大番狂わせは起こらず
古来より三人組と言えばそれぞれ別個性と相場が決まってる。
そりゃそうだ。コンビなら同じでも似た者同士、相乗効果で倍つええ! とかやれるけど三人同じだとくどい。
三国志でもそうだろ? 劉備は理想に燃える熱血漢(演義)、関羽は堅物、張飛は暴れん坊ってな具合にな。
俺たちもそうだった。大徳劉備さん的ポジたる俺は皆の頼れるリーダーで高橋は血の気の多いヤンキー。
じゃあ鈴木はどうだろう? 三人の中で一番顔面偏差値が高いイケメン枠? 眼鏡をかけてたし真面目系のイケメンかな?
印象だけで言えばそうなるが実際は……ちょいと違った。真面目なとこもあるが、実は結構ぶっ飛んだ奴なのだ。
や、ぶっ飛んだ野郎ってんなら高橋もそうだがね。というかぶっ飛んでなきゃ混沌だの秩序だの極端な世界を望まんわ。
……鈴木の話に戻ろう。
鬼咲に口説かれて真世界の面子になったとかいうぶっ飛んだ話ではない。
そういう笑えないエピより笑えるエピを紹介させてくれ。
何時だったかな。互助会から討伐依頼を受けて屑どもを潰しに行ったんだ。
殴り込む前の下調べで連中が良い感じに燃えそうな拠点持ちだと判明。
俺と高橋は「火が観たいわ! 盛大に燃える屑を観せてちょうだい!」ってな具合でキャッキャしてた。
『……放火はもう、やめにしないかな?』
しかしそこで鈴木が待ったをかけたのだ。
嫌いに、なっちゃったの……? と俺は少女漫画チックに困惑。
ヤカラの高橋は柄の悪さを全開にして鈴木に食ってかかった。
『あ゛ぁ゛? なぁに良い子ぶってんだテメェはよォ』
『いや、そういうことじゃなくてさ』
鈴木はあくまで冷静だった。
『あのさ、それがどれだけ好きな食べ物であっても同じ物ばっかり食べてたら身体に悪いだろう?』
『それはまあ……そうね。うちの親父、若い頃に毎日カレー食ってて身体壊したらしいし』
『つまりテメェは何が言いてえんだよ鈴木~』
すると鈴木は意識高い系CEOみてえに身振り手振りを交え語り始めた。
『僕らの心の栄養バランスを整えるために偶には別のことをしようって言ってるんだよ。
チャレンジさ。今こそ僕らは新しい何かに挑戦するべきなんだ。
それはマンネリ打破ってだけじゃない。一度離れることで焼き討ちに対する愛情をより確かなものにするんだよ』
『なるほど。敢えて離れることでそれが掛け替えのないものだったってことに気付くわけだな』
あん時はなるほどとか言ってたが冷静に考えると鈴木、普通に頭おかしい奴だよな。
俺? 俺はおかしくないよ。鈴木の詐欺師みてえなトークに騙された被害者だもん。
ティーンの純情な俺を騙くらかすとか悪い奴だぜ、鈴木。
『しかし鈴木よ。わざわざンなことを言い出したんだ。当然、腹案はあるんだよな?』
『佐藤の言う通りだぜ。既に焼き討ち腹になってたんだ。それを覆そうってんなら相応のもんを差し出してもらわなきゃなぁ』
鈴木はクイッ、と人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げ笑った。
『当然さ。今回は僕の仕切りで行かせてもらうよ』
奴は拠点付近の地図を机に広げ説明を始めた。
『結論から言うと、だ。今回のメニューは水攻め』
『『水攻め~?』』
『ああ。このあたりの地形をよく見て。ここと、ここを崩して……誘導しつつ……』
『お? おぉ……おぉ! なるほど確かにこりゃ面白いことになりそうだ』
結論から言うと鈴木の悪辣な水攻めにより村が一つ、完全に沈んだ。
一応弁護しておくと一般人は巻き込んでない……ってか“一般人は居なかった”と言うべきか。
連中、カモフラのために村民を皆殺しにして入れ替わってたんだわ。
