アポロ310号
昨夜の飲みは大変に盛り上がった。
飯がとにかくうめえんだ……やっぱプロは違うねえ。
美味い飯のお陰で酒が進む進む。もうね、大の大人がみっともないぐらいべろんべろんよ。
野球拳とかもしちゃった。あれだな。元は男つっても見た目がグッドだから普通に嬉しいわ。
まあ、
「「うごごごごご……」」
楽しんだ代償として二人はダウンしちゃってるが。
下着姿はエロいっちゃエロいんだが口の端から涎を垂れ流して白目剥いてるもんだから萎え萎え。
コイツら今日は休みだからってんでハイペースで飲んでたもんなぁ。
「おーい、俺ぁそろそろ出勤すんぞ」
「「お、お、お」」
「……合鍵、玄関とこ置いてくから出る時は施錠頼むな」
「「ひwでぃcでぃ」」
何言ってっかわかんねえ。というか聞いてるかどうかも不鮮明だ。
まあ良い。コイツらはほっといて俺は社会人としての勤めを果たすとしよう。
鞄を手に家を後にする。
「ふぅー……朝っぱらから元気な太陽だぜ」
マンションを出たところで少し足を止めて空を仰ぐ。
ギンギンギラギラ今日もお疲れ様ってなもんだ。
「さて、行――……エマージェンシー?」
意気揚々と駅へと歩き出そうとした正にその時だ。
スマホからエマージェンシーコールが鳴り響いた。馬鹿みたいに喧しい音量だが周囲の人間には聞こえていない。
俺のスマホは既製品をオカルトの力で改造したもので緊急の依頼がある時はこれが鳴るようになっているのだ。
スマホを取り出し画面を見る。画面は真っ赤に染まっていた。
(……地球滅亡案件か)
俺は分身を作り出し、そっちを会社に向かわせ本体の俺は官邸へ転移した。
官邸内に秘密裏に作られた裏の案件を扱う会議室に俺が現れるや、露骨に安堵していた。
モニターに主要各国の指導者が映し出されているあたり、かなりヤバそうだな。
「佐藤くん! すまないね」
「いえいえ……とりあえず何が起きてるか説明してくれません?」
軽く探ってみたが地球上で滅亡に繋がりそうな力などは発生してないっぽいんだが……。
〈ミスター佐藤、これを見てくれたまえ〉
大統領が促すと別の画面に大大とそれは映し出された。
闇の中を往く無数のSFSFした見た目のおびただしい数の大艦隊――――まさかの宇宙案件である。
「……今度はインベーダーかぁ」
これは俺にとってもお初だ。
〈つい先ほど世界各国の観測所が突如として太陽系内に出現した大艦隊を捕捉した〉
「ふむ……示威行動ですかね?」
〈我々はそう見ている〉
地球の技術で観測出来る範囲外から来たのは間違いないな。
〈どうだろう佐藤。君は……〉
「ああはいはい。大丈夫です。やれます」
映像を見てても俺の危機感がまるで刺激されんからな。問題なく片付けられるだろう。
どれほどのもんか正確には分かっちゃいないが仮にあれが地球に攻めて来ても俺抜きで何とかなったはずだ。
とは言え裏の人間だけでは無理っぽい。神の助力は必須だな。そうなると世界の様相は一変してただろう。
「それよか、ちょっとあのー……月を借りて良いですかね?」
≪…………月?≫
指導者の皆様方が? 顔になる。
「いやあれ全部まとめて月に飛ばしてそこで片付けようかなって」
〈……君が、月に?〉
「ええ。あ、宇宙服とかは別に要らんです」
宇宙空間でも普通に活動出来るしな。
〈いやそれよりあの……数を、質量を、全て月に……転移、させられるのですか?〉
「ええ。イメージ的には投網でこう、グイっと引き寄せる感じで」
流石に月ぶっ壊すわけにゃいかんのでしっかり月を強化した上でな。
〈…………何故、月? そんなことが出来るならどこかもっと離れた遠い星に……〉
「や、月ぐらいの距離のが皆さんもよく観測出来るでしょ?」
〈それは……いや、了解した。直ぐに準備を整えよう〉
目の色が露骨に変わったな。
とは言え配慮するのはここまでだ。
〈時にミスター。あれらの……〉
「残念だがそりゃ無理ですね。全部壊すかコレクションとして俺の懐に入れます。妙な火種になっても嫌なのでね」
個人の資質に大きく左右される超常の力と違いあれは多分、純粋な科学の産物だ。
人類共通の財産として共有するって題目にするとしてもだ。
何とか出し抜いて技術を独占しようとする動きは絶対、出て来る。
見えないとこでやる分にゃ別に構わないが表での生活にまで影響を及ぼされたら堪ったもんじゃない。
「異存はありますかね?」
〈…………いや、君の賢明な判断に感謝するよ〉
露骨にがっかりしてるな。
とは言え全員が損をするのだからそこまで不満はなさそうだ。
あと、イヤらしい話だが俺にヘソ曲げられたら困るってのもある。
「しかし宇宙……宇宙かぁ……」
観測準備が整うまで待機することになった俺は用意された席に腰掛け思いを馳せる。
「何か思うところがおありで?」
さっきまで総理と何やら話をしていた会長がこちらにやって来た。
この人も大変だねえ。朝っぱらから呼び出されてさ。
「いやぁ初めてのジャンルだなって」
SFは……まあ嫌いではないがライト層だからな。
有名なSF映画や漫画、アニメとかは見るけど技術がどうたら文化がどうたらなんて見てない。
戦艦からバシューン! と放たれたビームとかSFチックな武器を用いたアクションにキャッキャする程度だ。
「会長はどう? SFとか好き?」
「正直、その手のジャンルには疎いですね。私はほら、文系なんで。ミステリーとかは好きなんですが」
「ミステリーかぁ。俺らがやったら収拾つかないよね」
「トリックの幅が広がり過ぎて滅茶苦茶でしょうねえ」
会長とミステリー談義で盛り上がりつつ三時間後、ようやっと準備が整ったらしい。
早いのか遅いのか……難しいことはよく分からんが多分、早いんだろうな。
「じゃ、行って来ます」
軽く挨拶をして月面に転移する。
地球から見上げる月はあんなにも綺麗なのに、現地で見ると何ともまあ……。
パネル詐欺に騙されたような気分で少しガッカリだ。
「それじゃあ今から転移させます。十分ぐらいしたら攻撃開始しますんで」
そうお偉方に告げ暗黒の海を進む船を一隻残らず月の上空に引き寄せる。
多分、かなり混乱してるんだろうな。そういう思念を感じる。
意図せぬ転移。船を動かそうにも微動だにしない。そりゃ焦るわ。
「うん……十分経ったな」
それじゃあ始めるとしよう。
「太陽系へようこそ。歓迎するよ、インベーダー諸君」
歓迎の意と共に全ての船を月面に叩き付けた。
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