやったのか!?】

【馬鹿な! 低能な猿が潤沢な資源を食い潰しているだけではなかったのか!?】

【これは情報部の失態だぞ!!】


 わいわいぎゃあぎゃあ言ってるがまるで気にならなかった。

 俺はこれでもかと目を見開き、インベーダーどもを見つめる。


「こ、これは……蟹? いや海老? う、うぅん……?」


 彼らは何とも食欲をそそるフォルムをしていた。

 でっけえ蟹のような海老のような……相の子? イノブタ的な?


【仲間の仇だ! くたばれ猿が!!】


 ハサミから光線が放たれ直撃。裏の平均的な火力で測るなら結構な威力だ。

 特別強そうな奴でもないから平均的な個体なんだろう。

 平均的な個体でもこの火力……火力……コイツら、焼けばどうなるんだ?

 俺の頭は目の前のインベーダーの味のことでいっぱいになっていた。


(いやさ、俺も見た目が人型なら多少異形でもそんなグロテスクな発想は浮かばんけど……)


 まんま甲殻類なんだもん。

 喋ってるけどこれは俺が特殊な力を使ってるから理解出来るだけで何もなしだとギーギー鳴いてるだけだし。


【む、無傷……?】

【蒼の星の技術が未熟に過ぎるのは個の強さが極まった弊害ということか!?】

【情報部め! 上っ面だけで判断するから……ッッ】

【撤退すべきだ!】

【言われずとも……か、身体が動かない!?】


 好奇心を抑えきれなくなった俺は光線を放った甲殻類を引き寄せ首根っこを掴む。

 そしてそのまま着火。焦げないよう慎重に火を通すが……。


(め、滅茶苦茶良い匂いィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!?)


 うっそだろお前!? 止めようと思っても滴り落ちる涎が止まらん!

 滝の如く溢れる涎は拭っても拭ってもキリがない。

 いやさ、俺もこれまで高い蟹やら海老やら食べて来たけど……く、比べ物にならん……!


(い、いやでも……匂いだけが良いって可能性もあるし……)


 腕を引き千切ってみると更に濃厚な香りが鼻を突いた。

 匂いだけで理性が飛びかねないほどなら、身はどれほど……。

 ホッコホコになった身を軽く手で千切って口に運ぶ。


「――――」


 俺は泣いた。


【ひぃ!? く、喰った! あ、あの猿……我々を喰うつもりなのか!?】

【野蛮だなどというレベルではないぞ!!?】


 何の、何の味付けもなしでこれ……?

 塩も何もなし。ただ焼いただけ。にも関わらず濃厚で、それでいて繊細な……。

 俺は今、言葉というものの未熟さをこれでもかと痛感していた。

 この感動を表現する言葉が見つからないからだ。


「宇宙、すげえ」


 万感の想い。言葉にしてみたら何とシンプルな。

 しかし、そうとしか言いようがない。

 嬉しいことに毒性なども皆無ときた。俺以外でもOKってことだ。


【というか泣いてる……?】

【こ、これは……何だ、伝わって来るこの感情は……敬意? 感謝?】

【て、敵対した者を倒した場合は感謝の意を込めて自らの裡に取り込むとかそういう文化……?】

【ば、蛮族……こ、こんな危険な種族がこの宇宙に存在していたなどと!!】

【精神構造が我々とは根本的に異なる! き、危険だ!】

【例えここで死すとも本国に情報を……】


 この出会いに感謝を。

 再度、死の権能を発動。彼らは眠るように死んだ。


「……」


 粛々と解体作業に勤しみ僅かな劣化も許さぬよう時の鎖で縛り付け肉を保存した。

 さあ、用は済んだし帰……ああダメだ。まだ残骸が残ってる。

 幾つかの船を異空間に収納し、他は一切の痕跡を残さぬよう消滅させる。

 宇宙ゴミが増えたら困るからな。ちゃんとしなきゃ。マナーだよマナー。


「お疲れ様です佐藤さん。ところで、そのぅ」


 地球に帰還すると会長が俺を出迎えてくれる。

 会長は……いや他の連中もか。モニターのお偉いさんはともかく部屋の中に居るのは日本人だもんな。

 そりゃあ……気になるよな。言葉が聞こえてたら話は別だったかもだが聞こえてたんは俺だけだしな。


「気前が良いと言われる俺だが……悪いね。今回ばかりは独占させてもらうよ」

「そ、そこまで……?」

「会長……総理や他の皆さんも……宇宙は、広いぜ?」


 それだけ言って自宅に転移する。

 解体に時間をかけたから時刻はもう一時を回っていた。

 やはりと言うべきか高橋と鈴木はまだ家に居た。グロッキー状態だ。


「お、おかえりぃ……佐藤くん、仕事はぁ……?」

「政府から緊急の依頼でな。分身作ってそっちを仕事に行かせた」


 本来なら入れ替わって午後から出るべきなんだろうが……今日は、無理だ。


「鈴木、飯作ってくれ」

「……こんな状態の私に頼む?」

「フッ、これを見ても同じことが言えるかな?」


 時間停止を解除した肉の一部を取り出し軽く炙ると、二人はガバっと跳ね起きた。

 匂いだけでも……ふふ、たまらんだろ?


「この匂いは……蟹? 海老? いやでもこれはどちらにも似ててどちらとも……」

「ど、どっちでも良いよ! 大方、裏の魔法生命体とか何かだろ!? そ、それよりさぁ……」

「ああ、分かってるよ高橋くん。……昨日買い込んだ食材はまだまだ残ってるし何を作るべきか」

「安心しろ。結構な量あるからよ」

「……そうか、なら全部だ。思いつく限りの物を作ろうじゃないか!!」

「「さっすが鈴木さん! 話が分かる~!!」」

「調子が良いんだから……ああでも」

「皆まで言わずとも分かる。トコトン、我慢しようじゃねえか。なあ高橋」

「おうともさ。何時間かけたって構わねえ!」

「……二人の決意、確かに受け取ったよ」


 数時間の地獄が始まった。

 しかしその苦行も後に待つ極楽を思えば耐えることに喜びさえ見出せる。

 全部の料理が出来上がる頃にはもう夕飯刻になっていたが待った甲斐はあった。


「美味ッ!」

「は、は、は……おいちい、おいちいよぅ」

「うめえ……うめえ……」


 一心不乱に貪る。クリームコロッケ最高! 炊き込みご飯も!

 ああダメダメ。これはいけませんこれはいけませんよぉ。


(……そろそろ良いかな?)


 落ち着いて来たところで俺はこう切り出す。


「いや~しっかし、こんな美味い宇宙人が居るとか宇宙、夢広がり過ぎだろ」

「……うちゅう?」

「……じん?」

「ああ、これ地球に侵略しようとしてた宇宙人の肉なんだよ」


 事の経緯を丁寧説明してやると二人はしばし無言になるが、


「宇宙、すげえ」

「宇宙、すごい」


 また普通に食べ始めた。

 よし、この反応なら千佳さんに出しても問題なさそうだな。


(ちょっと不安だったが)


 あの人は基本真面目だがわりと飛んでるとこもあるしこれならいけそうだ。

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