ちなみに後から聞いたんだが鈴木が水攻めを思いついたのは豊臣秀吉の影響らしい。
大河ドラマの影響で秀吉について調べてる時にインスピレーションを得たんだとか。
『次は兵糧攻めとかやってみたいよね』
とは奴の言である。どうしようもねえ。
とまあこんな具合に奴も相応にぶっ飛んでるわけで純粋な真面目系とは言えないことを分かってもらえたと思う。
俺と高橋がイケイケで奴がストッパーを務めることもあれば、逆に鈴木が暴走して俺らが抑えることもあった。
そんな風にトリオは上手いこと機能してたんだが……ずっとは続かなかった。さっきも言ったが鈴木が鬼咲の思想に同調したからだ。
高橋を倒した……倒した? その足で俺は鈴木の下に赴いた。
『やあ』
奴は笑顔で俺を迎えた。まるで待ち合わせ場所に来た友人に声をかけるような気楽さだ。
鈴木はやって来た俺にコーヒーを投げ渡した。
俺が大好きな銘柄だ。ゲロ甘くて高橋からも鈴木からも不評だった。
『今日は良い天気だねえ』
自分のコーヒーに口をつけながら何でもないようにそう切り出した。
分かっていたはずだ。これが最後になると。
どっちかの死でしかもう、俺たちの関係に終止符は打てないと。
なのに――――いや、だからこそなのかもな。
俺たちの関係に
そしてこうして向き合っている
これからの未来に俺は居ないけど、友であったことは揺るぎない真実であると。
……ぶっちゃけこの時の俺は高橋が女になったショックでセンチ浸ってる余裕はなかったんだがな。
『それじゃあ、始めようか』
『……ああ』
同時にコーヒーを飲み干し缶を投げ捨てる……戦いが始まった。
勝ったのは俺だった。高橋との一戦を経て俺は更に強くなっていた。
そんな俺に高橋と同格の鈴木が勝てようはずがない。
1+1が2になるような……至極当然の結果だった。1+1を=∞にしてしまえるような大番狂わせは起こらなかった。
それを起こしていたのは何時だって俺だったから。
『君になら、良い』
俺に殺されるなら文句はない。正反対の思想に行き着いたのに鈴木は高橋と同じことを言った。
『高橋くんなら腹の底から悔しいけど……まあ納得は出来る』
でも、と鈴木は笑う。
『佐藤くんの手でなら文句なしだ。僕の人生の締め括りとしては上々だろう』
だから殺せと言う。殺さなければみっともなく夢を追い続けるぞと。
しかし、俺は冷静だった。戦いの中で高橋に起きた謎の現象を考え続けていたからだ。
そう、俺は既に後にTS神拳と謳われる奥義を完全に会得していたのだ。
『――――恨んでくれて良い』
その後は語るまでもないだろう。俺と鈴木が会うことは二度となかった。
再度、道が交わることはないと……そう、思っていた。高橋と再会するまでは。
高橋の一件があったからな。正直、期待はあった。何時か鈴木とも会えるんじゃねえかって。
「でも……でも……こんなのってねえだろうがよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ちょ、見てるから! 人見てるから! やめてよ佐藤くん!」
と、止まらん……涙が、涙が……。
「というか君、私のことに気付いてたなかったのなら何だって怪しい誘いに……」
「アホかァ! おめえみてえな美人にあんな誘いかけられたら夢色ワンナイトだ! って思うだろ!?」
「びじ……ワンナ……!? ば、馬鹿! 何を言ってるんだ君は! ……もう、ほんとに」
だってのにまさか、こんな……鈴木、テメェの悪辣さは変わらずってわけかよ!?
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